2024年で3年目を迎えた、秋の読書推進月間「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT 2024」キャンペーン。10月24日のオープニングイベント(東京都新宿区の紀伊國屋ホールで開催)では、特別イベントとして、『絵本 うたうからだのふしぎ』の著者で、慶応義塾大学教授の川原繁人さんと、ミュージシャンでゴスペラーズの北山陽一さんのトークイベントが行われた。定員300人で満員の会場ではミニ演奏会も開かれた。
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川原繁人氏、北山陽一氏が登壇
本に関わる人たちが一丸となって読書の秋を盛り上げる、秋の読書推進月間「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT 2024」キャンペーンが、10月26日から約1カ月間、全国の書店で開かれている。
10月24日にはオープニングイベントが紀伊國屋ホールで開かれ、『絵本 うたうからだのふしぎ』(作:川原繁人、北山陽一/ まんが:牧村久実/講談社/2024年1月刊)を上梓(じょうし)した、音声学者で慶応義塾大学教授の川原繁人さんと、ミュージシャンでゴスペラーズの北山陽一さんのトークイベントが行われた。
会場では、本書の内容をより深く楽しむために、北山さんが作詞作曲した歌を、北山さんの仲間たち(Rabbit Cat、アカペラ研究所の皆さん)も参加して披露された。この歌は、紙の本だけについている2次元コードから聴くことができるが、生で歌うのは初めてとのこと。
今回は、川原さんと北山さんのトークイベントの内容を対談形式で紹介する。
「すごく変な先生がいる」
北山陽一さん(以下、北山) 僕はコロナ禍の2021年に、母校、慶応義塾大学の大学院を受験したんですね。今は休学中ですが、政策・メディア研究科の修士課程2年生に籍を置いています。
入学したてのときに、何か面白い授業がないかと思っていろんな人に聞いたら、数人から「川原繁人教授っていう、すごく変な先生がいるから履修したほうがいいよ」って言われまして。僕自身、変だという自覚がありますし、だからか変な人のことが大好きなんです(笑)。それで川原先生の授業について調べたら、授業名は「言語学特殊」。これは名前からして面白いに違いない、と思って履修登録したのが、先生と出会ったきっかけです。
ミュージシャン、慶応義塾大学環境情報学部特別招聘教授
川原繁人さん(以下、川原) あのときはオンライン授業だったから、しばらくゴスペラーズの北山さんとは分からず……。分かったとき、もぉ早く言ってよ~! って感じでしたね。それまでえらそうに「北山くん」とか呼んじゃってて、質問してくれたら「いい質問だね、北山くん」とか答えた覚えもありますね(笑)。
北山 僕としては、成績がついてから素性を明かすつもりでいたんです。それで、ミュージシャンとして先生の研究についてもっと知りたいということを伝えて、弟子入りするつもりでした。僕自身がそうだったように、先生が言ってることを聞くだけで、歌に関する悩みが解決して、声を出しやすくなるミュージシャンがいると思ったからです。
アナウンサーや声優など、声を発することを職業にしている人、それから日常生活で、声が小さいとか聞き取りづらいとか言われたことがある人も例外ではないでしょう。そういう悩みに対して、こうすればいいんだよ、と教えてくれるのが川原先生で、明解な答えを持っている人だと分かったときは衝撃を受けました。
川原 音声学はマイナーな学問で、10年来「お前のその研究は何の役に立つんだ?」と言われ続けてきただけに、北山さんにそう言ってもらえて本当にうれしかったんです。しかも、やりたいことが一致していることが分かって、共同プロジェクトを始めることに。そのうちの一つが『絵本 うたうからだのふしぎ』という形で結実したわけです。そして今、秋の読書推進月間「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT 2024」の記念イベントとして紀伊國屋ホールに登壇している、と。感無量としか言えません。
慶応義塾大学言語文化研究所教授
息や音という目に見えないものを描いた絵本
川原 かなりおおまかな説明になりますが、人の声というのは、体に取り込まれた空気が、肺から押し出されて、声帯というヒダを振動させることで音になります。そのプロセスを絵で伝えるには、空気、振動、音という目には見えないものを描かなければなりません。肺や声帯など、体の内部も描く必要があります。もっとも、描いてくださったのは漫画家・イラストレーターの牧村久実さんで、私たちはアイデアを出しただけですが。
北山 牧村さんの素晴らしい画力がなければこの本は形になりませんでした。彼女の絵は、下絵の段階から完璧で何も注文することがなかったんですよね。後から聞いたら、ものすごい量の調べ物をしてくださったそうです。ただ受け取った情報を絵にするだけではなく、その背景にあることも深く追求してストーリーに仕上げてくださった、と。
川原 かわいいのに、科学的な厳密性が損なわれていないんですよね。補足説明のページに入る人体解剖図までかわいいんです!
北山 人体解剖図を描くことに、特に苦心されたようです。担当編集さんによると、牧村さんは「私、漫画家になって長いんですけど、横隔膜(おうかくまく)とか肋骨(ろっこつ)とか、喉の奥にある外側輪状披裂筋(がいそくりんじょうひれつきん)とか甲状軟骨とか初めて描きました」とおっしゃっていた、と。リアルだけど、気持ち悪く見えないようにするのが大変だったようです。本当に、お手数をおかけしました。
声を出すことは奇跡のよう
川原 外側輪状披裂筋も甲状軟骨も、声を出すのに必要不可欠な部位ですが、その存在を意識して声を出している人はまずいないと思います。声は、息を吐くときの副産物である、ということもあまり知られていないかもしれません。
言うまでもなく、人体にとって重要なのは、声を出すことより、生きるために空気を吸って吐くことです。でも、人間は、その吐いた息を使って声を出すというコミュニケーション手段を進化させてきました。いわば、息のリサイクル。そんなことができる人間って、つくづくすごいなぁと思うんです。
北山 川原先生となかよくなったとき、先生が目をキラキラさせながら「北山さん、人が歌うってことがどれだけ奇跡なのか分かりますか?」とおっしゃっていたんです。低音と高音は体の中のどこで変化させているのか、体の微細な動きによって声が変わること、人間は素晴らしい楽器であること……etc。僕は歌を仕事にしているので、奇跡と言われて気恥ずかしかったんですが、歌う以前に、声を出すこと自体、奇跡のようにすごいことだとそのとき初めて知って、とても感動しました。
川原 声を出すことだけでなく、その声が相手の耳に届くことも、これまたすごいことなんです。なぜ届くのかというと、人と人の間に存在する空気が振動するおかげですが、振動としてはとても弱い力です。もし強い力で振動したら、声を出すたびに自分も相手も肌がビリビリするような刺激を感じて、苦痛ですよね。そうはならないで、肌は刺激しないけど、耳の中に入るとちゃんと増幅されて、そこで音として聞こえる。そんな絶妙なバランスを自然と保ててしまう人間って、やっぱりすごい!
もし、つらいことがあって落ち込んだり、不用意に周囲と比べて劣等感を感じてしまったりしたら、声を出せる素晴らしさ、その声を人に伝えられる素晴らしさを思い出してください。自信回復のきっかけになって、安心して本来の自分に戻れると思います。
取材・文:茅島奈緒深 撮影:尾関祐治




