本を愛する人たちが京都に集まって、本の「今」と「未来」について語り合う 「KYOTO BOOK SUMMIT」。YouTube 「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」 とのコラボ企画として登壇した池上彰さんと増田ユリヤさんが、「世界の歴史「本」にまつわる10大ニュース!」をテーマに語り合いました。前編 「池上彰×増田ユリヤ 聖書を広めた印刷技術、変えた世界の歴史」 では、世界や日本で初めての本、出版社、本屋さんなど「本」の歴史に関するニュースを解説。後編では、ドイツ、中国、UAEなど、読書を大切にしている国々や図書館の今についてご紹介します。
ニュース⑥ 出版事業が発展した契機とは?
増田ユリヤさん(以下、増田) 1450年ごろのグーテンベルク活版印刷の改良と2000年ごろの電子書籍の登場が発展の契機でしょうか。
ジャーナリスト
池上彰さん(以下、池上) グーテンベルクについてはすでにお話ししていますが、活版印刷術を改良したことで、大量に聖書を印刷できるようになり、宗教改革が進んだといわれます。印刷術が新しくなるだけで、世界の歴史が大きく変わったのですね。
増田 やはり情報が駆け巡ると、新しい考え方が人々に伝わって、宗教改革とかルネサンスにつながっていくわけですよね。
池上 最近の技術でいうと、電子書籍がスタートしたということですよね。1995年に日本初の電子書籍ストア「電子書店パピレス」が始まっていますね。
ニュース⑦ 世界で「読書」を大事にしている国は?
増田 ドイツ、中国、アラブ首長国連邦(UAE)とあります。
池上 ドイツでは、書籍は日本より値段が高く、販売価格に占める書店の利益率が40%程度と日本の倍近いそうです。書店を大切にしているといえると思います。しかし、それぞれの書店が注文して仕入れているため、売り切らないといけないというリスクがある。日本では書店は再販制度で守られていて、配本を受けて、定価販売している。どちらがいいのか。ここは関係者によって議論が分かれており、非常に難しいところです。
中国では2016年から国民全体の文化レベルを上げるというので、政府が「全民閲読(国民読書)」運動を提唱しています。書店を開くのに財政面で補助があったり、税の優遇策が取られていたりしているといいます。その結果、2019年には中国全土で書店数が16万店台になったという。ものすごく増えた。
増田 中国で出版活動は自由なのでしょうか。どんな本を売っているのでしょう。
池上 本屋さんが増えて、いろんな本を読んでもらうということは悪いことではないし、みんなが本を読み、知識を持ち、世界のことを知ると、今の中国はおかしいという考える人が増えるかもしれない。それが結局は中国がもう少しいい国になるきっかけになればいいとは思うのですが。
ジャーナリスト、名城大学教授、東京工業大学特命教授
増田 読書を大切にしている国の一つが、アラブ首長国連邦(UAE)というのは意外でした。
池上 アラブ世界はコーランさえ読んでいればいいというところがありますが、そのようななかで、2016年にUAEは国家読書法という法律を公布しています。
UAEは産油国ですが、温暖化を防ぐためにカーボンニュートラルが推進されると、石油を売ることができなくなるかもしれない。国の経済発展のために別の施策も考えないといけない。だから本を読む必要があると考えたのでしょう。
ニュース⑧ 図書館と「本」について
増田 8番目はクイズというよりも図書館と本についてのお話です。 まず1つ目、フィンランドの図書館。フィンランドでは図書館で本を借りると、著者に印税が入ります。
池上 これはいいよね。本を借りて読んで、日本ではそれきりだけど、フィンランドではその本が、借り出されたら、その分著者に印税が入る。
増田 対価として少しでも払ってもらう。それは著者にとってはうれしいことです。フィンランドは国際学力調査(PISA)で読解力が高いと有名になった国で、私も何度も取材に行きました。
フィンランドの人は読書好きで有名で、図書館が充実しています。私が取材した図書館をここでは2つ紹介しましょう。
増田 また、学校も図書館も街の財産として考えようというので、学校のなかに図書館の機能も入っている例をご紹介しましょう。
入り口の左側に図書室のスペースがあります。授業中は透明なパーティションで区切られていますが、放課後はこれが取り払われて、一般の人が入って図書館を利用できるようになります。
池上 次はニューヨーク公共図書館、立派ですよね。知のインフラがしっかりあると感じさせ、観光スポットとしても知られるといます。
増田 図書館に行くことによって、その人たちが困っていることをサポートしてくれるというので、その模様がドキュメンタリー『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』として映画化されました。
増田 最後は、青森県八戸市が運営する「市営の本屋さん」、八戸ブックセンターです。
池上 地方の書店では、なかなか専門書を手に取ることが難しいですが、八戸ブックセンターは、公共施設で、営利目的ではないので、学術書など専門性の高い本も扱いやすいのです。ウェブ書店で買うことはできるけれど、やっぱり実際に本屋に行って、手に取って、中を見てから買うというのは大事ですよね。
増田 図書館とか本屋さんとか自分たちが経験したことで考えがちですが、新しい取り組みを見るとまだまだできることはあるのかなと考えます。
ニュース⑨ 紙とデジタル、世界の「本」の行方
池上 電子書籍だけでなく、メタバースなどいろんな取り組みはあるものの、これこそが正解というのがなかなか見えてこない時代になっています。
増田 例えば、私の恩師のように目が悪くなってきたので、妻に読んでもらっているという方にはオーディオブックは届きやすいものですよね。
池上 紙に印刷することで効率的に伝えていたが、デジタルに変わってきた。デジタルならではの良さがある、紙の本の良さもあります。まさに今、どうすればいいのかという分岐点に立っている。
増田 出版するということは、ある程度中身が担保されているということです。しかし、デジタル化で、なかには裏付けのないものが出てきています。それが正しいものとして伝わってしまうと、それは残念だなと思っています。
池上 本屋さんにいけば、きちんとした本が手に入るという信頼感を大切にしたいですよね。
ニュース⑩ 日本は「本」の国
池上 日本という国には本という言葉が入っている。本があってこその日本だよという意味ですね。
増田 「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」 は、本とひもづけて、私たちがYouTubeでやっていることを本にしたい、そしてその本を本屋さん以外でも知ってほしいと思って始めました。だから、両方を連動させ、新しいものも取り入れてやっていきたいと思っています。
池上 YouTube学園を見てほしいが、それで満足してほしくない。そこから本屋さんに行って、本を読むとっかかりとしてYouTube学園を利用してもらえればいいなと思います。
増田 私を含め池上さんもそうですが、本屋さんを応援している人はたくさんいます。新しいアイデアを出しながら、応援していきたいですね。今日はありがとうございました。
文/笠原仁子、写真/山本尚侍




