6月11日(日本時間6月12日)、サッカー・ワールドカップ(W杯)北中米大会が開幕します。23回目を迎える今大会は、参加国が前回大会の32から48に拡大され、7月19日(日本時間7月20日)の決勝戦まで、全104試合が行われます。サッカー解説者の林陵平さんに4回にわたりW杯の見どころと、観戦がより楽しくなる本を紹介してもらいました。1回目のテーマは、サッカーの戦術を理解するために必要な知識を得ることができる本です。

サッカー解説者の林陵平氏。今大会は現地からのレポート、解説を担当する
サッカー解説者の林陵平氏。今大会は現地からのレポート、解説を担当する
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 いよいよサッカーFIFAワールドカップ2026が開幕します。23回目となる今回大会の会場となるのは、アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国。熱戦の火蓋はメキシコシティで切られ、そしてニュージャージー州ニューヨーク・ニュージャージースタジアムで開催される決勝戦まで、全104試合が繰り広げられます。日本代表も1998年に開催されたフランス大会から8大会連続の出場を決め、過去の最高成績であるベスト16の更新はもちろんのこと、優勝を目標に掲げています。サッカーファンだけでなく国民の注目度も格段と上がっていて、これから眠れない日々を過ごす方も多くなるのではないでしょうか。

 ワールドカップは、4年に一度開催されるという点でオリンピックと同じサイクルですが、その規模はオリンピックに勝るとも劣りません。ワールドカップを主催する国際サッカー連盟(FIFA)によれば、2022年にカタールで開催された前回大会は、延べ視聴者数ベースで全世界約50億人に達し、決勝戦は約15億人が視聴したとされています。世界の人口が約80億人として、ワールドカップが世界最大級のイベントであることが容易に理解できます。

 また、オリンピックが競技の祭典であるのに対し、ワールドカップは国同士が威信をかけてぶつかり合う大会といえます。南米や欧州、アフリカ、中東などでは、サッカーを事実上の国民的スポーツとして位置付けるところが多く、絶大な人気を誇る一方で、「負けられない」という意識が強くあります。参加国は大会中、大いに盛り上がります。3月に行われた野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、大谷翔平選手の活躍や日本代表チームの連覇への期待で、日本では社会現象ともいえる熱狂となりましたが、ワールドカップはその熱狂が世界中に沸き起こる大会なのです。

 私は、Jリーガーとして12年間プレーし、300試合に出場した後、2020年に引退しました。その後はサッカー解説者としてJリーグや欧州の各リーグ、日本代表戦など数多くの試合を解説してきました。おかげ様で2025年は200試合以上の解説を担当し、今回はいよいよ憧れのワールドカップをNHKで解説する予定です。今は現地に乗り込んでワクワクしながら、各国の特徴を調べるなど「予習」に時間を費やしています。

 解説をする際、重視しているのは分かりやすさです。サッカーに詳しい人はもちろんのこと、ちょっと興味を持ち始めた人でも理解しやすいように表現を選ぶことを心掛けています。今回、あらゆる読者にもっとサッカーを好きになってもらえるよう、ワールドカップの観戦がより楽しくなるポイントやお薦め本を紹介します。観戦のスタイルは人それぞれですが、ちょっとした知識を備えることで、楽しさが一気にアップするはずです。そのお手伝いができることを目指します。

ポイントは「ゴールを奪う」ために共通意識が持てているか

 サッカーは11人対11人で一つのボールを手を使わずに奪い合い、ボールを相手ゴールに入れ、その回数を競うことで勝敗を決します。すなわち、「ゴールを奪う」ということを最終目的にして、各チームは戦術を考えるのです。その一方で「ゴールを守る」ことも頭に入れなくてはなりません。このチームの戦術を理解するうえで、ポイントになるキーワードを3つ紹介します。この3つの言葉はいずれも、『 林陵平のサッカー観戦術2 試合がもっともっと面白くなる極意 』(林陵平著/平凡社新書)の第1章「林陵平的 現在サッカーを読み解く10大キーワード」の中で紹介したもので、私がサッカーの試合を解説する際も、頻繁に使っている言葉です。

『林陵平のサッカー観戦術2 試合がもっともっと面白くなる極意』(林陵平著/平凡社新書)/画像クリックでAmazonページへ
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 最初のキーワードは「保持/非保持」です。ボールを持っているのが保持で、ボールを持っていないのが非保持なので、保持していればそのチームは攻撃している局面にあり、逆に非保持であれば守っている局面となります。保持は「ボール支配」や「ボールポゼッション」ともいわれ、最近のテレビ中継では、リアルタイムでボール支配率が表示されるようになりました。一見すると、ボール支配率が高いチーム、すなわち攻撃の時間が長いチームが優勢のように思うかもしれませんが、そうともいえないのがサッカーの面白いところです。

 例えば、ボール支配率が70%のチームがシュートを10本打っていても0点、一方のボール支配率30%のチームのシュート数が5本と少なくても2点を取っていて勝利、といったことがサッカーでは当たり前のように起きます。この差は「ゴールを奪う」という目的に対してボールを保持しているときに、チーム全体が同じ絵を描き、共通意識を持って連動しているかどうかにかかっています。いくらボールを保持する時間が長くても、共通意識がなくバラバラに動いていてはゴールには至りません。一方で、共通意識があれば、たとえ攻撃の回数が少なくてもゴールを奪えることになります。

 このような共通意識は、トレーニングによって組織として植え付ける必要があります。チームとしてプレーの原則などを作ったうえで、相手の状況に応じて変化させることが重要です。今回のワールドカップではボールを保持している際に、チーム全体が連動して動くことができているかどうか、ぜひ注目して見てください。

 2つ目のキーワードは「再現性」です。再現とは、過去と同じことを再び行うことを表しますが、サッカーでは味方や相手、ボールなどがすべて同じシチュエーションということはあり得ません。そこで、私が再現性で重視しているのは、先ほどの「保持/非保持」と同様に、いかにチームが同じ共通意識を持っているかどうかです。言い換えると、プレーを個人に頼るのは再現性が低いチーム、組織として連動しているのは再現性が高いチームです。

 再現性を考えるうえで注目してもらいたいのは、ゴールキーパーやディフェンダーなど自陣の後方からボールを前線へと攻め上がっていく過程です。サッカーでは、この過程を「ビルドアップ」といいますが、再現性の高いチームは、同じ絵を描けるのでビルドアップ時にスムーズに前進できます。一方で特定の選手によるドリブルでの持ち上がりに頼っている場合などは、再現性が低いといえるでしょう。ビルドアップ時はゴールからは遠いので、少し気を抜いて見てしまいがちですが、チームの再現性を見るには絶好のタイミングなので、注意して見ることをおすすめします。

 最後のキーワードは「主導権」です。主導権とは、主となって試合を動かしている力のことを指します。私も、試合開始からどちらが主導権を握っているかは注意して見ています。10分ぐらいたつとおおよそ見えてくるのですが、かなり拮抗している場合は、どちらにも傾かないケースもあります。また選手の交代によって主導権が変わることもあれば、風向きによって変わることもあるので、主導権を握っているのはどちらのチームなのかを試合全体を通して客観的に見られるようになると、観戦の楽しさも増すでしょう。

 「保持/非保持」でも書きましたが、ボールを保持し続けていても主導権を握ることができているかというとそうではありません。有効なシュートが打てずに、「ゴールを奪う」という最大の目的を達成できずに、単にボールを保持しているだけであれば、それは非保持側に主導権があるともいえます。そして主導権を見るうえでもやはり重要なのは、チームが組織として連動しているかということです。

「国の代表チームはチームとしての練習時間が短くなりがちです。チームとして共通意識を持ち、連携できているかに注目してみてください」
「国の代表チームはチームとしての練習時間が短くなりがちです。チームとして共通意識を持ち、連携できているかに注目してみてください」
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サッカーの戦術を図解で理解する

 繰り返しチームが連動していることの重要性を書きましたが、そもそもチームが連動しているかを見るためには、監督が描く戦術を理解する必要があります。その戦術はフォーメーションと呼ぶグラウンドにおける選手の並び順によっても大きく異なります。よく「4-3-3」(ディフェンダーが4人、ミッドフィルダーが3人、フォワードが3人)や「3-4-2-1」(ディフェンダーが3人、ミッドフィルダーが4人、フォワードとミッドフィルダーの中間に位置するシャドーが2人、フォワードが1人)などといわれるのがフォーメーションのことです。フォーメーションとそのフォーメーションによる戦術の違いが理解できると、チームの狙いもおのずと分かるようになります。

 先ほど挙げた3つのキーワードの解像度を上げ、チームの戦術を理解するためにお薦めするのが『 サッカー 局面を打開するデキる選手の動き方 』(林陵平著/日本文芸社)です。この本の特徴は、試合中の様々なシーンを取り上げ、選手がどのように動くべきかを写真やイラストを用いて分かりやすく解説していることです。それぞれの局面で、具体的な選手が取るべき動き、優れている点を周りの選手の動きや反応も含めながら直感的に分かるよう説明しているので、サッカー観戦初心者が戦術の基本を理解するのに役立つと思います。

『サッカー 局面を打開する デキる選手の動き方』(林陵平著/日本文芸社)/画像クリックでAmazonページへ
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 攻撃の局面ではフィールドを大きく3つに分けて解説しています。サッカーではグラウンドを3つに分割し、後方からディフェンシブサード、ミドルサード、アタッキングサードと呼びますが、そのエリアごとに戦術を紹介しています。後方から中盤にはどのように効率的にボールを運べばいいか、中盤ではゴールを奪うという目的を見据えてどのようにボールを動かせばいいか、そして最終的にゴールを奪うためには守備をどのように崩すべきかなど、エリアごとにやるべきことを図解しました。

 加えて、守備の際の戦術や攻守の切り替え時(サッカーでは「トランジション」と呼びます)の戦術も解説しています。この本で学んだ内容は、ワールドカップの試合を見ながら、最高峰の選手たちのプレーの実例と照らし合わせることができます。本を片手に試合を見れば、知識がどんどん身に付き、サッカーを見る楽しみがさらに奥深くなること間違いなしです。

取材・文/木村知史(CocoSmile 編集者) 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/稲垣純也 撮影協力/猿田彦珈琲 調布焙煎ホール

サッカー解説者・林陵平 ワールドカップ2026を楽しむ本
1回目  サッカー解説者・林陵平 ワールドカップをより楽しく見るためのキーワード (6月10日公開)今はここ
2回目  林陵平 日本代表はオランダとどう戦う? ワールドカップ注目のチームと選手 (6月12日公開)
3回目 林陵平 イタリア人の名将に命運託したブラジル、日本代表との対戦は?(6月17日公開予定)
4回目 サッカー解説者 林陵平が「推し活」したエースストライカーの素顔(6月19日公開予定)