2024年7月3日から発行される「新一万円札」の顔である渋沢栄一はさまざまな名言を残しました。ロングセラーになっている日経ビジネス人文庫『渋沢栄一 100の訓言 「日本資本主義の父」が教える黄金の知恵』『渋沢栄一 100の金言』から、テーマごとに5回に分けて紹介します。第1回はお金や富に関する名言です。

富は卑しいものではない

Wealth is not distasteful

孔子の言わんと欲する所は、道理をもった富貴でなければ、
むしろ貧賤の方がよいが、
もし正しい道理を踏んで得たる富貴ならば
あえて差支えないとの意である。

【『論語と算盤』仁義と富貴】


現代の言葉で言うと……
 孔子が説こうとしたのは、こういうことだ。
 「心正しい方法で得た富や地位でないのなら、そんなものはいらない、貧しいままでよい。正しい道理にのっとって得た富や地位なら、持っていても何ら恥じることはない」

心正しく得た富は、誇るべきである

 富や地位を求める人には、“仁義”すなわち思いやりや、“王道”つまり筋の通った正しい心があるわけがない。
 だから、人として品性高くあれ、と心がけるなら、富や地位に対する欲望は捨てるべきであるー。

 このような偏見が、日本社会にはあるようです。
 そのため、よく、「公職に就いている者は、個人の経済活動をやめて、社会福祉にのみ寄与すべきだ」などと、極論を主張する人もありますが、そういう考え方は、大きな間違いです。

 富は卑しいものではありません。
 正しい方法で得た富は、誇ってもよいものです。

 卑しむべきものがあるとしたら、信義にもとる行為や不正によって富を得る、その間違った心のほうです。

お金はうまく集めて、うまく使え

Money, make it well & use it well

よく集めてよく散じて社会を活発にし、従って経済界の進歩を促すのは
有為の人の心懸くべきことであって、真に理財に長ずる人は、
よく集むると同時によく散ずるようでなくてはならぬ。

【『論語と算盤』仁義と富貴】


現代の言葉で言うと……
 お金をさかんに集めてさかんに使い、社会を活気づけて経済を伸長させるよう、優れた人は心がけるべきだ。
 本当に財産運用が上手な人は、集めることと同時に使うことにも長(た)けていなければならない。

貯め込むだけの「お金の奴隷」になるな

 一生懸命働き、困難を乗り越えて、あなたはやっと今、大きな富を手にしました。
 これまでの努力や才覚の対価であるそのお金は、あなたにとって、とても大切なものでしょう。

 しかし、その大切なお金を、手元に置いておくだけでは、まったく意味がありません。
 経済とは、たくさんのお金が市場を活発に回ってこそ、発展し、さらに利益を生み出すものだからです。

 ですから私たちは、お金を大事にすると同時に、上手に使うことを忘れてはなりません。
 ひたすら蓄え、貯(た)め込むだけの、「お金の奴隷」にならないよう、注意するべきです。

 ただし、使うことも、行き過ぎると乱費になります。
 貯めること、使うこと、どちらが過剰になってもいけないのです。

お金を蓄えることと使うことのバランスが大切だ(写真:usanohana/stock.adobe.com)
お金を蓄えることと使うことのバランスが大切だ(写真:usanohana/stock.adobe.com)
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世界一の大富豪になるだけでは意味はない

Being the wealthiest man in the world doesn’t mean a thing,if the society does not benefit

殖利に欲望なきものはなきはずなれども、
さて営々蓄積して、
世界第一の富豪となったればとて、
それが必ずしも国家社会の利となるわけでもない。

【「渋沢栄一訓言集」処事と接物】


現代の言葉で言うと……
 お金儲(もう)けしたいという意欲は大切である。しかし、富を成し遂げることに成功し、世界一の大富豪になったとしても、それだけでは、必ずしも国家社会の利益になっていない。

恵まれた知恵や才能も社会の発展に使うべし

 最大の「社会貢献」は税金を払うことである、という声が時々聞こえてきます。確かに、個人の収入や企業の収益が課税されて政府予算の収入となり、公益のための出費となるので、一理ある主張です。
 また、個人が自分の収入を上げたい、企業が収益を高めたいという意欲は不可欠です。向上心がうせてしまう社会は、ズルズルと停滞してしまいます。

 ただ、世界一の大富豪になっても世界一の収益を上げる企業であっても、政府に税金を払うことだけで自分の社会的責任を果たしているという思い込みは、必ずしも国家社会の役に立ってはいません。せっかく影響力がある立場に恵まれているのですから、世間のためにもっと活動を高めなければなりません。

 そもそも自分が稼いだ利益とは、経済社会の存在があったからこそ実現できたものです。税金・政府という間接的なルートだけではなく、安定した平和な経済社会が持続することに、直接的に努めることも大事ではないでしょうか。

 世界一の大富豪になれるほどの知恵や才能に恵まれているのであれば、社会に良い相乗効果を与えるアイデアも、色々と発案して実行できるはずです。

シリーズ10万部突破のロングセラー

「満足は衰退の第一歩」「『他人をも利すること』を考えよ」--。企業500社を興した実業家・渋沢栄一。ドラッカーも影響された「日本資本主義の父」が残した黄金の知恵を、5代目子孫がいま鮮やかによみがえらせる。

渋澤健著/日本経済新聞出版/定価713円(税込み)
日経ビジネス人文庫
渋沢栄一 100の金言
混迷の時代こそ渋沢栄一に学ぼう

「物事は順序を踏み、焦ってはならない」「何もせずに暮らすのは罪悪である」「なんでも政府に頼るのはだらしがない」「誰にも得意技や能力がある」「文明とは人々の知識能力で決まる」「みんなのためを口実にするな」――など「日本資本主義の父」渋沢栄一の100の熱い言葉を一冊にまとめました。

渋澤健著/日本経済新聞出版/定価880円(税込み)