仕事ではスケジュール管理や需要予測・予算の達成率など、日常生活では体重やお金のやりくりなど、「間違えた」「読みが甘かった…」ということはありませんか? データを見て決めたことでも「こんなはずじゃなかったのに」となることも珍しくありません。『THIRD MILLENNIUM THINKING アメリカ最高峰大学の人気講義 1000年古びない思考が身につく』(ソール・パールマッター、ジョン・キャンベル、ロバート・マクーン著/花塚恵訳/日経BP)から、ノーベル賞受賞の天才が考案し、UCバークレー、ハーバード大学、シカゴ大学、フンボルト大学をはじめとする欧米の最高峰の大学で学ばれている科学的思考法を紹介します。2回目は、「2種類の不確かさ」が起こるパターンと系統的不確かさへの対処法について。
系統的不確かさはどうすれば解消できるのか?
前回
、2種類の不確かさとして、「統計的不確かさ」と「系統的不確かさ」を紹介した。
興味深いことに、この2種類の不確かさの違いを認識すると、質の高い測定(シグナルが明快で、ノイズにあまり惑わされない測定)を行うためには、不確かさの種類に応じた対策を講じる必要性を実感する。
測るたびに測定値が(測定に使うメジャーを押さえる手が少し震えるなどの理由で)ランダムに上下するようなら、測定回数を増やして統計的不確かさというノイズの影響を抑えればいい。あるいは、メジャーでの測定に慣れた人を見つけて、一貫性の高い結果を得られるようにすることもできる。
しかし、“系統的”不確かさの存在が疑われる状況になると、対策を講じることは総じてはるかに困難になるため、科学者の努力――そして本連載の残りの記述――の大半が、こちらの不確かさへの対処の仕方に注がれている。
系統的不確かさの影響が及んでいるかもしれない状況への対処は、創造力を発揮できるチャンスだと思えばいい。というのは、そういう状況で最初に行う仕事は、測定値が系統的にどちらか一方向に追いやられていると証明できる、ありとあらゆる方法を提案することになるからだ。
たとえば、
「メジャーが伸びたか縮んだかしたせいで、測定値が毎回同じ方向にずれるのではないか?」
「ほとんどの人がおそらくは無意識に、自分の実体重より軽く表示される体重計を買い求めていて、友人宅でたまたま使わせてもらった体重計でも、やはり実体重より軽く表示されるのではないか?」
という具合だ。
系統的に偏っていると証明する方法を提案したら、次はその偏りの中身を確かめる方法の考案だ。その方法で測定値への影響を制限できればなおよい。メジャーや体重計以上に、長さや重さを比較するものとして信頼できるものは何かないか? あるいは、測定に系統的な偏りがあるかないかの証明とは別に、測定に使うツールに特定の偏りがあってもなくても、問題なく測定できる方法はないか?
この最後の方法については直感的に理解しづらいと思うので(特定の偏りを無関係にすることなど可能なのか?)、具体例を提示しよう。
ランニングのタイム計測 「正しく測れない」パターンとは
サラという女性が1マイル(約1.6キロ)走の準備をしている。1マイルは、彼女が使用する陸上トラック4周分だ。
サラのコーチは、3周目のタイムを計るつもりでいる。つまり、3周目が始まるラインをサラが通過するたびに、ストップウォッチのボタンを押すということだ。そしてサラが再びラインを通過した(4周目が始まる)時点で、もう一度ボタンを押してストップウォッチを止める。
この時間の計測について考え始めると、まずは統計的不確かさとなりうるものがいくつか思い浮かぶ。
たとえば、サラは毎回まったく同じスピードで3周目を走るとは限らない。それに、サラのコーチが毎回まったく同じタイミングでストップウォッチのボタンを押すとは限らない。タイミングが少し早かったり、少し遅かったりすることはあるだろう。
こうした問題には、練習で走るたびに同じ計測をして得た値の平均値を求めることで対処すればいい(サラが疲れてしまうので、同じ日に何度も走らせる必要はない)。実際、個別の計測値全体を平均化することで、統計的不確かさの影響を減らせる状況は多い。
系統的エラー対策としての「創造性」
しかし、サラがラインを通過するときのコーチの反応が一貫して遅く、ストップウォッチのボタンを押すタイミングが“つねに”少し遅くなるとしたらどうか? これは間違いなく系統的なエラーの原因となるのでないか。コーチの反応の遅れは、計る回数を増やして平均化しても解消されない。
とはいえ、みなさんもお気づきかもしれないが、この事例の場合、コーチの反応が同じように遅れて同じようにボタンを押す動作が2回必要になる。1回は3周目のタイムの計測を始めるとき、もう1回は計測を止めるときだ。よって、計測を始めるためにボタンを押すときの反応の遅れと、計測を止めるときの反応の遅れが同じであれば、その2回の遅れは相殺されて、計測に偏りは生まれない。
そのようにうまくいくのは作り話のなかだけだろう、と思うかもしれないが、この種の独創的な対策を科学者たちはつねに探し求めながら、系統的不確かさを生み出しかねない腹立たしい原因を取り除こうとしている。第3章で説明した、薬を摂取するグループと摂取しないグループをランダムに振り分ける方法が理にかなっているという話を思い出してほしい。これは、結果に何らかの偏りが生まれる原因となりうる系統的不確かさを相殺できる賢明な手段なのだ。
ソール・パールマッター、ジョン・キャンベル、ロバート・マクーン著/花塚恵訳/日経BP/2420円(税込み)

