「美しい装丁や、中で使われている写真や挿絵をじっくり見ることができるのは紙の本ならではの魅力」。秋の読書推進月間「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT 2024」のスペシャル対談「ものがたりの未来」には、「小説を音楽にするユニット」YOASOBIのプロデューサー、ソニー・ミュージックエンタテインメント“Echoes”の屋代陽平さんと、「出版甲子園」という日本で唯一商業出版を実現する大学生サークルに所属する原田優花さんと古谷あかりさん、ファシリテーターとして未来読書研究所・共同代表の田口幹人さんが登壇。今回はその後半の内容をお届けする。

前編 「<秋の読書推進月間>屋代陽平『音楽会社の強みを生かし差別化』」

写真左から順に、「YOASOBI」をプロデュースする、ソニー・ミュージックエンタテインメント“Echoes”プロデューサーの屋代陽平さん。早稲田大学公認サークル「出版甲子園」に所属する、東京大学前期教養学部文科三類2年の原田優花さんと、千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科3年の古谷あかりさん
写真左から順に、「YOASOBI」をプロデュースする、ソニー・ミュージックエンタテインメント“Echoes”プロデューサーの屋代陽平さん。早稲田大学公認サークル「出版甲子園」に所属する、東京大学前期教養学部文科三類2年の原田優花さんと、千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科3年の古谷あかりさん
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一億総作り手時代のカギは熱量

田口幹人さん(以下、田口) SNS(交流サイト)が普及したことで誰もが自分を表現する場を持て、一億総作り手時代ともいわれています。新しい作品がどんどん生まれていくのは非常にいいことだと思いますが、なかなかビジネスチャンスにつながらない現実もあります。出版社から書籍化できるハードルも依然として高いままでしょう。どうするとチャンスにつながるのか、どういうところにチャンスはあるのか、ということについてお話ししていただければと思います。

屋代陽平さん(以下、屋代) ソニー・ミュージックエンタテインメントの小説投稿サイト「monogatary.com(モノガタリードットコム)」はウェブ上の無料のプラットフォームなので、そこから商品を作ってマネタイズしないとビジネスとして成立しません。というと強烈に面白い作品や、圧倒的な才能があるクリエイターの発掘に精を出しているのかと思われるかもしれませんが、僕は、優れた作品やクリエイターが生まれやすい場を整えるほうが、価値が長続きすると思っています。

 そうした場にするために欠かせないのは熱量です。100万人がぼんやりいる場所よりも、1万人が熱狂している場所のほうが価値があって、マネタイズしやすい感覚をすでに持っています。「monogatary.com」が目指しているのは、熱量が高い1万人の場所であり続けることです。そういう場から生まれた作品はもちろん、作品のファンになる人たちの熱量も高く、その分、友人や家族にも伝播(でんぱ)して広がりやすいことが考えられます。結果、最初の1万人が10万人になって、100万人になっていくのではないか、と。

 あらかじめマスメディアが大々的に宣伝をして、熱量の高い場を作る方法もありますが、そうではなくて、熱量がある小さな場をまず作り、そこを起点に広げていく方法にも強みがあるかなと思います。

「100万人がぼんやりいる場所よりも、1万人が熱狂している場所のほうが価値があって、マネタイズしやすい」と語る屋代陽平さん
「100万人がぼんやりいる場所よりも、1万人が熱狂している場所のほうが価値があって、マネタイズしやすい」と語る屋代陽平さん
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20代と30代は信頼できる情報を求めて書店へ

田口 「場」つながりで、紹介したいデータが一つあります。楽天ブックスというEC書店があって、そこのユーザーさん約1万人に対して、「本を選ぶときに参考にするものがあれば教えてください」というアンケート(複数回答)をやりました。その結果、なんと「書店」と答えた20代が53.5%、30代は50.1%で、両方の世代で「書店」が1位だったんです。意外なことに、40代、50代、60代の1位が「インターネット検索」でした。全く逆の結果になるのかと思いきや、書店と若い方々の間に新しい接点が生まれていることを知って、出版業界の可能性を感じました。

屋代 おそらく40代以上の人はこれまでの読書経験から、どういう本なら自分の知りたいことや興味を満たせるかが分かっているので、ネット検索で購入を決められるんだと思います。そういうことが、20代と30代はできないわけです。SNSにはフェイクニュースが流れ、何がウソかホントか分からない情報が氾濫(はんらん)しているため、本を購入する決め手になり得ません。だから、社会の中で信頼できる情報を求めて書店に行くのか、と。

 さらに言うと、店頭でフェアをしている本や平積みになっている本、それからポスターやポップなどを見て、今の社会の潮流やキーワードを把握する、という感覚で書店に行く人も多いと思います。そうした信頼に足る情報を入れるために書店に行くというチャネルがあるならば、それをどうやって本の購入につなげるか、ということが課題として見えてきますよね。その課題に対して、書店さんも、僕らのようなウェブサービスにもできることはいっぱいあると思います。オフラインとオンラインが手を取り合って、役割を果たしていく時代なんだろうなと感じています。

若者に人気の“映える読書”は紙の本だから

出版甲子園・原田優花さん、古谷あかりさん(以下、原田、古谷) 私たちは商業出版をサポートするサークルで、あくまでも紙の本を発売することを目標にしています。過去に、紙の本が出版された後に電子書籍化された例はありますが、電子書籍化を目指しているわけではありません。SNSの普及によって、誰でも自由に発信できて新しい作品が生まれるのはもちろんいいことだと思いますが、屋代さんが指摘された通り、信頼性に欠ける問題があります。それに対して、紙の本の情報信頼度は高いと認識している人は多く、その認識を広げる何かができると、ビジネスチャンスになり得るのかと思います。

田口 出版甲子園の皆さんは大学生で若いのに、紙の本にこだわっているのがとても興味深く映ります。毎日新聞の調査によると、SNS上の文字を読むことも読書だと思っている18歳以下の人が、21%いるんですね。これは、実にゆゆしき数字です。こうした現状の中で、紙の本にこだわる理由はなんでしょうか。

原田、古谷 情報信頼度の高さに加えて、例えば何か一つの分野について調べたいとき、ネット検索だと情報が多すぎて、何を、どの順で見ればいいのかの判断がつきかねます。その点、紙の本だとタイトルや目次、著者さんの経歴などを見れば自分のニーズに合っているかどうかの判断がつきます。また、著者さんは読者が理解しやすい順番で書いてくれていると思うので、ネットよりも早く欲しい情報を手にできることもあり得ます。

 美しい装丁や、中で使われている写真や挿絵をじっくり見ることができたり、サイン本ができたりするのも紙の本ならではの魅力だと思います。そうした本をSNSにあげて、“映(ば)える読書”としてアピールする若い人もいます。ブックカフェや図書館で読書しています、という投稿も見かけます。そうした“映える読書”は紙の本だからこそできることです。本当に読了しているかどうかは定かでありませんが、“映え”から入ることも読書の間口を広げることだと思います。

本に何を掛け合わせるかという発想

田口 僕は本の未来は明るいと思っていますが、今日、皆さんのお話を伺って、ますます明るいと感じました。屋代さんは「小説×音楽」に続いて、新たな掛け合わせに挑戦されるようですね。

屋代 はい、大日本印刷さんと進めた企画で、小説に香りを掛け合わせてみました。『パラ・プリュイ』(新田よう著)という作品で、この小説には香りを想起するような描写やシーンが多く出てくるんですね。それで実際に香りがしたら、ウェブで読む以上の体験価値を付与できるのではないか、すなわち視覚だけではなく嗅覚も刺激してエンターテインメント性が上がるのではないか、ということで実現しました。何万冊と並ぶ書店の中で、おやっと思う香りが漂ってきて、それが本を手に取る理由になったら面白いなと思います。

 発売は2024年12月上旬の予定で、実験的な試みをしていることで知られる東京・市ヶ谷の外濠書店に置かれることが決まっています。そのほか、販売店舗を拡大していきたいと思っているので、見かけたらまずは匂いを嗅いで、ページをめくってみてください。

小説に香りを掛け合わせてみた『パラ・プリュイ』(新田よう著)という作品。小説には香りを想起するような描写やシーンが多く出てきて、実際に香りがする本。東京・市ヶ谷の外濠書店に置かれることが決まっている
小説に香りを掛け合わせてみた『パラ・プリュイ』(新田よう著)という作品。小説には香りを想起するような描写やシーンが多く出てきて、実際に香りがする本。東京・市ヶ谷の外濠書店に置かれることが決まっている
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原田、古谷 これは、読書の楽しみ方を広げてくれる本ですね。作家さんがイメージした香りはこれなのか、という答え合わせができるし、友達と香りについての感想も言い合えて会話がはずみそうです。

田口 「小説×音楽」「小説×香り」のように本に何かをプラスするだけではなく、何かの商品やサービスに本をプラスする、というパターンもありますよね。印刷技術は日進月歩で進化しているので、ほかにもいろんなことができそうです。例えば、今日しか読めない本、明日になったら消える本とか。そんな未来があっても面白いと思います。

取材・文/茅島奈緒深 撮影/尾関祐治