なかなか寝つけない、夜中に目が覚める、朝から体がだるい、日中の眠気がひどい――。睡眠に関する悩みを持つ人は多いが、睡眠の科学研究が進めば、こうした悩みも解決する日が来るかもしれない。今回は夜中にトイレに起きてしまう「夜間頻尿」について解説し、改善法も紹介。20人の専門家が科学的根拠を基に睡眠のメカニズムを解説する最新刊『一流の研究者たちが教える 快眠の科学』(三島和夫監修、伊藤和弘著)から一部を抜粋・編集してお届けします。

夜中に一度でもトイレに起きれば「夜間頻尿」

 年を取ると、夜に布団に入って朝までノンストップで眠ることはなかなか難しくなる。どうしても、深夜に目が覚める「中途覚醒」が増えてくるのが普通だ。そして、中途覚醒の原因の1つが、トイレに起きること。すなわち「夜間頻尿」だ。

 夜間頻尿とは、「就寝から起床までの間に1回以上トイレに起きること」と定義されている。つまり、1回でもトイレに起きれば、夜の頻尿というわけだ。夜間頻尿自体は、全く珍しいことではない。40代では5割、50代は6割、60代は7割、70代以上は8割、と加齢とともに右肩上がりに増えていく。高齢になると2回以上トイレに起きる人も多く、60代では4割の男性と2割の女性、70代では5割の男性と3割の女性が、夜中に2回以上トイレに起きている(*1)。

 桜十字病院(熊本市)上級顧問・泌尿器科医長で、「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]」の作成委員長も務めた吉田正貴氏は次のように話す。

 「高齢になると、ほとんどの人が夜中にトイレに起きるようになりますが、1回くらいなら困っている人は少ないでしょう。これが2回以上になるとQOL(生活の質)に影響を及ぼすようになるという報告もありますし、3回以上だといろいろ問題も起こり、睡眠にも影響してくると思います。もっとも、3回起きても本人が気にならなければ治療の対象にはなりません。治療を考える目安は、起きる回数よりも“困っているかどうか”です」(吉田氏)

 夜間頻尿は寿命を縮める可能性もあるという。東北大学が70~97歳の784人を5年間追跡した研究によると、一晩に2回以上トイレに起きていた人たちは、起きる回数が1回以下の人たちに比べて、死亡率が1.91倍と2倍近く高かった(*2)。

 「我々は、『寝てから最初に目を覚ますまでの時間』のことを、HUS(=Hours of Undisturbed Sleep)と呼びます。これが3時間以上あればそれなりに眠れていて、その後に中途覚醒があっても、翌日にあまり疲れが残らないといわれています」と吉田氏は指摘する。

(写真:grooveisintheheart/stock.adobe.com)
(写真:grooveisintheheart/stock.adobe.com)
*1 Int J Urol.2024 Jul;31(7):747-754.
*2 J Urol. 2010;184(4):1413-8.

夜間頻尿の原因で最も多いのは、夜間多尿

 夜間頻尿の原因は、大きく3つに分けられる。「夜間多尿」「蓄尿障害」「睡眠障害」の3つだ。

 1つ目の夜間多尿とは、文字通り夜間の尿量が増えること。正確には1日の排尿量の33%を超える量が夜間(就寝から起床直後まで)に出ていることを指す。高齢になると夜間多尿になりやすい。睡眠中の尿意を抑える抗利尿ホルモンの分泌が減るとともに、心臓や筋肉の衰えなどから血液循環が悪くなることなどで、夜間の尿量が増えるためだ。

 2つ目の蓄尿障害は、男性の前立腺肥大症や男女共通の過活動膀胱などの病気によって膀胱に尿を十分にためられなくなること。そして3つ目の夜間頻尿を起こす睡眠障害には、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害、不眠症などがある。

 これらの夜間頻尿の原因の中で最も多いのは、夜間多尿だ。蓄尿障害や睡眠障害などが背景にある場合は、医療機関を受診して原因となる病気を治療することになるが、一方で「夜間多尿はセルフケアで良くなることも多いので、医療機関でもまずはそれを勧めます」と吉田氏は話す。

就寝4~5時間前までに「足のむくみ」を取る

 夜間多尿の診断においては、「排尿記録」をきちんとつけて、何時にどれくらい尿が出たかを調べる必要がある。吉田氏によると「夜間の1回の排尿量が昼間と同じかそれ以上の人、夕方になると足がむくむ人は、夜間多尿の可能性が高い」という。

 加齢や運動不足で血液の循環が悪くなると、下半身の血管から水分が漏れ出して細胞の隙間にたまり、夕方になると足がむくんでくる。足がむくんでいるかどうか確認するには、すねを指でグッと押してみよう。指を離したとき跡が残るようなら、むくみがあると考えてよい。

 その状態で布団に入ると、外に出ていた水分が再び血管の中に戻る。すると血中に増えた水分を減らすため、夜間に大量の尿が作られるようになるというわけだ。

 「摂取した水分が尿として排出されるまでには4~5時間かかります。つまり、就寝の4~5時間前までに足のむくみを解消し、たまった水分を血管に戻しておけば、夜中に作られる尿の量が減るわけです」(吉田氏)

 むくみを解消するには、むくみが起こるふくらはぎの血流を良くすることが大切。そのために効果的なのは「運動」だ。吉田氏は「ウォーキング」「足上げ」「弾性ストッキング」などが効果的だという。

ウォーキングができない日は「足上げ」を

 ウォーキングをするなら、就寝の4~5時間前、例えば午後11時に布団に入るなら、午後6時から7時にかけて30分程度行うとよい。歩幅を大きく取り、普段より速めに歩くことを心がけると、ふくらはぎの筋肉がよく動き、より血行が促される。

 ウォーキングができない日は、足上げをしよう。仰向けに寝て、高さ10~50cmのクッションや座布団の上に足を乗せ、そのまま30分キープする。足を高く上げることで、血管の外に染み出た水分が血管に戻ってむくみが取れる。足上げをする時間帯は、やはり就寝の4~5時間前がベストだ。なお、横になっても眠ってしまってはいけない。夕方に眠ると夜の睡眠が浅くなり、入眠困難や中途覚醒も起こりやすくなる。足上げをするときは、本を読んだりスマホを見たりして、くれぐれも寝落ちしないように注意しよう。

夕方に横になって足を10~50cm程度上げる。クッションや座布団などで高さを調節するとよい(写真:venusangel/stock.adobe.com)
夕方に横になって足を10~50cm程度上げる。クッションや座布団などで高さを調節するとよい(写真:venusangel/stock.adobe.com)

 弾性ストッキングとは、通常よりも締めつける力を強くした特殊なストッキングのこと。膝下から足首にかけて段階的に圧力が強くなっているため、血液が下から上へと戻りやすく、足のむくみを予防する効果がある。医療用として売られており、医療機関のほか、ドラッグストアでも購入できる。「着圧ソックス」などの呼び名で売られている美容目的の商品もあるが、「むくみ対策」や「血行促進」と書かれたものを選ぶとよいだろう。

 「つま先や足の甲が覆われないタイプもありますが、足の甲にも水分がたまるので、通常の靴下のようにつま先まできちんと覆うタイプにしましょう」と吉田氏はアドバイスする。

 着圧が強すぎると逆に血行が悪くなってしまうので、きついと感じたら着圧の弱いものと代えるか、着用時間を短くしよう。ただし、就寝時や、運動や足上げをしているときは、締めつけないほうがよいので、忘れずに脱いでおこう。

水分と塩分のとり過ぎにも注意

 「夜間多尿のセルフケアで大切なことは、運動のほか、水分と塩分の制限です」と吉田氏は言う。続いて、水分と塩分の制限にも触れておこう。

 1日に飲む水の適切な量は「体重(kg)×20~25mL」とされる。体重が70kgの人でも1400~1750mLなので、1日2Lも飲む必要はない。もちろん脱水は良くないが、必要以上に水を飲んでも尿の量が増えるだけだ。「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]」にも「過度の飲水がいわゆる“血液をさらさらにする”効果により、脳梗塞や虚血性心疾患の予防になっているというエビデンスはない」と書かれている。

 アルコールの利尿作用はよく知られているが、カフェインにも利尿作用がある。日が暮れたら、コーヒー、紅茶、緑茶は控えたほうがよいだろう。お茶が飲みたければ、カフェインの入っていないルイボスティーやデカフェ(カフェインレスコーヒー)にしよう。

 野菜や果物は水分が多いことに加え、含まれるカリウムにも利尿作用がある。カリウムは血圧を下げる作用がある大切なミネラルだが、夜に野菜や果物を食べ過ぎると夜間頻尿を起こしやすくなるわけだ。

 世界有数の健康食とされる「和食」だが、唯一の欠点は塩分が多いことといわれている。ご存じの通り、塩分のとり過ぎは血圧を上げ、のどが渇いて飲む水の量も増やしてしまう。また、高血圧の人は夜間多尿になりやすいことも分かっている。

 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、1日にとる食塩の目標量は成人男性が7.5g未満、成人女性が6.5g未満だ。これは健康な人の場合で、「高血圧治療ガイドライン2019」では1日6g未満が推奨されている。加工食品を買うときは「食塩相当量」をチェックし、ラーメンのスープはなるべく飲まないなど、減塩を心がけよう。

日経Gooday(グッデイ) 2025年7月1日付の記事を転載/情報は掲載時点のものです]

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三島和夫(監修)、伊藤和弘(著)、日経BP、1760円(税込み)