「言うことを聞かない子どもについイライラしてしまう」「周りの子と比べて、うちの子ゆっくり?」──。4月に自身初の著書『 ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る 』(文春新書)を刊行し人気を博している、米ハーバード大准教授で小児精神科医の内田舞さんは、子育てのイライラには「再評価」を試してほしいと言う。言うことを聞かなかったわが子に行った「再評価」の手法とは?(記事中の質問は個人が特定できないように一部を編集した)。

育児の悩み、不安の根底にある親のメンタルから、子どもとの向き合い方、進路やSNS、身の守り方など、子育ての疑問に3児の母である舞先生が答えます。2025年6月刊行予定

「私の子育て、これでいいの?」と思ったら

 2022年12月に掲載した記事に多くのお悩みをお寄せいただき、ありがとうございます。私も働きながら夫と一緒に3人の子どもを育てていますので、みなさんのイライラや不安はよく分かります。頂いたお悩みをテーマごとに紹介していきながら、私の考えをお伝えしていきます。少しでも、子育てのヒントになればうれしいです。

米国で夫と共に3人の子どもたちを育てる内田舞さん(写真:本人提供)
米国で夫と共に3人の子どもたちを育てる内田舞さん(写真:本人提供)
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Q1 言うことを聞かない息子にイライラしてしまいます
「小学1年生の息子がいます。お友達の名前を覚えなかったり、使った物を片付けなかったりします。やりたいようにやるので、学校でも友達ができないようです。軽度の注意欠如・多動症(ADHD)の気質もあるようです。子どもは3人いるのですが、1歳児よりも手のかかるこの子に対して、イライラがとまりません。何事も先回りして段取りよくやりたい私とマイペースの息子。10分で終わるような宿題を1時間かけてやっているのを見ると、つい怒鳴ってしまいます」

 学校に遅れないように習い事が始まる前にここまでは終わらせたい、など、親は段取りよく進めたいのに、子どもがいうことを聞いてくれないことってよくありますよね。

 3つお伝えしたいことがあります。1つ目は、「再評価」という振り返りの習慣です。再評価とは、子どもが言うことを聞かず、それに対して怒り、叱るという行動に出てしまう前に一度立ち止まって分析する方法です。その際、「感情」「考え」「行動」に分けてみるのがコツです。

 私自身のことですが、子どもたちが遊んでいて、なかなか部屋の片付けをしてくれず怒鳴りそうになったことがありました。子どもたちが私に対してリスペクトがないと感じたからです。でも「再評価」してみると、子どもが片付けをしないのは単に「遊ぶのが楽しい」から、また「片付けるのが面倒くさいから」だろうと思い直すことができました。私へのリスペクトは関係ないと気づくと、自然と怒りが収まってきました。代わりに、「5分以内で片付けられるかな?」と言って片付けをゲームにしたところ、子どもたちは楽しそうに片付け始めたのです。

 そこで、私が怒鳴って子どもを叱ったときのことを考えて、部屋がきれいになったのかを考えてみました。子どもたちは泣き、その姿に私は罪悪感にさいなまれる。親子みんなが嫌な思いをする。その揚げ句に子どもではなく、私が片付けることになっていたことが多かったのです。

部屋を片付けない子どもを叱っても、結局、親が片付けていませんか(写真/Shutterstock)
部屋を片付けない子どもを叱っても、結局、親が片付けていませんか(写真/Shutterstock)
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「叱る」以外の方法を探す

 2つ目にお伝えしたいことは、子どもに何かをやらせるときには叱るだけが手段ではないということです。子どもの自主性を促したい、自立してほしい、というお悩みも多く届きましたが、叱ることで強制的に何かをやらせても、それは「従うこと」を学ぶだけで、自主性が育つわけではありません。

 子どもに本当にしてほしいことは何なのか。目の前にある部屋の片付けなのか、それとも、自主性を伸ばすという長期的な精神的成長なのか。目的がいつの間にかすり替わっていることはないでしょうか?

 私のこのケースでは、子どもに部屋の片付けをさせることが目的だったのに、いつの間にか「子どもたちに言うことを聞かせる」ことが目的にすり替わっていたのです。「子どもたちに私の言うことを聞かせる」ために怒鳴って、私へのリスペクトを示させよう、と考えてしまったのです。

 片付けに「私へのリスペクトは関係ない」と再評価できたことで、本来の目的であった「部屋を片付けさせる」ための効果的な方法を取ることができました。このように、まずは親が自分の感情や考え、行動と向き合ってみること。余裕があれば、子どもと一緒に「再評価」してみることもお勧めします。

もし、子どもがADHDだと思ったら

 3つ目は子どもがADHDや学習障害、不安障害だった場合です。集中力がなくて会話がままならないとか、IQは高いはずなのに授業を聞いていても内容が入ってこないとか、そういうことが続いているのだったら、学校や小児科の先生との相談、心理セラピーや学校のカウンセリング、小児精神科に通うなどのサポートを考えてもいいかもしれません。障害や疾患が理由で日常生活に支障が出ているのであれば、頭ごなしに叱ってもできるようにはなりません。

 ディスレクシア(読み書き障害)がある子に「どうして読めないの?!」と怒鳴ったところで、読めるようになるわけではないように、ADHDの子にじっとしていなさいと言っても、その子は動かないことにエネルギーを使い切って、話や授業を聞く余裕はなくなってしまうかもしれません。それぞれの子どもの発達や特徴に合ったアプローチがあり、それによって宿題の仕方なども変わってくるものです。この点については、この後のお悩み相談でもお答えします。

1.感情が高まったときには一回立ち止まって「再評価」で分析する
2.「叱る」だけが手段ではない
3.小児精神科的なサポートを受けることも視野に入れる
Q2 うちの子、他の子と比べてゆっくり?と思ったら
「小3の娘はディスレクシアと診断されています。小1から学校に行きたがらず、小2の冬から不登校です。かけ算の九九の暗唱が難しかったのではないか、と思っています。自分自身でも情報を集めていますが、娘に対して十分な支援ができていないのではないか、と感じています。ディスレクシアの支援について教えてください」

 ディスレクシアなど学習障害やADHDなどの発達障害は、実は1割以上の子どもが患っているものです。これだけ多くの人が直面している問題なのに、いまだに学習環境や学校の中で異質のものとして扱われ、本来の実力が周りに理解されずにつらい思いをすることも多いのです。このようなお子さんと接するときに一番大切なのは子どもの自尊心を守ることです。一般的な物差しでその子を測らないこと。社会的な評価で人間の価値が決まるわけではないことを忘れないでください。

内田さんの息子さんお手製のチェックシート。日課を終えたら自分でチェックを入れる(写真:本人提供)
内田さんの息子さんお手製のチェックシート。日課を終えたら自分でチェックを入れる(写真:本人提供)
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 ディスレクシアに関しては、触覚、聴覚、視覚など様々な感覚を使って文字を覚えることをおすすめします。例えば、粘土で文字の形を作ったり、語呂合わせや歌を交えたり、文字や言葉を使ったゲームをしたり、その子の興味のある短い絵本の絵を見せながら読んだり、いろいろな方法を試してみるとよいでしょう。

 ずっと座って学ぶのが難しい子には、文字をカードにして地面に置き、「『あ』の文字から『う』の文字まで跳んでみよう」というような、体を動かすようなゲームにするのもいいかもしれません。学校では、視覚的に思い出せるように、文字と絵が並んだ下敷きや表を机の横に置くなどすることも助けになるかもしれません。簡単にできることに時間がかかるというのであれば、3分、3分、3分など時間を区切ってやってみるという方法もあります。とりあえずのゴールが見えると、頑張れるものです。

 宿題などをやるときは、最初に「文章問題と計算問題をやるよ」などと具体的に言って、体系的に説明するといいですね。ただ「宿題をやりなさい」と言っても、どこからやっていいか分からないこともあるからです。また、タスクが終わったら、達成感を感じるようにチェックマークやシールをつけてみるのもお勧めです。

 ディスレクシアは決して珍しいことではなく、学校をはじめ、社会で対応するべきことなので、家庭だけで悩まないでくださいね。

1.社会的な「物差し」で子どもを測らない
2.子どもの発達で悩むことがあれば、医師や学校に相談するのもおすすめ
3.宿題などのタスクはその子に合わせた工夫で達成感を持つことができるようにする

のび太くんはどうして0点を取るのか?

 『ドラえもん』ののび太くんは、夢や目標もある少年ですし、インテリジェンスは低いわけではなさそうです。にもかかわらず、テストでは0点を取り続けています。実際の能力と評価される学力の間に乖離があるのであれば、学習障害やADHDかもしれません。いつも眠いと言っていますし、睡眠障害もあるかもしれません。のび太くんは0点を取るなどで頻繁に叱られていますが、学習障害であれば、叱っても必ずしも改善するわけではありません。モチベーションややる気の問題だけではないのです。

内田先生の新刊、『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文春新書)。分断を超えるモメンタムをもったアメリカ社会のムーブメントから生まれた前向きな変化の兆しを3人の母親の視点から語る
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 これはアニメやマンガの世界ですが、周りの大人がその子を見て、その子にあった学習方法、あるいは治療法を探すことが必要なのではないでしょうか。
 米国の私の住んでいる地域の小学校では、多動傾向のある児童が小さなゴムボールを握りながら、授業を受けていたり、長時間椅子に座るのが難しい子がヨガボールに座りながら授業を受けたりしています。教室を歩き回ってしまうような子が、このようなツールを使用することで、違う形でエネルギーを発散し、授業に参加できることもあるのです。

 家でもヨガボールに座って宿題をしてみるとか、何かを手に持たせてあげるなど、どうしたらその子が物事に取り組めるか試してみるといいかもしれません。おやつを食べたりしながら勉強をしてもいいし、少し時間がかかるかもしれませんが、雑談しながらの「ながら作業」でもいいんです。

 子どもも大人も十人十色で、いろんな輝き方があります。だから「正しい育児」なんてないのです。「なんとか育つだろう」と子どもを信じて、一人で抱え込まずに、ご自身の気分転換もしてくださいね。

 次回は、朝の忙しい時間に我が家で行っているタイムマネジメントについてもお伝えします。お楽しみに!

取材・文/木村やえ