仕事には基礎力が必須。そう話すのは、新刊『 降伏論 「できない自分」を受け入れる 』を出版した元プロ野球選手でビジネスコーチの高森勇旗氏と、アイデミー取締役COO(最高執行責任者)でグロービス経営大学院客員准教授の河野英太郎氏の二人。後編の今回は、仕事をする上で基礎力が必須である理由について、話します。

ビジネスパーソンにとっての基礎能力とは何か、高森勇旗氏(左)と河野英太郎氏(右)が対談した(写真:稲垣純也、以下同)
ビジネスパーソンにとっての基礎能力とは何か、高森勇旗氏(左)と河野英太郎氏(右)が対談した(写真:稲垣純也、以下同)
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(前編から読む)

ロープレ1000回が必要な理由

河野英太郎氏(以下、河野):『降伏論』を読んで、高森さんは基礎力を重視される方だと感じました。僕もそういうタイプなのですが、高森さんが基礎力を重視されるようになった背景を教えてください。

<b>河野英太郎(こうの・えいたろう)株式会社アイデミー取締役執行役員COO 株式会社Eight Arrows代表取締役 グロービス経営大学院客員准教授</b><br>1973年、岐阜県生まれ。東京大学文学部卒業。グロービス経営大学院修了(MBA)。電通、アクセンチュアを経て、2002年から2019年までの間、日本アイ・ビー・エムにてコンサルティングサービス、人事部門、専務補佐、若手育成部門長、AIソフトウェア営業部長を歴任。2017年には複業として株式会社Eight Arrowsを創業し、代表取締役に。2019年、AI/DX/GX人材育成最大手の株式会社アイデミーに参画。現在、取締役執行役員COOを務める。
河野英太郎(こうの・えいたろう)株式会社アイデミー取締役執行役員COO 株式会社Eight Arrows代表取締役 グロービス経営大学院客員准教授
1973年、岐阜県生まれ。東京大学文学部卒業。グロービス経営大学院修了(MBA)。電通、アクセンチュアを経て、2002年から2019年までの間、日本アイ・ビー・エムにてコンサルティングサービス、人事部門、専務補佐、若手育成部門長、AIソフトウェア営業部長を歴任。2017年には複業として株式会社Eight Arrowsを創業し、代表取締役に。2019年、AI/DX/GX人材育成最大手の株式会社アイデミーに参画。現在、取締役執行役員COOを務める。
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高森勇旗氏(以下、高森):それはまさにプロ野球でたたき込まれました。僕は昔から弁が立つ方なので、プロになったばかりの頃も「こんな練習は意味がないんじゃないですか」「もっとこうしたらいいんじゃないですか」と意見していましたが、当時のコーチから「お前の言いたいことは分かったから、四の五の言わずにバット振れ」と指導されていました。それで毎日1200回素振りをしていたんです。炎天下で、両手に付けた手袋は血と汗でびっしゃびしゃ。手袋が血で真っ赤になってくると、バットが握れなくなって、振ると滑って抜けてしまいます。800回ぐらい振った頃には意識がもうろうとしてきて危ないので、さすがにもう終わるかと思うんですが、テーピングで手とバットをぐるぐる巻きにします。コーチは「これでバットが抜けないな、続けよう」と言って、1200回が終わるまでやめさせてくれません。素振りが終わったら、ランニングなどのトレーニングメニューが始まり、夕食後はまた夜間練習です。

河野:すごいですね。

高森:こんな毎日を3カ月ぐらい続けていると、高校生がプロ野球選手に変わります。土台がガッチリできるんですよね。これは、営業職で例えるなら、ロープレを1000回やるようなことでしょう。売れる営業マンはロープレをしっかりやるので、次に自分が話すべきことや、どういうルートでクロージングまで持っていくかなど、考えなくても言葉が出てきます。すると、相手の表情に集中できて、「今興味がないな」といったことが分かります。ロープレが完璧でないと、相手の表情を見る以外に、「次に何を言おう?」と考えなければいけなくなり、意識が分散しますよね。

河野:つまり、何も考えずにできる部分を増やすと、考えてやるべき部分に集中できる。

高森:そうです。経営者は百戦錬磨な方ばかりなので、セールスパーソンが本当のことを言っているのか、詐欺師なのか、言葉の揺らぎですぐ見抜きます。でも、ロープレを1000回ぐらいやっていると、揺らぎようがないんです。例えば、金額を「1億です」と提示するときも相手の表情を観察していられます。ビビったり、内心「高いな」と考えながら言ったりしません。やっぱり1000回ぐらいやらないと、そのレベルにはなれないと思います。だから、「なんでロープレやるんですか?」と言う人にも、とりあえず1回やってもらって、ビデオを撮って見せるわけです。「どう、この人から物を買う?」と聞くと、大体「買いません……」と言っていますね。

河野:僕は大学時代に水泳部の主将をやっていて、水泳に打ち込んできましたが、やっぱり1回のレースで課題を3つクリアしようと思っても絶対できませんでした。それと同じですね。1つの課題を完璧にクリアしてから、次の課題に進めます。それにしても、素振り1200回はすごすぎます。

指導者は忍耐が必要

河野:素振り1200回の指導をした師匠もそうですが、初期の指導者ってとても重要です。

どんな上司がいいのか話す高森氏(左)と河野氏(右)
どんな上司がいいのか話す高森氏(左)と河野氏(右)
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高森:そうですね。高卒ルーキーでプロに入ってきた人たちは、コーチングが通用しません。なぜなら、「どうやったらうまくいくと思うか」「何を求めていて、どうなりたいのか」「何が課題で、どんなトレーニングを積んだらよいか」と聞かれても、引き出しがないため分からないからです。だから、強制的にやらせることが重要なことが多いです。社会人も同じで、最初は「どのようにしてパフォーマンスを上げるか?」と言われても分からないので、厳しい上司に愛を持って指導してもらって数をこなすと、「当時は嫌だったけど今振り返るとやってよかった」となるはすです。

河野:本当にそう思います。僕も、20年後ぐらいに、後輩から「あのとき河野さんが言っていたことは、単なるおじさんの愚痴ではなかったんだ」と思ってもらえる何かを残したいと、ずっと考えていますね。

高森:いい上司というのは、指導に愛があり、本当にその人の成長を願っているはすです。

河野:「俺が言った通りにやらせたい」と考えて指導している人と、本当に成長を願って指導している人って、社会人1年目だと区別するのが難しい。成長を願って指導しても、誤解されることがあるかもしれない。だから、指導する側にも忍耐が必要だと感じます。

高森:中には厳しい指導もあるかもしれませんが、若いうちに体力の限界までやっておくと、後でとてもいいことが起こるという感覚があります。20代のうち、体が動くうちは、ワークライフバランスよりは、ワークアンドワークでいいと思っています。

仕事は「なぜやるのか」を考える

河野:高森さんは、目的に対して合理性を追求していますよね。高校時代から、「何のために、何をやるか」という思考を持っていたんですか?

高森:めちゃくちゃ持っていました。

目的に対する合理性について話す高森氏
目的に対する合理性について話す高森氏
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河野:一方僕はというと、目的に対する合理性は、社会人になってから身につきました。大学時代は体育会系な水泳部だったので、余計なことをたくさんやらなければいけなかったんです。典型的なのは、カッパ踊り。学園祭で、カッパの格好をして踊らなければいけないんですが、なぜやるのかは分からないんです。飲み会では飲まなければいけない。先輩に「なんで飲むんですか」と聞いたことがありますが、「飲まなきゃ吐けないだろ。そして吐かないと次飲めないじゃん」と言われました……。典型的な日本社会の縮図が、水泳部を代表とする体育会組織にあったのかなとも思います。昔は高度経済成長期で、「いいからやれ」と言われた通りにやることは、日本社会の会社を回すために機能していたのでしょう。

高森:なるほど。

河野:でも、僕が大学を卒業する頃に、大手金融機関が連鎖的に経営破綻するなど、経済が今までとは違う状況になってきて、変わらなければいけないタイミングが来ていました。「変わらなければ」「いいからやれ、に従うままではいけないんだ」と思いつつ、当時、それ以上の答えは出ませんでしたね。

高森:そして新卒で電通に入社して、辞められていますね。

河野:はい、僕は電通を3カ月で辞めています。僕は岐阜県出身で、大学に行くために東京に出てきて、世界を相手に仕事をしたいと思って電通に入社しました。しかし、最初の所属が名古屋だったので「戻された」と思ったんですよね。上司に「名古屋は嫌です」と伝えたら、「サラリーマンは従うものだ」と言われました。その言葉に違和感を抱いて、「それならサラリーマンを辞めます」とすぐに辞めてしまった。その後、アクセンチュアに入社して、最初に資料を作ったときに、先輩から「お前これ考えて作ったか?」と聞かれました。そのとき実は「どうして仕事で考えなければいけないんだろう?」と思ったんです。「いいからやれ」と言われることに違和感はあったものの、それに対する解決策は持っていなかった。この時はまだ、仕事は心と体でやるものだと思い込んでいたんです。

高森:そうだったんですね。

河野:だから、高森さんが、高校生の頃から「何のために、何をやるか」という思考を持っていたのはすごいなと思うんですよ。

高森:その思考を持っていた理由のひとつは、キャッチャーだったからかもしれません。キャッチャーをやっていると、ある程度までの因果関係は説明できるんです。こういう配球になったらどうか、打たれたら次はこうなる、もっとこうすればよかった、といった感じで、一球ごとに仮説・実証・フィードバックが素早く行われます。

河野:少年時代からずっとキャッチャーですか?

高森:キャッチャーしかやったことないです。

河野:それで目的に対する合理性が磨かれていったのでしょうね。僕はその後アクセンチュアで、「Why・Becauseで積み上げるのが仕事だろ」と言われて、そこから現在のような考え方に至っています。

構成/梶塚美帆(ミアキス) 写真/稲垣純也

「うまくいかない」「結果が出ない」「ついてない」。これらは、すべてあなたの「決定」の結果である。大切なのは、「いつもやっている行動」を色々な物理的な仕組みで(本書にさまざまな方法を掲載)変えること。この本に載っていることをやってみると、それまでとは違う人生に変わるだろう。いつもと違う選択をする“だけ”で、これまでとは違った景色を見ることができる。

高森勇旗(著)、日経BP、1760円(税込み)