外の世界は、大人だけでなく子どもにとってもストレスがかかりやすい場です。4~5月は、入園・入学・進級といった大きな環境の変化が訪れ、親子共に見えない緊張や不安を抱えやすい時期でもあります。本連載では、そんな課題への解決策として、どんなに環境が変わっても「ここに帰れば安心できる」と親子で思える「タッチケア習慣」を紹介します。お話を伺うのは、最新刊『 親子が一生モノの「安心」でつながる タッチケアの魔法 』(日経BP)の著者・小堺友美さんと、同書の監修を務めた「タッチ学」の第一人者・山口創教授(桜美林大学)です。『 子供の「脳」は肌にある 』(光文社新書)、『 読めば親子でマインドフルネス 最高に心地よく眠れるお話47 』(日本文芸社)など数多くの著書・監修書を持つ山口さんと、タッチケアの世界的権威ティナ・アレン氏からも学んだ小堺さん。「ふれる力」を知り尽くした二人の対談を通して、わが家を「最高の居場所」に変えるヒントを探ります。対談2回目のテーマは、「今日からできる親子のタッチケア」です。
寝る前10分で「1日の終わり」が変わった
小堺友美さん(以下、小堺) タッチケアの実践ということで、私自身の体験からお話しさせてください。上の子が4歳、下の子が2歳の時に4年間の育休を終えて会社に復職しました。毎日片道2時間弱の通勤で、1日11時間も保育園に預けることになって。朝と夜のわずかな時間しか子どもと過ごせないのに、余裕がなくてイライラしてしまう。子どもに大変な思いをさせているという罪悪感がずっとありました。
山口創さん(以下、山口) 通勤、帰宅、仕事に子育て。親としての顔、社会人としての役割を切り替えながらの毎日は、親御さん自身にも大きなストレスがかかります。親になったんだからできて当たり前……ではまったくないですよね。
小堺 私はその後、タッチケアと出合って、子ども2人に夜寝る前の10分、交互にマッサージするようにしました。毎晩、先にタッチする番を入れ替えるなど、もめないようにルールも決めて(笑)。18時過ぎに保育園から帰宅して、夕飯の支度、食事、お風呂、歯磨き……バタバタとした慌ただしさはまったく変わらなかったんですが、ようやくほっとできる「寝る前10分の過ごし方」を変えてみたんです。
そうしたら短い時間だけど、ちゃんと1対1で子どもと向き合えていると思えて、私自身が救われました。1カ月ほど続けた時、保育園の先生から「この1カ月、お子さんの気持ちがとても安定しています。何か新しいことをしていますか?」と聞かれて。はっきりと効果が表れたことを覚えています。
ゆっくりなでると、神経を通じて脳に「安心」が届く
山口 短時間でも密度の濃い時間を持てるというのがタッチケアのすごくいいところです。長時間べったりしていると、逆にお互いストレスになることもありますから。そして、ふれ方にはちょっとしたコツがあるんですよね。
小堺 体の中心から手足の方へ、あるいは上から下へ、ゆっくりなでてあげると副交感神経が優位になって、落ち着きやすい。1秒間に5センチくらいのスピードがちょうどいいといわれています。ちょうど桜の花びらが、風のない日にひらりと舞い落ちるくらいの速さなんです。
山口 皮膚をゆっくりなでることで、C触覚線維という神経を通じて心地よさや安心感が脳に届いていく。小堺さんの本『親子が一生モノの「安心」でつながる タッチケアの魔法』の中では、この体の仕組みを親子向けタッチに生かした、「ありがとうタッチ」と名付けられたタッチもありますね。
小堺 お子さんの好みに合わせて、頭や腕や脚などを「いっぱい考えてくれてありがとう」「いっぱい動いてくれてありがとう」「鬼ごっこでいっぱい走ってくれてありがとう」なんて言いながら、ゆっくり、ゆっくりなでる。それだけですごくいい1日の終わり方になると思います。
山口 これは鍼灸(しんきゅう)の先生に聞いた話ですけど、血液が流れる速さも大体1秒間に5センチくらいらしい。体の中のリズムと合っているからリラックスできるんでしょうね。
子どもの気持ちを尊重する。量より質を大切に
山口 とはいえ親子でタッチケアをするときに大事なのは、子どもにもふれてほしくないタイミングがあるということです。そこをちゃんとくみ取って、ふれてほしいときにふれてあげましょう。
小堺 あるお母さんが、保育園に行き渋りのある3歳の娘さんにこんなことを言われて驚いたと教えてくれました。お母さんとしては、安心感を持ってもらってから送り出そうと、登園前にマッサージやハグするようにしていたそうなんです。でも、そうしたらある時、その子から「ママと朝ハグすると、余計に行きたくなくなっちゃう」と言われた。
山口 ああ、朝じゃなかったんですね。
小堺 そうなんです。お母さんがびっくりして話を聞いたら、「ママからのタッチは大好きだけど、朝にされるとママのそばにいたくなっちゃう。だから、おうちに帰ってからやってほしい」と。その後は夜寝る前などその子が希望するタイミングでマッサージやハグをするようになったら、気持ちが安定して、行き渋りも良くなったそうです。
スキンシップは量が多ければいいと思われがちですけど、忘れてはいけないのがどんな気持ちでどうふれるか。親はついつい自分のタイミングを優先しがちですけど、子どもに「今、ふれてもいい?」と聞くことが大事。そう聞くこと自体が、相手を1人の人間として尊重することにもつながります。
山口 子どもをよく観察して、ふれ方もタイミングも変えていく。うちは2人娘がいるんですけど、性格もタッチの好みもまったく正反対でした。上の子は触覚的に過敏で、ベタッとふれられるのを嫌がるタイプ。逆に下の子は全身でピトッとくっつく方が好きなタイプ。子育てをしながら本当に一人ひとり違うんだなと実感しました。
小堺 100人の親子がいれば100通りのタッチがある。「この方法が正解」なんてないんですよね。
手でふれるだけがタッチじゃない
小堺 これは山口先生からの学びで、『親子が一生モノの「安心」でつながる タッチケアの魔法』の中でも書いたのですが、手でふれるだけがタッチじゃないんですよね。
山口 そうですね。
小堺 目でも、声でも、心でもふれられる。朝、ちゃんとお互いの目を見て「おはよう」と言う。夜も目を見て「おやすみ」と言う。実はそれすら、忙しい日常では忘れがちだったりしますよね。
山口 今の親御さんは、スマホを見ながら子どもと話していることが多くなっていますよね。悪気はないと思いますし、仕事のやりとりが追いかけてきているのも分かります。ただ子どもは敏感ですから、今、お母さん、お父さんの関心がどこにあるのかをすぐ感じ取ります。
うちの2人の娘はもう大きいですから実感していますが、子どもから「ねえねえ」と話しかけてきて、保育園や幼稚園、小学校、中学校であったことを話してくれる時期は短いです。「ねえねえ」の声が聞こえたら、スマホは一旦、置いてお子さんに目を向けましょう。「ちゃんと自分を見てくれている」と感じられれば、それが子どもの心の栄養になります。
小堺 言葉はごまかせるけど、タッチはごまかせない。心がこもっていなければ子どもにすぐ伝わってしまう。だからこそ、目でも、声でも、手でも、タッチのときには心をそこに置く。今ここにいる子どもに集中する。1日のほんの一瞬でも、それができたら十分だと思うんです。
山口 タッチケアの実践として、もう1つオススメしたいのが子どもからタッチしてもらう方法。ふれられるのが苦手な子には、「お母さんここが凝ってるからトントンしてくれない?」とお願いしてみましょう。親側はもちろん、トントンしている子どもの側にもオキシトシンが分泌されて、お互いに癒やされます。
小堺 それも立派なタッチケアですよね。親子での指相撲や腕相撲だってタッチだし、『読めば親子でマインドフルネス 最高に心地よく眠れるお話47』のような本を、横に並んで体をくっつけながら一緒に読む時間もそう。遊びや日常の中で自然にふれていく。それが、何より安心できるとっておきの時間になったりしますね。
構成/佐口賢作 写真/鈴木愛子
小堺友美(著)、山口創(監修)/日経BP/1760円(税込み)






