「朝、準備が遅い子どもをせかしてしまう」「何事にもやる気の感じられない子どもに焦る」──。今年自身初の著書『 ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る 』(文春新書)を刊行し人気を博している、米ハーバード大准教授で小児精神科医の内田舞先生が、仕事と育児でタスクに追われる方にこそ、ぜひ試してほしいという時間術を紹介します。その秘訣は「目的は何か」を定めることだといいます。
『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』
前回に引き続き、皆さんからの質問にお答えします。今回は、特に忙しい朝の時間帯に、子どもたちを遅刻せず送り出すための時間術についてお話しします。私は”あるもの”を活用しています。
アラーム活用で時間と行動を意識する習慣付けを
「何ごとも段取りよくやりたい」という声は、友人からもよく聞きます。子どもが小学生になると、子どもに期待する気持ちも強くなりますよね。我が家は、8歳、6歳、2歳の3人の子どもがいます。相談者の方と同じで、私も毎朝まったく余裕がありません(笑)。3人の子どもを送り出し、1杯のコーヒーを飲みながら仕事に取りかかる時、やっと一息つくことができる日もあれば、そのまま朝食も昼食も食べる時間がなく、一日中診察という日もあります。仕事と育児の両立は本当に至難の業ですし、朝の支度はどうしてこんなにもカオスなんだろうと、私も毎日思っています。
そんな我が家の朝のタイムマネジメントは、親が先回りして段取りをする方法です。家を出る時間から逆算し、節目の時間ごとにアラームを鳴らし、それに合わせて行動するのです。まず、前夜のうちに長男と次男の服(Tシャツ、パンツ、ズボン、靴下)を並べておきます。子どもたちを起こすと、それぞれが洋服に着替えて、2階から1階に下りてきます。
長男と次男は7時45分に家を出るので、アラームを7時40分と7時45分にセットし、残り時間が分かるようにしておきます。子どもたちは用意してある朝ごはんを食べ、7時40分までに食事を終えて、45分までの5分間で歯磨きをして、靴を履き、ジャケットを着て、リュックを背負って出かけることになっています。私はアラームの残り時間を見ながら、朝ごはんをもっと食べたかったら言ってね、などと声をかけることもあります。
アラームを鳴らすことで、子どもたちにこの時間までにこれをしなくちゃいけない、ということを分かりやすく理解させているんです。やらなきゃいけないことがたくさんあると、子どもは忘れちゃうし、いっぱいありすぎると嫌になってしまう。朝ごはんを食べながら、違うことに興味を持つこともよくあります。でも、子どもってそういうものなんです。
先取りして段取りしているうちに、それが練習になって、自分で服を選んだり、アラームが鳴らなくても歯磨きをしたりするかもしれない。自主的にできるようになる前に、親が見本を見せ、練習させる段階があってもいいと思うんですよね。
親はどこまで手伝うべきか
この話をすると、ママ友から、「いつまでたっても子どもの自主性が育たないんじゃないか」と言われることもあります。でも、まだできないことを「どうしてできないの?」と怒り、「これをやりなさい」とやらせても、それで自主性が育つことにはならないのではないでしょうか。
私はすべてのステップで「これをやりなさい」とは言っているのではありません。子どもたちは時間になったらこれをやらなきゃいけないというのを、親が用意した環境の中で何度も練習して、今では習慣化してきています。それでも「アラームが鳴ったから歯磨きの時間だよ」と促す必要がある日もあるのですが、習慣を作りながら、朝やらなければならないことが何かを学んでいくことが、自主性を育てることの第一歩なのではないかと思います。
「舞先生は怒ることはないんですか?」と言われることもあります。もちろんイライラすることはありますし、子どもに「それはダメ」と言わなければならない場面もあります。でも、イライラした時は「この状況で自分がなし遂げたいことは何だろう」と、考えるようにしています。
朝だったら、7時45分に子どもたちが家を出ることが目的です。その目的を達成するには何が必要かをまず考え、「ここで私が怒ることでその目的は達成されるだろうか」と、叱るのを思いとどまることもあります。逆に、家を出るのが少し遅れても、教えなければならないことがある時は、遅れるのを覚悟で子どもと話をすることもあります。
どちらにしても、自分の感情が高まったときは、一呼吸入れて、どのように対処すべきか考えることを意識しています。私も偉そうなことはいえないのですが、感情だけで発した言葉を子どもにかけないようにしています。子どもに何かをやめさせる、またはさせるためのしつけには、怒る以外の選択肢もたくさんあります。なるべくクリエーティブに考えるように意識しています。
2. タイムリミットが決まっているならアラームを活用する
3. タスクの「目的」をはっきりさせ、イライラしたら一呼吸おく
子どもが興味のあることを探求できる環境を
親として我が子が生き生きした姿を見たいのはもちろんです。ただ、小学生の頃は好きなことを気負いなくできていたのに、中学生になると周囲や学校からのプレッシャーを感じることが増えてしまうのか、なかなか好きなことを見つけにくくなってしまう子もいますよね。さらに、受験文化の強い日本では「勉強」の種類も限られてしまうので、それも影響しているかもしれません。そんな姿を見て、心配になられる親御さんの気持ちは、とても理解できます。
実は私は、日本の受験文化が苦手なんです。本来、人間はいろんなタイミングでいろんな興味に応じた社会への貢献ができるはずなのに、受験文化というのは「受験日に与えられた問題を、与えられた時間内に解けるか」だけの一つの軸で小学生、中高生の価値が決められているような気がするからです。
そのような受験を重視する社会では、その軸からずれた興味があった場合、その興味を追究することが難しいです。受験勉強となると与えられた情報を記憶することに重きを置きがちで、探求ではありません。塾通いのために好きな習いごとを辞めたという話もよく聞きます。そもそも、子どもが好きなことを探究する環境を大人が提示できていないのではないかと思うことがあります。
受験以外にも進学の選択肢が数多くあって、個人が興味のあることを自由に、時間をかけて探求できる環境があればいいなと思います。好きなことを見つけられなかったり、一生懸命になれなかったりするのは、子ども個人だけの問題ではないと思うんです。
多様な価値観や環境をどう作るか
好きなことを見つけるために、今までの環境と違う環境に触れることが、いい影響を及ぼしてくれることがあります。違うコミュニティーで、考え方の違う人や集団に触れることは、子どもたちにとっても、大人にとってもいい刺激になります。今までに気付かなかった自分の情熱に火が付くかもしれません。
例えば、自分が住んでいる街と違う都市に行ってみる。違う都市の同年代にどんな人がいるのか、自分はその人とどう違うのか、ということを感じることができるかもしれません。しかし、実際に触れることのできる環境や人というのは限りがあるものです。だからこそ、本や映画、漫画を通して触れるさまざまな価値観や経験に意味があるのです。もし積極的に何か新しいものを求めることが難しければ、映画などを一緒に見るというところからスタートしてもいいかもしれません。
また、子どもが自分の好きなことを見つけたときには、それが社会から求められている「勉強」とは違ったとしても、親自身がそのことに好奇心を持ち、接することも大切です。それが危険なものでなければ、そのための時間を作ってもいいでしょう。
子どもがSNSやゲームばかりに夢中になっているという相談を受けることもあります。その場合、子どもからSNSやゲームを取り上げるのではなく、どこにひかれているのか、何が面白いのか子どもの言葉で説明させるといいでしょう。その課程で良いところも、悪いところも見えてくるかもしれません。
親の立場として、具体的に説明してあげたほうがいいこともあるでしょう。早いペースで流れるSNSにすぐに反応する必要はないこと、フォロワー数や反応、「いいね」の数によって気持ちが乱れることがあること。そんな時は一息ついて、SNSから離れたほうがいいということ……。SNSもゲームも中毒性があるので、頻度や付き合い方を調整しながら楽しんでいこうね、というアドバイスできるといいですね。
次回は、日本では社会問題にもなっている幼稚園や保育園や学校などへの登園拒否・不登校について取り上げます。実は私も、日本での学生生活はいい思い出ばかりではありませんでした。自分の子どもに合った教育や対応をするにはどうしたらよいかを考えていきます。
2. 多様な環境や価値観に触れることで興味が湧くものが見つかるかもしれない
3. 子どもの興味の対象が社会から求められていることと違っても否定せず、親として好奇心を持つ
取材・文/木村やえ(日経BOOKプラス編集部)


