『 ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る 』(文春新書)の著者で米ハーバード大小児精神科医の内田舞さんが、読者の子育ての悩みに答える本連載。今回の悩みは「スマホ漬けの子どもに、勉強や将来のことに目を向けさせるにはどうすればいいか」。
『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』
連載5回目も前回「 内田舞 子育て最大の悩み、スマホやタブレットとの付き合い方 」に続き、スマホとタブレット、SNSについて取り上げます。
小さな達成感が子どものやる気を上げる
前回はスマホやタブレット、SNSのメリット・デメリットについて、お話ししました。今回は、すでに夢中になっている子どもたちとどう向き合うかについて、考えたいと思います。
スマホやタブレットで検索したり、SNSで質問したりすると「今すぐ」「この場で」「欲しい答えをくれる」便利なものですよね。見ていて飽きず、子どもたちが夢中になるのも分かります。
ただ、スマホやタブレット、SNSを使ってすぐに答えが出る「スピード感」に慣れてしまうと、長期的な目標に向かうモチベーションを保ちにくくなってしまいます。例えば、子どもに「勉強しなさい」「将来のことを考えなさい」と言っても、スマホやタブレットで検索したり、SNSで問いかけたりするのとは違って、すぐに結果が出るわけではなく、時間のかかることです。学生時代に勉強したことが実際に役立つのは社会人になってからかもしれませんし、ひょっとしたら役立つ場面はないかもしれません。
ゴールやベネフィットが見えない中で、その時々に必要な課題に向き合うためにはどうしたらいいのでしょうか。現代の子どもたちが取り組みやすいように「短期間での達成感」を少し味わえるように工夫すると、モチベーションを上げることができるかもしれません。
例えば、分厚い紙の課題図書なら、まずは1章だけと決めて読んでみる。もしくはノンフィクションなら目次を見て、興味のある部分から読みます。そうして読んだ部分にチェックマークを付けていくと、どんどんチェックしたページが増えるので、達成感を味わえます。大人がTO DOリストにチェックを付けるように、子どもにも小さな達成感の積み重ねを経験させるのです。
また、学校の課題で資料をまとめたり、リポート(日本では読書感想文など)を書いたりしますが、子どもは「どこから手をつけたらいいか分からない」と、やる気が起きないケースがあります。いきなり長い文章を書くことは難しいので、どうやったらいいか、進め方やノウハウを教えてあげるといいでしょう。いきなりリポートを書き始めるのではなく、まずは「リポートで書くべきテーマや内容」を箇条書きにしてみましょう。やるべきタスクを小分けに分解するのです。そして、出てきたもののなかから何にフォーカスすれば良いリポートになるかを一緒に考えてみるのです。大人も大きな仕事に取り組むときはタスクを細かく分解しますが、その手法を子どもの勉強にも取り入れるといいでしょう。
「15分の苦痛」に耐えてみる
モチベーションが低いまま、子どもたちが何かを始めるときに一番大変なのは「最初の一歩」です。勉強なら、まず机の前に座るのも大変かもしれません。でも、その最初の一歩さえ踏み出せれば、2歩目、3歩目はずっと楽になります。子どものやる気が起きないときは、「まず15分頑張ってみる」のが、お勧めです。何かをスタートするとき、つらかったり、不安を感じたりするのは最初の15分がピークといわれています。もちろん15分後に全く不安や苦痛がなくなるわけではありませんが、一番高いレベルでストレスを感じるのはそのくらいの時間だそうです。「最初の山場を越えれば、あとは少し楽になるよ」と励ましましょう。15分を過ぎても頑張れるようなら勉強を続けてもいいし、疲れているなら休憩してちょっとお菓子を食べてもいいですね。まずは15分を目標にしてみるといいと思います。
それでも、どうしても子どものやる気が起きない、「だるい」「何もしたくない」という場合は、「そういうときもある」と理解してあげてください。今の子どもたちは学校では毎日勉強や課題で評価され、SNSでも他人から評価されるストレスの多い毎日を送っています。そんななかで子どもたちは思うような評価をもらえず、傷つきたくないために、「あえて最初から頑張らない」という「予防策」を取ることもあるのです。
大人も職場などで評価されますが、毎日査定されることはそんなにありません。大人になれば苦手な人と少し距離を置くこともできますが、子どもたちは同じ地域、同じ学校で苦手な相手とも仲良くしなくてはいけない。親が想像する以上に大変な日々を過ごしていると分かってあげてほしいと思います。
もちろん、その状態がずっと続くようであれば、うつや不安障害などの可能性もあるので、その場合は適切な治療を受けることも大事です。子ども自身は自分にストレスがたまっているとは気付きにくいので、親が注意深く様子を見てあげる必要があります。
子どもの恋愛にはどこまで関与する?
それからスマホやタブレット、SNSを通じて子どもが友人関係のトラブルになったり、恋愛関係になることもあるでしょう。親としては気になりますが、子どもの恋愛は「本当に付き合っている」レベルもあれば、「お互い気になっている」「ちょっと意識している」くらいの友達以上恋人未満であることも多いんですね。どんな関係にせよ、基本的には親は見守るスタンスでいいと思います。
例えば、子どもが相手と本当に心がつながっていて、その人のために何かしてあげたい、尽くしてあげたいと願っているなら、見守ってあげてもいいと思います。ただ、それがスマホやタブレット、SNSと同じように「本当は他のことをしたいのに時間を奪われている」「他の大切なことをおろそかにしている」なら、ストップをかけましょう。
まずは子ども自身が気付いてストップするのが基本ですが、自分でやめられないのであれば親が「『あなたのことも大事だけど、学校の課題も同じぐらい大事だから』と言っていいんだよ」「自分らしくいられない恋愛は、良い関係ではないと思うよ」「自分が自分らしくいられる人、そういう自分を好きになってくれる人はきっと現れるよ。今、急ぐ必要はないんだよ」などと諭すようにしましょう。
親子でそうした話が正直にできる機会があれば、最高ですね。
「自分らしく生きる」というのは親にとっても大事なことです。この連載では、これまで「外的評価」と「内的評価」のお話しをしてきましたが、親も子も外からの評価ではなく、自分自身に対して尊厳を感じられるような生き方とはどのようなものか、忙しい日々の中でも時には立ち止まって考えてみることが大切です。私も日々、模索しています。簡単なことではありませんが、親も子も取り組んでみる価値のあるコンセプトだと信じています。
・スマホで「今すぐ」に慣れている子どもたちには、「小さな達成感」を味わえるようにして、モチベーションを上げる
・学校の勉強はいきなり取りかからず、小さなタスクに分けてみる
・大変なのは最初の1歩。まずは「15分」を目標に取りかかる
・子どもたちは成績やSNSで評価される毎日を過ごしている。大人以上にストレスがあるのだと理解する
文/三浦香代子 構成/木村やえ(日経BOOKプラス編集部)


