サッカーワールドカップ(W杯)2026が開幕しました。6月14日(日本時間15日午前5時)には日本代表がオランダ代表と対戦。その他にも強豪国が続々と登場します。サッカー解説者の林陵平さんに4回にわたってW杯の見どころやお薦め本を聞く本シリーズ。今回は、日本代表ほか注目の強豪国の特徴、併せて才能あふれる若き監督の思考に触れることができる本を紹介します。

サッカー解説者の林陵平氏。2025年にJ1リーグや代表チームの監督を務めることができるJFA Proライセンスを取得した
サッカー解説者の林陵平氏。2025年にJ1リーグや代表チームの監督を務めることができるJFA Proライセンスを取得した
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 FIFAワールドカップ(W杯)2026が開幕しました。この原稿を書いているタイミングでは、メキシコシティでの開幕戦、メキシコ対南アフリカの結果は分かっていません。それでも開幕戦を地元で迎えたメキシコ国民の熱狂は容易に想像できますし、またアフリカの強豪国ナイジェリアを抑え、首位通過で出場権を獲得した南アフリカと、ワールドカップ9大会連続出場中の常連国メキシコとの対戦は、間違いなく好ゲームになったことでしょう。

 6月14日(日本時間6月15日午前5時)には、いよいよ日本代表が初戦を迎えます。今回は日本代表をはじめとして、私が注目する強豪国を紹介します。紹介する強豪国は、『 林陵平のサッカー観戦術2 』(林陵平著/平凡社新書)の第2章でいずれも解説している国です。この本では、日本を含め9カ国を取り上げています。

 今回の日本代表を語るにおいて、避けて通れないのが大会直前の三笘薫選手の負傷による欠場です。三笘選手といえば、サッカーに詳しくない方でも、「三笘の1mm」で知っている方が多いのではないかと思います。前回のカタール大会でボールがフィールドの外に出るゴールラインギリギリで三笘選手が折り返し、決勝点につながった奇跡的なプレーは、優勝候補のスペインを下して決勝トーナメント進出を決めたこともあり、日本中が大興奮に包まれました。

 三笘選手の良いところは、止めることが困難な異次元のドリブルや決定的なチャンスを生み出す戦術眼など、挙げればきりがなく、間違いなく替えがない選手といえます。とはいえ、2018年に日本代表の監督に就任した森保一監督は、長期政権の中であらゆることを想定して、チームとしての意思統一を図ってきたはずです。三笘選手が参加できないことは痛いですが、強豪国を相手にしても、良いゲームを繰り広げてくれることを期待しています。

 日本のフォーメーションは、おそらく「3-4-2-1」(ディフェンダーが3人、ミッドフィルダーが4人、フォワードとミッドフィルダーの中間に位置するシャドーが2人、フォワードが1人)になると思われます。戦術としては、ハイプレスからのショートカウンター。ハイプレスとは守備の戦術のことで、相手が自陣後方でボールを保持している段階から激しく奪いに行くことを意味します。

 カウンターとは、相手に攻撃をさせておき、ボールを奪ったら守備が完成される前に攻撃を仕掛ける戦術で、それを短い距離で仕掛けるのがショートカウンターです。相手がゴールキーパーに近い位置でボールを回し、それを日本の選手がすごいスピードで追い回すシーンは頻繁に見られるはずです。ここでボールが奪えれば、ハイプレスからのショートカウンターの発動となるので、注目ポイントです。

『林陵平のサッカー観戦術2 』(林陵平著/平凡社新書)では強豪9チームの予想フォーメーションや戦術も分析
『林陵平のサッカー観戦術2 』(林陵平著/平凡社新書)では強豪9チームの予想フォーメーションや戦術も分析している
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 日本代表は、年々レベルが上がっていて、今回の代表26人の中で、国内リーグのJリーグでプレーしている選手はわずか3人です。多くはイングランドやスペインなどのハイレベルの欧州リーグで活躍しています。そんな中で、私が注目選手として挙げるのは、ミッドフィルダーの鎌田大地選手です。鎌田選手は、現在、イングランド・プレミアリーグのクリスタル・パレスでプレーしていますが、その前にはドイツのブンデスリーガ、イタリアのセリエAにも所属し、いずれのチームでも中心選手として活躍しました。

 そんな鎌田選手を一言で表すとしたら、“フィールド上の監督”。もちろんチームの監督は森保さんですが、いったん試合が始まると、すべての局面において監督が指示できるわけではありません。その代わりができるのが鎌田選手。監督の意図を正確に理解したうえで、様々に変化する局面に対峙して自らもボールを動かし、チームをコントロールします。鎌田選手が監督だという視点で彼の動きを追うだけでも、楽しく観戦できるでしょう。

新たな優勝国に一番近いオランダの実力は

 今回の大会は参加国がこれまでの32から48に増えました。まず48カ国が12のグループに分かれ、総当たりでグループリーグを戦います。その中から、上位2カ国と、各グループの3位の中から成績上位の8チームが決勝トーナメントに進出、そこからは一発勝負で上位進出を争います。

 日本は、オランダ、スウェーデン、チュニジアと共に、グループFに入りました。国際サッカー連盟(FIFA)では、各国のサッカー代表チームのランキングを発表していますが、2026年4月のランキングでは日本は18位。オランダは7位、スウェーデンは38位、チュニジアは45位ですから、グループリーグ突破は濃厚。といいたいところですが、そう簡単にはいかないのがサッカーです。

 ランキング上位のオランダは間違いなく強敵ですし、スウェーデンにはイングランドのプレミアリーグの強豪・アーセナルでエースストライカーを務めるヴィクトル・ギェケレシュ選手や、やはりプレミアリーグで昨年まで3シーズン連続で2桁ゴールを記録したアレクサンデル・イサク選手といった強力なストライカーを擁しています。またチュニジアは多くの主力選手が欧州リーグで活躍するなど、非常に良くまとまったチームです。日本は予選をトップで通過する可能性も、逆に最下位になる可能性も秘めている、混沌としたグループといえるでしょう。

 そんなグループFで、日本が初戦で対戦するのがオランダです。このオランダについて、少し掘り下げて紹介しましょう。オランダは、ワールドカップでまだ優勝はありませんが、過去3度の準優勝と1度の3位を実績を持つ強豪国です。2022年の前回大会はベスト8、その前の大会は欧州予選で敗退しましたが、2014年大会は3位、2010年大会では準優勝。ワールドカップでは過去22大会で8カ国しか優勝の栄誉を手にしていませんが、9カ国目の優勝国に最も近いチームといっても過言ではありません。

 オランダと日本は、ワールドカップで過去に一度だけ対戦しています。2010年の南アフリカ大会で、今回同様に同じグループリーグに入りました。結果は0対1で惜しくも日本の敗戦でした。ただし、その大会の準優勝国であるオランダを苦しめたことで、日本のサッカーが大きな手応えを得た試合でもありました。

 おそらくオランダは組織よりも個人の能力を全面に押し出した戦い方をしてくるでしょう。センターバックとしてディフェンダーの中央にポジションを取るフィルジル・ファン・ダイク選手とヤン・ポール・ファン・ヘッケ選手はいずれも身長190cm近くの高くて分厚い「壁」としてゴール前に立ちはだかります。またその前に位置するミッドフィルダーの2人、ライアン・フラーフェンベルフ選手とフレンキー・デ・ヨング選手は、どんなに激しく当たられてもそれをかわして前にボールを運ぶ能力に長けています。フォワードにもコーディ・ガクポ選手といった豊富な攻めのバリエーションを持つ選手が控えるなど、どのポジションを見ても素晴らしい選手が多くいます。

 では、日本に勝ち目がないかというとそんなことはありません。相手が個で来るなら、日本は組織で戦います。ハイプレスからのショートカウンターを徹底することで勝機が生まれると考えています。個人の能力が優れているといっても、サッカーにミスはつきもの。能力に優れた選手のスキを見逃さず、ハイプレスでボールが奪えれば、一気にチャンスがめぐってくるはずです。

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ドイツを率いる若き監督の頭の中を理解する

 2026年4月時点のFIFAランキング1位はフランス、そして僅差の2位はスペインです。この2カ国は間違いなく今回大会の優勝候補です。フランスは前回大会では準優勝、前々大会では優勝と安定した成績を残しています。前回大会で7試合8得点を記録した絶対的なエースであるキリアン・エムバペ選手や、世界における年間の最優秀選手に贈られるバロンドールを2025年に受賞したウスマン・デンベレ選手、さらにはデジレ・ドゥエ選手やマイケル・オリーセ選手などの才能あふれる若手の攻撃陣を擁し、他を圧倒するタレント力で優勝を目指します。

 一方のスペインも、フランスにひけを取りません。スペインの特徴は何といっても戦術がぶれないこと。代表チームはチームとして一緒に活動する期間が短いため、戦術を浸透させるのに苦労する監督も少なくありません。そんな中、スペインは一貫した戦術を目指してきているため、 前回 説明した「再現性」が高いチームです。もちろん、ラミン・ヤマル選手やペドリことペドロ・ゴンザレス選手といった能力の高い選手もメンバー入りしており、まさに「無敵艦隊」にふさわしい布陣といえます。

 欧州のチームで、私がもう一つ注目しているのがドイツです。ドイツは西ドイツ時代も含めワールドカップで4度優勝しています。近年では2014年ブラジル大会で優勝しますが、その大会の準決勝で開催国ブラジルを7対1で破るという、衝撃的な試合をしました。

 ただし、そのドイツも最近2大会ではグループリーグを通過できていません。前回大会では、日本と同グループとなり、日本に1対2で敗れています。さらにドイツにとって屈辱だったのが、その翌年、日本へのリベンジを期して行われた国際親善試合で、1対4と完敗したこと。ドイツのホームながら、日本が圧倒したこの試合は、日本が世界に対してもひけを取らないことを証明した試合ともなりました。

 このドイツの再建を託され、今回ドイツ代表を率いるのが、ユリアン・ナーゲルスマン監督です。ナーゲルスマンはまだ38歳と非常に若い監督ですが、プロチームの監督としてキャリアをスタートしたのは10年前の28歳の時でした。ドイツのブンデスリーガの史上最年少監督としてホッフェンハイムを率い、降格圏争いをしていたチームを翌年には強豪チームに押し上げました。その後はブンデスリーガでは屈指の強豪チームであるバイエルン・ミュンヘンの監督も務めるなど、目覚ましいキャリアを歩んでいます。

 サッカー界では新世代の名将ともいえるナーゲルスマン監督ですが、その思考を読み解くことができるのが、『 ナーゲルスマン流52の原則 』(木崎伸也著/ソル・メディア)です。なぜナーゲルスマンがここまで成功できたのか、その原則が52個書かれています。私は、2020年に現役を引退した後、東京大学サッカー部(東京大学運動会ア式蹴球部)監督を務めていたのですが、その際もこの本は大いに参考にしました。

『ナーゲルスマン流52の原則』(木崎伸也著/ソル・メディア)/画像クリックでAmazonページへ
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 この本は、ナーゲルスマンのサッカー戦術だけではなく、組織のリーダーとしてのマネジメントに関する原則から、さらには自身のブランディングや自己研さんについてまで踏み込んでいます。実はナーゲルスマンはたびたびそのファッションで物議を醸したことがありますが、自分の気持ちを高めるためには服が重要であると、批判を意に介しませんでした。そういった面では、サッカーとあまりなじみのないビジネスパーソンが読んでも、参考になる部分が多くあると思います。

 今大会でも、ドイツは南米の強豪エクアドルや多くのタレントを擁するコートジボワールと同じグループとなり、グループリーグを突破することは簡単ではなさそうです。それでもナーゲルスマンなら、やすやすと上位進出を果たしてしまうのではないかと期待しています。

取材・文/木村知史(CocoSmile 編集者) 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/稲垣純也 撮影協力/猿田彦珈琲 調布焙煎ホール

サッカー解説者・林陵平 ワールドカップ2026を楽しむ本
1回目  サッカー解説者・林陵平 ワールドカップをより楽しく見るためのキーワード (6月10日公開)
2回目  林陵平 日本代表はオランダとどう戦う? ワールドカップ注目のチームと選手 (6月12日公開)今はここ

3回目 林陵平 イタリア人の名将に命運託したブラジル、日本代表との対戦は?(6月17日公開予定)
4回目 サッカー解説者 林陵平が「推し活」したエースストライカーの素顔(6月19日公開予定)