2024年で3年目を迎えた秋の読書推進月間「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT 2024」の目玉イベントの一つとして、出版業界の可能性を探る「ものがたりの未来」というスペシャル対談が行われた。対談者は「小説を音楽にするユニット」として人気があるYOASOBIのプロデューサー、ソニー・ミュージックエンタテインメント“Echoes”の屋代陽平さんと、「出版甲子園」という日本で唯一商業出版を実現する大学生サークルに所属するメンバー・原田優花さん、古谷あかりさん。今回は、その前半の内容をお届けする。

「秋の読書推進月間」スペシャル対談「ものがたりの未来」が東京の神田明神ホールで行われた。写真左から順に、未来読書研究所・共同代表の田口幹人さん。「YOASOBI」をプロデュースする、ソニー・ミュージックエンタテインメント“Echoes”プロデューサーの屋代陽平さん。早稲田大学公認サークル「出版甲子園」に所属する、東京大学前期教養学部文科三類2年の原田優花さんと、千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科3年の古谷あかりさん
「秋の読書推進月間」スペシャル対談「ものがたりの未来」が東京の神田明神ホールで行われた。写真左から順に、未来読書研究所・共同代表の田口幹人さん。「YOASOBI」をプロデュースする、ソニー・ミュージックエンタテインメント“Echoes”プロデューサーの屋代陽平さん。早稲田大学公認サークル「出版甲子園」に所属する、東京大学前期教養学部文科三類2年の原田優花さんと、千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科3年の古谷あかりさん
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スペシャル対談「ものがたりの未来」

 本に関わる人たちが一丸となって読書の秋を盛り上げる、秋の読書推進月間「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT 2024」が、2024年10月26日から11月24日まで、全国の書店で開催された。3年目を迎えたキャンペーンで、今年は100以上の関連イベントが各地で開催された。

 中でも目玉イベントの一つとして注目度が高かったのが、11月5日に東京・神田明神ホールで行われたスペシャル対談「ものがたりの未来」だ。対談者は「小説を音楽にするユニット」として人気があるYOASOBIのプロデューサー、ソニー・ミュージックエンタテインメント“Echoes”の屋代陽平さんと、出版甲子園という日本で唯一商業出版を実現する大学生サークルに所属する原田優花さん、古谷あかりさん。

 ファシリテーターとして未来読書研究所・共同代表の田口幹人さんも登壇し、出版業界の可能性を探る「ものがたりの未来」というテーマで意見交換が交わされた。今回は、その前半の内容をお届けする。

「本屋」「書店」の定義がどんどん変わる

田口幹人さん(以下、田口) 僕は岩手県の小さな町の本屋に生まれて、社会に出てからもずっと書店勤務や書店の企画・運営、流通などに携わっています。並行して、約20年にわたって全国の小学校で読書教育もやっています。

 今年も北海道から与那国島まで行って、子どもたちと本を介してたくさん話をしてきました。世間では読書離れだ、本屋離れだと言われ、出版イベントとなると、書店数が激減していることなど後ろ向きな内容になりがちです。でも、実はそうとも限らないんだよな、という話をちょっとさせてください。

ファシリテーターの未来読書研究所・共同代表の田口幹人さん
ファシリテーターの未来読書研究所・共同代表の田口幹人さん
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 現在、出版業界は、書店と出版社を中心とする「大きな出版業界」と、カフェなどの異業種を兼ねた書店や棚貸し書店などの「小さな出版界隈(かいわい)」というものに分けられます。大きな出版業界の現状は確かに厳しく、市場規模は2018年比で87%に縮小しています。一方の小さな出版界隈はすごく増えていて、市場規模は2018年比で142.6%に拡大。2024年はおよそ170%の進捗率になっています。

 おそらく、今後も本屋の定義や在り方は、どんどん変わっていくだろうと思います。それを指し示すような存在が、今回の対談される方々です。一体、どのように本というものを捉えて世に送り出しているのでしょうか。まずは、ソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代陽平さんからお話しください。

音楽会社の強みを生かして差別化を図る

屋代陽平さん(以下、屋代) 私は2012年にソニー・ミュージックグループに新卒入社して、2017年に新規事業として「monogatary.com(モノガタリードットコム)」という小説の投稿サイトを立ち上げました。ユーザーはどなたでも無料で自分の作品を投稿でき、読む場合も無料であらゆる作品を読むことができます。

 サイトの特徴は、毎日午前12時にお題が出る点で、ユーザーにはお題に沿って作品を投稿してもらっています。加えて、いろんなコンテストを実施していて、そのコンテストで高評価を得た作品を楽曲化や映像化する、というのが基本コンセプトになっています。そして実際、2019年に投稿作品をもとに楽曲制作を行う「小説を音楽にするユニット」のYOASOBIが誕生しました。彼らがこれまでに出したデジタルシングル曲は26曲あり、すべてに小説の原作があります。

YOASOBIのプロデューサー、ソニー・ミュージックエンタテインメント“Echoes”の屋代陽平さん
YOASOBIのプロデューサー、ソニー・ミュージックエンタテインメント“Echoes”の屋代陽平さん
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田口 音楽会社なのになぜ小説の投稿サイトを? と思う人もいるかもしれませんが、ソニー・ミュージックはかつて、ソニー・マガジンズという出版社を持っていて、様々な雑誌や書籍を出版していました。現在はアニメ作品の企画・プロデュースを手掛けるアニプレックスも運営しています。脈々と、音楽と出版や映像をつなぐ文化がある会社なんですよね。

屋代 小説も音楽も映像も、エンターテインメントという大きなくくりの中では同列なものとして考えられると思います。ただ、ご存じの通り、この世に小説投稿サイトは多く、数えたら100個ほどもあるんです。ユーザー数がすごく多くて活況なところから、なかなか厳しいところまであるなかで、私どもが2017年に小説投稿サイトを始めたのはすでに後発のタイミングでした。早々に、ほかとの差別化が課題に上がり、音楽会社だから音楽制作に関しては優位性があるだろう、ということから、小説を原作にした楽曲を作ろう、という発想に結びついたわけです。

 小説投稿サイトは、当たり前ですが、書き手がいないと始まりません。が、書き手は読み手がいないと書きません。特に弊社のような音楽会社が小説サイトを始めても、投稿する明確なメリットを感じてもらいにくく、最初の1、2年は読み手が増えないから書くのをやめるという書き手がたくさんいました。そこから、書き手と読み手の両方を増やすための試作を重ね、YOASOBI人気と相まって、ユーザー数が増えていきました。新たに、ネットカルチャーをバックグラウンドに持つアーティストやクリエイターも誕生しています。

プロではないからこそ読者視点を生かせる

田口 本という物理的な形にこだわらないで、作品を作りたい人たちから物語を募り、それを楽曲や映像につなげて世に送り出す「monogatary.com」の仕組みは、目を見張るばかりです。では、出版甲子園さんがどのようにして本を世に送り出しているのかをお話しください。

出版甲子園・原田優花さん、古谷あかりさん(以下、原田、古谷) 私たちが所属している出版甲子園は、2005年に設立された早稲田大学の公認サークルの一つで、学生の、学生による、学生のための出版コンペティションを開催しています。学生とは小学生から大学生、大学院生までを指し、これまでに商業出版したことがない方から本にしたい企画を募集します。ジャンルはノンフィクションや実用系に特化していて、小説や絵本などの文芸作品は扱っていません。

日本で唯一、商業出版をサポートする学生サークル「出版甲子園」の2人(東京大学前期教養学部文科三類2年の原田優花さん[写真左]と、千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科3年の古谷あかりさん[写真右])
日本で唯一、商業出版をサポートする学生サークル「出版甲子園」の2人(東京大学前期教養学部文科三類2年の原田優花さん[写真左]と、千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科3年の古谷あかりさん[写真右])
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 集まった企画は、私たちが1次~3次まで審査を重ねて精査し、残った企画者のみ、年1回開催の大会に進めます。大会には、書店や出版社に勤務される約20名にも参加してもらい、企画者本人は彼らの前でプレゼンします。そして、オファーがあったら商業出版を果たすことができる、という流れになっています。

 大会を通じてこれまでに43冊が出ていて(2024年7月31日時点)、直近の例を挙げると『JK、インドで常識ぶっ壊される』(熊谷はるか著/河出書房新社)、『呪いを、科学する』(中川朝子著/ディスカヴァー携書)、『小学校は公立小! 帰国子女じゃないけど 双子小学生 英検1級とれちゃいました』(トワエモア著/日本能率協会マネジメントセンター)、『行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも“つい”やってしまう不合理な選択』(今泉拓著/日本実業出版社)になります。

田口 日本で唯一、商業出版をサポートする学生サークルなんですよね。

原田、古谷 はい、そうです。ただ、どんなに本好きでも全員学生で、出版業界のことをよく分かっていません。きっと、書店や出版社に勤務される方が見たら、首をかしげることが多々あると思います。でも、その素人ならではの立場を生かして、企画を審査するときは読者目線を忘れないようにしています。どんなに面白そうな企画でも、企画者がやりたいことだけになっていたり、マニアックで独り善がりな内容になっていたりすると、読者の興味は引いてしまい、読む気をなくしかねません。そういう企画になっていないかどうかに留意して、考察するようにしています。

田口 出版業界のことを熟知していればいい本を作れるというわけではないので、よく分からなくていいんです。学生という立場をどんどん生かしてください。

 僕は自著『まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す』(ポプラ文庫)の中で、こう書いています。「自分のフィルターを通じて本を誰かに手渡す人をすべて本屋と呼びたい」と。これに当てはめると、出版甲子園のお2人も、屋代さんも、本屋さんだと思います。

(後編に続く)

取材・文/茅島奈緒深 写真/尾関祐治