21世紀を生きる現代の「世界一周者」たちはどのような旅をしているのか。日経ビジネス人文庫『8の都市からよむ「世界一周」の世界史』著者である日本経済新聞の鈴木淳記者が、世界一周にハマった旅行者たちにインタビューするシリーズ。2回目はYouTubeなどで旅の楽しさを配信するはるかさんを取材した。

5カ月かけてアフリカ縦断

 世界一周を実現するには、時には年単位の準備が必要になる。YouTubeなどで旅の楽しさを配信するはるかさんは2024年11月、5年以上温めていた世界一周の計画を実行に移した。

 「全体の計画のまだ半分もいってないです。3分の1か、4分の1ぐらいです。アフリカは本当にずっと行きたかったので、そこがいったん終わったというのはちょっと安心しました。でも、まだまだいっぱい行きたいところはあります」

5年半の商社勤務をへて、2024年11月に世界一周の旅に出発したはるかさん。奈良県出身
5年半の商社勤務をへて、2024年11月に世界一周の旅に出発したはるかさん。奈良県出身
画像のクリックで拡大表示

 2024年11月の出発後、ラオスなど東南アジアを経由して、およそ5カ月かけてエジプトから南アフリカまでアフリカ大陸を縦断した。エジプトを起点にエチオピア、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、タンザニア、マラウイ、ザンビア、ジンバブエ、ボツワナ、ナミビア、南アフリカを訪れ、最後はマダガスカルに1カ月ほど滞在した。

 アフリカの遺跡や都市、自然をくまなく見て歩いた。時には何十時間もバスに乗った。

 「(アフリカでの車移動は)何個たんこぶができたか分からないぐらい揺れました。全然寝られないし、なんか暑いなと思って窓開けたら、もう排気ガスがすごくて顔が真っ黒になるし、ワイルドでした」

 絶景を見るだけではない。ケニアの首都ナイロビでは、巨大なスラム街「キベラスラム」で学校を運営する早川千晶さんが主催するツアーに参加した。

 「実際にキベラスラムを訪問する前日に、みっちり事前のスタディーがあって、アフリカの歴史について習いました。それがすごく興味深かったです。貧困が結局は欧州の植民地にされて、資源も奪われたことに由来することとか、奴隷貿易でアフリカから南米などに奴隷として送って、多くの人が亡くなったこととか。いい勉強になりました」

1年間のインド駐在で強くなれた

 アフリカ滞在中、特に大きなトラブルはなかったという。もっとも、商社勤務時代に駐在していたインドで「当たり前ではない衝撃的な世界を見すぎてしまった」ことで、異文化で起こるさまざまな出来事への耐性が強くなっていたことも影響していたようだ。

 はるかさんが世界一周を志すきっかけとなったのは、大学4年のときに見た写真展だったという。写真家が世界一周して撮った写真に感化された。「自分の知らない世界をもっと見てみたいと思った」という。「海外はありのままの自分を認めてくれる」。世界に関心を持つ原体験となった学生時代のオーストラリア留学とともに、世界一周への憧れは募った。

 行きたいところはたくさんある。旅をするには当然お金もかかる。すべて回るにはどうすればいいか。はるかさんが出した答えは「一度就職すること」だった――。

 2019年に商社に新卒で入社する。商社を選んだのは若手時代に海外駐在をするケースが多いからだ。2022年には駐在希望がかない、インドの商都ムンバイで1年間を過ごした。

 「まだ日本では新型コロナウイルス禍でしたけど、世界はすでに国境を開いていた時期に赴任しました。鉄鋼を扱っていたので、成長する国でものすごく需要が伸びるというのを肌で感じました」

 休みにはインド国内を回り、ガンジス川で沐浴(もくよく)もした。1年間のインド駐在で日本人の常識が通用しないことを肌身で感じたことが今の世界一周にも生きている。

 はるかさんは「(商社には)最初から『いつか世界一周に行こう』と決めて入社しました。ある程度、タイミングも考えていました」と話す。だから、安定した職を辞するときにも迷いはなかった。

インドでの駐在経験で予想外の事態への耐性が高まった(ガンジス川で沐浴)
インドでの駐在経験で予想外の事態への耐性が高まった(ガンジス川で沐浴)
画像のクリックで拡大表示

世界一周にはオンオフの切り替えも大事

 はるかさんは旅の様子を「まんぷく紀行」という名前でX(旧ツイッター)やYouTubeで発信している。

 赤い砂と青い空のコントラストが美しいナミブ砂漠(ナミビア)の風景やカラフルなケープタウンのボカープ地区の町並み(南アフリカ)など、美しい写真や動画の数々が思わず一緒に旅をしているような気分にさせる。

5カ月かけてアフリカを縦断した。大きなトラブルはなかったという(ナミブ砂漠)
5カ月かけてアフリカを縦断した。大きなトラブルはなかったという(ナミブ砂漠)
画像のクリックで拡大表示

 「まんぷく紀行」というタイトルからも分かるように、ご当地の食事の紹介も多い。

 短期間の海外旅行と違い、長期にわたる世界一周ではオンとオフの切り替えも大切になる。

 「1日がっつり観光して、次の日はごはん食べるぐらいでほぼ外出しない日もあります。動画編集する日はホテルやカフェにこもって作業します。ちゃんと休憩しながらやることで、その日を存分に楽しめるというのは世界一周をしていて思います」

 はるかさんは基本的に機内持ち込みのバックパック1つで旅行している。飛行機でのロストバゲージの心配がないからだ。カメラは携行せず、iPhone(アイフォーン)で撮影している。満天の星の下でバオバブの巨木のシルエットを撮影した写真など、美しい写真が並ぶが、「(スマホで)撮れないものは目で楽しみます」。

 秋にも世界一周旅を再開する。メキシコなど中米に滞在する予定を立てるほか、南極に行くことも検討している。その後は中央アジアや中東、欧州を回る。

 目下の悩みは旅が終わるかどうかだ。順調にいけば、2026年は帰国しない可能性が高いという。

 「旅は一生終わらない気がしています。今行きたいところはもちろん絶対行くんですけど、回っているうちに行きたいところが増えていくんです」

写真/はるかさん提供

日経ビジネス人文庫『 8の都市からよむ「世界一周」の世界史
19世紀の世界一周パックツアーの旅程とは? 渋沢栄一が5回も「洋行」した理由は? 21世紀の世界一周のトレンドは? 国際報道に携わる日経記者が、横浜、香港、ロンドン、ジュネーブまで、キーとなる各都市を自ら旅しながら、「世界一周」500年の歴史をたどります。

鈴木淳著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)