財源不足に悩む地方自治体にとって「ふるさと納税」は貴重な自主財源確保の手段です。多くの自治体が熱心に取り組む一方で、制度を問題視する動きもあります。ふるさと納税の実態はどのようなものなのでしょうか。大学教授から故郷の市長へ転身した著者による日経プレミアシリーズ『役所のしくみ』(久保田章市著)から抜粋・再構成して解説します。

自主財源確保策の筆頭はふるさと納税

 今、自治体が最も力を入れている自主財源対策が「ふるさと納税」です。制度導入の本来の趣旨は、地方で生まれ、その自治体から教育や医療など住民サービスを受けた人が、進学や就職を機に都会へ出て納税を始める。その結果、都会の自治体は税収増となるが、故郷に税収は入らない。そうした問題意識から、「ふるさとの自治体に自分の意志で納税をしてもよいのではないか」との意見があり、2008年から始まった制度です。

 「納税」という言葉が使われていますが、実際には地方自治体への「寄附」です。したがって、浜田市(島根県)では「ふるさと寄附」と言っていますが、本稿では一般的な「ふるさと納税」を使います。この制度、寄附者に返礼品を贈るようになったことから、いつしか返礼品のネット通販の様相を呈しています。

 浜田市では、2008年の制度開始時からいち早く取り組みました。当初は、純粋に自主財源の確保が目的でした。2010年に10万円以上の寄附者に、お礼として伝統芸能の「石見神楽(いわみかぐら)カレンダー」を贈りました。2012年からは1万円以上の寄附者に地元産品(当時は15品目)を返礼品として贈るようになりました。2014年にはポータルサイトの活用を開始し、クレジット納付も始めました。返礼品も86品目に増えました。

 浜田市の場合、水産物や農作物、加工食品などの生産、販売を行う事業者の大半は、従業員20人以下の小規模事業者で、従来から販路開拓が課題でした。社長自ら生産、営業、管理などすべてを担っており、遠い東京、大阪などのスーパーや小売店に営業に出かけるのには限界がありました。そうした時に始まったのが「ふるさと納税」です。小規模事業者にとっては、願ってもない販売ツールが誕生したのです。

 ふるさと納税が増えるほど、返礼品を提供している地元事業者の売上増になり、販路開拓に苦慮していた事業者に大変喜ばれました。浜田市の返礼品は2015年に296品目になり、この年の寄附額は20億円を超えました。

高齢者福祉や通学路整備――「自主財源」の使い道

 返礼品競争は、次第に過熱していきました。中には、国の指導の「寄附額の半分まで」を超える返礼品や、地元産品ではない返礼品を贈る自治体も現れました。

 その後、国では制度の見直しや規制強化が行われ、現在は「返礼品は、地元産品で寄附額の3割まで。募集に要する費用は、返礼品代を含め寄附額の5割まで」となっています(ただし、居住自治体への寄附には返礼品はありません)。この結果、地方自治体が自主財源として使える額は寄附額の5割となりました。

 浜田市にとって、ふるさと納税は貴重な自主財源です。これまで市民や団体などから要望があっても、予算がなく実施できなかった事業などに使わせてもらっています。例えば、高齢者福祉としての敬老福祉乗車券の発行、保育園児や小学生の通学路でのガードレールの設置、公園などへの防犯カメラの設置、伝統芸能の石見神楽の県外公演の支援、神楽団体が購入する神楽衣裳の購入費支援などです。

 浜田市へのふるさと納税は、現在でも毎年10数億円あり、半分は市の使えるお金で、3割は返礼品事業者の売上です。寄附する人は、実質2000円の負担で返礼品が受け取れます。「三方よし」という言葉がありますが、まさに、自治体、事業者、寄附者の三方にとって喜ばれている制度です。このふるさと納税制度、ぜひとも続けてほしいと思います。

ふるさと納税、なぜ問題視されているのか

 ふるさと納税の寄附額は年々増加しています。2023年度はついに1兆円を超え、1兆1175億円に達したとのことです。おそらく、今後、さらに増えるものと思います。寄附額が増えるにつれて、メディアでは制度に対する厳しい論調が増えてきました。この制度、一体、何が問題なのでしょうか。私なりに整理してみました。

 1つは、高額所得者ほど恩恵が大きいことです。ふるさと納税は、所得に応じた控除額の範囲内であれば、自己負担2000円で寄附額の3割の返礼品がもらえます。

 例えば、寄附する本人の給与年収500万円(共働きで子供2人の場合)なら、控除額3.6万円×0.3=約1.1万円、年収1000万円(同)なら控除額15.3万円×0.3=約4.6万円、年収2000万円(同)なら控除額53.6万円×0.3=約16.1万円相当の返礼品がもらえます(総務省「ふるさと納税ポータルサイト」の納税額の目安から試算)。年収3000万円、5000万円なら返礼品はもっと多くなり、高額所得者優遇への批判があるのです。

 2つ目に、税金の流出超の自治体が発生していることです。住民が他自治体に寄附をすれば、その自治体に本来入るべき税収が減ります。ふるさと納税に関わる税収は、国全体で見れば「ゼロサム」ですから、税金(正しくは寄附)が流入する自治体もあれば、流出する自治体もあります。流出額は、人口の多い都市部の自治体ほど大きくなります。流出超となった自治体では、住民サービスに回す財源への影響があるものと思います。

 3つ目は、地方交付税への影響です。地方交付税法では、ふるさと納税で他自治体に流出した額の75%が補てんされます(地交税法14条)。10億円の流出があれば7.5億円が、100億円の流出があれば75億円が補てんされます。補てん額は、流出が多い自治体ほど多くなります(ただし、普通交付税の不交付団体は補てんされません)。

 一方、流入自治体は、いくら寄附額が増えても、普通交付税は削減されません。この結果、ふるさと納税が増加するほど、地方交付税の原資が足りなくなっていくはずです。

 この他、有力返礼品のある自治体への寄附の集中を問題視する意見もあります。確かに、魚貝類、肉類、米、果物など人気の返礼品がある自治体に寄附が集中し、寄附額が100億円を超える自治体もあります。

 しかし、これらの自治体は返礼品開発に取り組み、自治体のPR活動に努めるなどの自助努力を行った結果であり、ふるさと納税のルールにのっとった取り組みである以上、問題にすることは難しいように思います。

ふるさと納税は、地元事業者の貴重な販路開拓手段(写真はイメージ)(写真:フォト うまいもん/stock.adobe.com)
ふるさと納税は、地元事業者の貴重な販路開拓手段(写真はイメージ)(写真:フォト うまいもん/stock.adobe.com)
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制度の見直しに備える

 とはいえ、ふるさと納税の問題点が指摘されている以上、今後、どこかのタイミングで、何らかの見直しが行われると思います(恩恵を受けている首長としては、決して本意ではありませんが)。

 見直しが行われるとすれば、おそらく、結果的に「自治体への寄附額が減少する」方向となる可能性が高いと考えています。そこで浜田市では数年前から、将来、寄附額が減るかもしれないことを想定して対応しています。

 その1つは、寄附金をいったん「ふるさと応援基金」に積み立てることです。そもそも、浜田市への寄附額は、年によってかなりの増減があります。浜田市は水産都市で、返礼品の約6割は水産物関連です(金額ベース)。水産物は豊漁の年もあれば不漁の年もあります。

 不漁の年には返礼品が不足し、寄附額が減少することもあります。こうした増減への対応として、いったん基金に積み立て、必要な時に支出しています。

 2つ目は、寄附金の「使い方ルール」を決めていることです。担当部から、ふるさと納税を財源に施策に取り組みたいとの申し出があった時には、まず、その事業が「寄附者が指定した使途であること」と「優先的に使える他の財源がないこと」を確認します。その上で、(1)継続事業でないこと、(2)経常的な事業でないこと、(3)寄附者の共感を得られる事業であること、の3つを基準に判断しています。

 このうち、特に(2)については、かなり厳格に守っています。例えば、子供医療費の無償化、保育料の減免、給食費の減免、新生児子育て応援金の支給などの事業です。これらの事業は、いったん始めたらやめるわけにはいかないと考えています。ふるさと納税制度が見直され、寄附の減少で財源不足が起これば、他の財源で賄わなければなりません。であれば、最初からふるさと納税を使うのをやめよう、と決めました。

 浜田市では、ふるさと納税は、家計にたとえればボーナスのようなものと考えています。ボーナスは年によって増減しますし、企業の業績によっては支給されないこともあります。日々の生活費(経常事業)は、給与(一般財源)から支出すべきです。もちろん、今後もボーナスは欲しいですし、金額は多いほど嬉しいです。しかし、万一の寄附額の減少にも備えておく必要があると思います。

 3つ目は、使途の議会でのチェックと公表です。ふるさと応援基金から引き出す時に、どんな事業に使うのかについては議会に予算案として提出、議会の承認を得ます。決して執行部だけの判断では使わないようにしています。そして、5月頃、市の広報紙の「ふるさと寄附(納税)特集」で使途を市民にお知らせしています。この内容は同時に、市のHPでも公表しており、全国の寄附者にもご覧いただいています。

日経プレミアシリーズ『 役所のしくみ
私たちにとって、身近な存在なのに、実はその実態をよく知らない組織が市町村などの「役所」です。大学教授だった著者も、故郷の市長になってみると「えっ、そうだったの!?」の連続でした。そんな「役所のしくみ」を豊富な具体例から解説します。

久保田章市著/日本経済新聞出版/990円(税込み)