仕事ではスケジュール管理や需要予測・予算の達成率など、日常生活では体重やお金のやりくりなど、「間違えた」「読みが甘かった…」ということはありませんか? データを見て決めたことでも「こんなはずじゃなかったのに」となることも珍しくありません。『THIRD MILLENNIUM THINKING アメリカ最高峰大学の人気講義 1000年古びない思考が身につく』(ソール・パールマッター、ジョン・キャンベル、ロバート・マクーン著/花塚恵訳/日経BP)から、ノーベル賞受賞の天才が考案し、UCバークレー、ハーバード大学、シカゴ大学、フンボルト大学をはじめとする欧米の最高峰の大学で学ばれている科学的思考法を紹介します。3回目は、系統的不確かさと統計的不確かさが及ぼす影響について。
現実世界で系統的不確かさが生じるとき
この章の目的は、系統的不確かさが生じる原因となるもの――と、不確かさを軽減する対策となりうるもの――に敏感になってもらうことにある。そこで、現実世界で生じる例を2つ紹介したい。どちらも印象に残る例ではあるが、印象の残り方はかなり異なる。
まずは、みなさんも経験したことがあるであろう、日常生活とは切り離せない系統的不確かさから見ていく。地方選挙のときに、教育委員会の委員といった無名の候補者に投票したことはあっても、選挙の結果や投票した候補者のその後は知らない、という人は多いのではないか。
調査によると、選挙の投票用紙に候補者の氏名が列記されていて、ほかの条件がすべて同じである場合、最初に書いてある候補者に投票する人の数がわずかに多いという。最初に氏名が記された候補者は、残りの候補者より約5パーセント多く票を勝ち取る。5パーセント増で勝利が決まる選挙は多いので、その影響は本当に大きい。
意外に思うかもしれないが、同じことを視覚的にではなく口頭で行うと、正反対の影響が生まれる。世論調査員が候補者の氏名を順に読み上げて、誰に投票したいかと投票者に尋ねた場合にもっとも多く票を得るのは、“最後に読み上げられた人”になるのだ。ということは、ある候補者の氏名が投票用紙の最初に印字された選挙が行われる場合、その投票用紙に記された順に候補者名を読み上げながら電話で世論調査を行えば、その調査にもとづいて予測された勝者はまったくの的外れとなるのではないか。投票用紙の最初に氏名が印字された候補者は、電話調査では5ポイント不利になるが、実際の選挙では5ポイント有利になるのだから。
「系統的不確かさ」歪められる重要な意見
これはなんともおかしな話ではないか! 系統的な偏りが生まれる原因がわかっていながら、なぜ投票用紙に印字される候補者氏名の順序をすべて同じにするのか?
カリフォルニアで行われる州議会議員選挙では、候補者氏名の並び順で系統的な偏りが生まれる問題に気づいた誰かが、その問題を解決すべく、投票用紙に印字する候補者の順序をランダムに選んだまではよかったが、“すべての”投票用紙に同じ順序で印字されてしまった。もちろん、これでは問題は解決しない。この対策をフェアだと思うなら、フェアという言葉の意味のとらえ方がおかしい。候補者全員の氏名が均等に投票用紙の最初に印字されるのであれば、全員に平等に5パーセントの得票率アップのチャンスが生まれるが、すべての用紙で候補者の順序が同じでは、対策にならないのは明白だ。
ここで必要となるのは、アンフェアだったものをフェアにすることではない。そうではなく、自らの意思で誰に投票したいと思うかを捕捉し、氏名を目にする順序で選ぶと思われる5パーセントの人たちの影響を及ばないようにする必要がある。
奇妙なことに、カリフォルニア州全体にわたって行われる連邦議会議員選挙では、同じ間違いはされていない。投票用紙の印字と配布は各郡で行われ、印字される氏名の並び順はカリフォルニアの58の郡によって異なる。これでもまだ完璧な対策とはならないが、用紙の最初に氏名がくるメリットは平均化すると期待できる。出張で、複数のホテルの体重計で測った体重を平均化するのと同じだ。
「平均気温の上昇」 測り方が変われば結果は大違い
2つ目の現実にある例は、統計的不確かさと系統的不確かさの両方を認識して対処することの大変さを教えてくれるものだ。
今日では、前世紀に測定し続けた地球の温度変化の正否を明らかにすることが極めて重要だとされている。私たちの理解が間違っていれば(蓋然的な理解なのだから、間違えることは当然ある!)、勝手な勘違いで誤った対処を行うことや、何もせず気象災害を許すことで、多大な被害をもたらしかねない。
世界中の気象学者たちは20世紀からいまなお、温度計を使って自分が暮らす地域の温度を日々測り続けている。彼らが測定した値は、気候科学の研究者たちが地球の平均温度の変化を推定するときに活用されていて、そこから下記のようなグラフが完成する。そのグラフは、20世紀のあいだに平均温度が上昇したことを示唆していて、そこには統計的不確かさと系統的不確かさの両方の存在がはっきりと見て取れる。
日々の測定では、さまざまなノイズが生じる。測定する場所、日、年によって小さな気象上の違いがあるせいで生じるノイズもあれば、温度計の設置の仕方が完璧ではないせいで生じるノイズもある。
この種の不確かさは、「統計的不確かさ」として把握されるべきものだ。十分な量のデータがあれば、平均化によって解消される。一方、20世紀の初めと終わりで変わったことについては、系統的な偏りの原因となりかねないのではるかに危険だと言える。
エラーを管理し相殺する
系統的に生じたエラーの場合、20世紀のあいだずっと同じエラーを(サラのコーチの反応の遅れのように)繰り返していたのであれば、相殺されるので心配はいらない。
たとえば、世界中の全員が一日の平均温度を必ず正午にだけ測定したとすれば、一日の平均温度は高いほうへ系統的に偏る。だが、このエラーが20世紀のあいだじゅう続いていたなら、温度変化の測定値に系統的な偏りは生まれない。
ただし、20世紀を通して測定値の偏りに変化が見受けられる場合は、温度変化の測定に憂慮すべき系統的なエラーが生じている。
たとえば、温度が記録された場所に関する系統的な変化に目を向けるとどうか。20世紀の前半では、研究者が暮らす欧州や北米で測定されることが多かったが、年月がたつにつれ、アフリカ、南米、アジアで測る研究者が増えていき、地理的により均一に測定されるようになった。
地理的な変化としては、都市化の広がりもあげられるだろう。20世紀の後半になるにつれて都市部に暮らす人が増え、温度の測定も都市部の近くで行われるようになっていった。ご承知のとおり、都市部の気温はヒートアイランドと呼ばれる現象のせいで、都市部周辺の郊外に比べて高くなる傾向にある。
いまあげた系統的不確かさはまさに、地球温暖化が重要な政策問題となったこの数十年で懸念されるようになったことだ。これらの問題を扱うグループのひとつが、都市に近い地域と郊外の地域において、20世紀のあいだに生じた温度変化の比較調査を行った(ソールもこのプロジェクトに協力した)。
このやり方なら、系統的不確かさの原因を効果的に管理できる。調査の結果、都市部と郊外の温度変化の差は、懸念されていた地球温暖化の影響よりはるかに小さいと判明した。つまり都市化の広がりは、20世紀に測定された地球の温度変化を示す値に系統的な偏りをもたらす主な原因ではないということだ。
では、温度を測る時間帯についてはどうか? 調べてみると、日々の平均温度の算出に使用されていた温度の測定方法と測定タイミングが途中で変更されていた。一例をあげると、20世紀の初めのころ、当時のアメリカ気象局は日没あたりでの測定を推奨していたが、20世紀の終わりでは、アメリカで測定される温度のほとんどが午前中に測定されるようになった(午前中のほうが涼しいと思われる)。そのため、時期を区切って平均温度を算出しようとすると、測定方法の違いを補正する必要があり、算出が難しくなる。
ニュース報道の「海面温度の上昇」を安易に信じてはいけない理由
温度の測定に関して変わった点がもうひとつある。それは、海面の温度にかかわることだ。
20世紀の前半では、船から紐をつけたバケツを海に投げて引っ張り上げ、バケツのなかの水の温度を測って海洋の温度としていた。ところが第二次世界大戦のあたりから、船のエンジンの冷却水取り入れ口に温度計を設置して測定する方法に切り替わった。
想像がつくと思うが、この2種類の方法から得られる結果は少々異なるものとなる。冷却水取り入れ口に入ってくる水は、バケツで汲む水よりもっと深い部分の海水だ。それに、当時測定していた人たちは、温度の記録を比較したがる人がのちに現れるとは思っていなかったので、2種類の方法で温度を測定して補正することもなかった。彼らは違う目的のために測定していたのだから当然だ。となると、当時の海洋温度を参照したすべての研究において、2種類の測定方法によって測定値に生じた未知の差をどう補正するかを考慮しなければならなくなる。
この補正をどうするかは、現在では判断が難しい。というのは、測定方法が切り替わった時代に使用されていたタイプの船が現存しないため、バケツを使って得る測定値と冷却水取り入れ口での測定値を比較できないのだ。
温度の記録のとり方が途中で変わったとわかれば、その変更自体も研究の対象になりうる。この例において研究対象として測定する必要があるのは、「温度の測定値を補正する必要性」を生み出した変更で、これには統計的不確かさが内在する。
この変更は、地球の温度変化の最終的な推定値に対して間違いなく不確かさを加えるものだ。とはいえ、答えを導き出すために測定する必要のあるもののひとつとなれば、先の章で論じた一般的な蓋然的思考を適用して不確かさを数値化し、行動を起こすに足る「十分な確実性」を何にするかを選ぶことができるようになる。
たとえば、「地球の温度変化が及ぼす影響はとても大きいので、温度が上昇していると75パーセント確信できれば行動を起こす」としたり、「リソースの変更が世界経済に多大な悪影響を及ぼすと主張するには、95パーセントの確信が必要だ」と定めたりすればいい。
ソール・パールマッター、ジョン・キャンベル、ロバート・マクーン著/花塚恵訳/日経BP/2420円(税込み)


