介護未満の父に起きたこと 』(新潮社)著者のジェーン・スーさんと、『 家族みんなが楽になる!親にスマホをもっと使ってもらう本 』(日経BP)の著者の増田由紀さんによる対談第4回。今回のテーマは、「事前にしておくと安心なこと」です。いつ、何がきっかけで要支援や要介護の状態になるかは分かりません。ともに80代後半の親を持つお二人に、ご自身の経験を振り返りながら話してもらいます。

左:増田由紀さん、右:ジェーン・スーさん
左:増田由紀さん、右:ジェーン・スーさん
画像のクリックで拡大表示

要介護になる前に、地域包括支援センターに電話する

前回は、親と同居していないからこそできるサポートについてお話しいただきました。今回は、要支援や要介護となる「前」にしておきたい準備についてお聞きします。「これをしておくと安心」ということはありますか?

ジェーン・スーさん(以下、スー) 私は、父が住んでいる地域包括支援センター(高齢者の介護や福祉、医療、生活全般に関する総合相談窓口)に電話をして、支援や介護サービスの内容はどうなっているか、介護認定を受けるにはどうしたらいいか、時間はどのくらいかかるのか、といったことを聞きました。具体的に、80代の父が一人暮らしをしていて、支援や介護のサービスを受けたいと思っているが、どういう状態になったらサービスの申請をするといいのか、ということも聞きました。その際、フレイルという、加齢によって心身のさまざまな機能が衰えて疲れやすくなる症状などについて書かれた資料を送ってもらって、安心したことを覚えています。

ジェーン・スー
1973年東京生まれの日本人。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』(毎週月~木曜 午前11時~)のメインパーソナリティを担当。ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』(毎週金曜配信)『となりの雑談』(毎週火曜配信)のパーソナリティも担当している。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で、第31回・講談社エッセイ賞を受賞。近著に『介護未満の父に起きたこと』(新潮社)、『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)、『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』(光文社)。

増田由紀さん(以下、増田) 介護保険は国の制度なので全国共通ですが、自治体ごとに独自の支援策や介護サービスがあると聞きます。自分の居住地ではなく、親の居住地の地域包括支援センターに問い合わせることがポイントですね。

増田 由紀
2000年から千葉県浦安市でシニアのためのスマホ・パソコン教室を運営、2020年より完全オンライン教室に移行。「“知る”を楽しむ」をコンセプトに、これまで1万5000人を超えるシニア世代に、スマホの魅力と使い方を指導。シニア世代でもわかりやすいスマホの解説には定評があり、自治体や企業主催のセミナーで講師を務めるほか、新聞や雑誌でも活躍中。著書に『世界一簡単!70歳からのスマホの使いこなし術』(アスコム)『いちばんやさしい 70代からのiPhone』(日経BP)などがある。

スー 私は電話で問い合わせて介護認定を受けるための手続きを送ってもらいましたが、わざわざセンターに足を運ばなくても事は足りると思います。この先、父の老化が進んだらどういう状態になるんだろう、という漠然とした不安に対する答えを得られたのもよかったです。

増田 実際に利用するかしないかは別の話として、漠然とした不安が解消するのなら、問い合わせてみる価値は高いですよね。うちの両親は近くに住んでいて、まだ要支援の段階ではありませんが、転ばぬ先の杖として、問い合わせておこうと思います。

介護経験がある人は身近にいるが、言わないだけ

スー 地域包括支援センターから届いた資料は、介護初心者には少し難解な内容なんですね。何とか読解を試みたものの専門用語が多くて目が滑ってしまって。そこで私は介護経験がある友達に連絡して、分からないことを教えてもらいました。同世代なら、たいてい身近に介護経験者がいます。自ら進んで話題にしないだけで、聞いてみると「実は、うちもね……」というケースが多い。みんな、同じような悩みを抱えているものです。

「話題にしないだけで、聞いてみると介護経験がある人は身近にいます」
「話題にしないだけで、聞いてみると介護経験がある人は身近にいます」
画像のクリックで拡大表示

増田 私は、スーさんの『 介護未満の父に起きたこと 』を読んで、自分の親の行く末について予習をできた気がします。80代後半で、高齢になれば仕方ないことだと分かっていても、親の足元がおぼつかなくてよろけたりするのを見ると、何だか悲しくなるものです。これまでに抱いたことのない感情で、「人間って、こうやって枯れていくのか」と気持ちが沈んでしまったりもして。そこで思考停止しがちでしたが、その先に待っていることをイメージできました。

スー 私は24歳だったときに、母をがんで亡くしているんですね。母は、自らの命をもって、人はどのように弱って死んでいくのかを見せてくれました。それを踏まえると、親が弱っていく姿を見るのは、父で2度目になります。だから、まだ大丈夫だな、とか、逆にこれは要注意の兆候だな、というふうに思える。その点で、母に感謝しています。

 もっとも、父は88歳にしては元気です。8月下旬に、病院の定期診察中に軽い脳梗塞を起こしたのですが、発症から30分で処置してもらえたという強運の持ち主で、まひした部位は3時間で動くようになりました。気がかりなのは年々痩せて、体重が元に戻らないことぐらいです。

増田 お父さん、食欲はありますか?

スー 父本人としては食欲があって、一緒に食事をするときはしっかり食べるんですが、毎食同じ量を食べることはできないようです。

増田 うちの父も年々目に見えて痩せていくので、心配するお気持ちがよく分かります。両親は近所に住んでいて、顔を出すたびに「食欲ある? ちゃんと食べてる?」と聞くので、迷惑がられています。「ちゃんと食べてるよ」という返答を聞いて安心する、というやり取りを何度したことか。

スー 自分では食べてるつもりでも、足りないことがあるんですよね。私は「食べてる?」と聞いて「食べてる」と答えるのを、うのみにしないようにしています。

増田 確かに……。もしちゃんと食べていたら、目に見えて痩せるはずがありませんもんね。スーさんがされていたように、私も食事の写真を送ってもらうようにしようかしら。

スー 自分のほうから先に、食事の写真を送るといいきっかけになりますよ。「今日はこんなものを作って食べたよ」とか、「取材先でもらったお弁当がおいしかった」とか。お互いに送り合うようにすればコミュニケーションのきっかけになるので、親にとっても楽しみになり得ると思います。

重要なのはコミュニケーションの内容よりも「密度」

「毎日でなくても定期的に、連絡をするようにしたいですね」
「毎日でなくても定期的に、連絡をするようにしたいですね」
画像のクリックで拡大表示

増田 親とは、まめに連絡を取るように気を付けています。使うツールは主にLINEで、やり取りをすることで自然と使い方を覚えてもらえますしね。知り合いで、親とLINEでつながったものの、あまりやり取りしないままになってしまって、後悔している人がいるんです。日々の忙しさに追われて後回しにしたくなる気持ちも分かりますが、毎日でなくても定期的に、1週間に1回、少なくとも1カ月に1回は必ず連絡するようにしたいですね。

 ポイントは、「こちらがメッセージを送ると、ちゃんと返事が返ってくる」という、打てば響く関係にすること。「送ったけど何も返ってこない」という状況が長く続かないようにするのが肝心です。こうした関係を作るには、子どものほうから働きかけてあげるべきだと思います。

スー 「便りがないのは良い便り」と言っていられるのはある段階まで、ですからね。放置しっぱなしは危険で、命取りになりかねません。やり取りの内容なんて、なくていいんです。「おはよう」と一言挨拶を交わし合うだけでもいいです。

増田 重要なのは、コミュニケーションの内容ではなく、密度ですよね。コミュニケーションの密度が、異変察知センサーになります。「いつもより返信が遅いけど何かあったのか?」と。逆に、親のほうからの連絡が増えた場合も、何かあったのかと察することができます。

スー 連絡の頻度が上がるのも、アラートです。うちは父と毎日やり取りしていますが、何の問題もないときは素っ気ない返信しかきません。だから、1日に何度もLINEがくると、心配事や不安に思うことがあるんだろうな、と気付けるわけです。

増田 定期的にやり取りしているからこそ、気付ける異変ですね。

スー 連絡のペースが、長過ぎるのも、短過ぎるのも異変。それに気付くためにはログが必要で、あらゆる履歴や写真を残せるログの宝庫のようなスマホは、本当に手放せません。自分の記憶だけでは、以前はどうだったかを正確には思い出せないものですから。

増田 そうですよね、スマホは単なる連絡手段ではなくて、日々の変化に気付くための記録手段でもあります。

(第5回に続く)

取材・文/茅島奈緒深 構成/西 倫英(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか

ジェーン・スー×増田由紀 「介護未満」の親とどう向き合うか
第1回 ジェーン・スー×増田由紀 介護未満の親の定点観測 見守りと介入の境界線
第2回 ジェーン・スー×増田由紀 親を一度「他人化」する 介護のちょうどいい距離
第3回 高齢の父に「監獄みたいだ」と言われて気づいたこと ジェーン・スー×増田由紀
第4回 介護未満の親の異変に気づけるスマホでのやり取り ジェーン・スー×増田由紀 ← 今はここ
第5回 親の介護は女性の仕事ではない ITで負担を減らす ジェーン・スー×増田由紀 ← 9/25公開予定
スマホの教え方にも、コツがある

帰省のお供に! スマホに苦手意識があるシニア世代を、家族の立場から支えるプロのサポート術を紹介。実際に教室であった「あるある」なエピソードをもとに、スマホを使うのが楽になるポイントを解説します。

増田由紀著/日経BP/1870円(税込み)