アニメ、ゲーム、映画などのエンタメIPを分析する上では、ストーリー、キャラクター、世界観という3要素に注目する必要がある。『ドラえもん』の魅力はキャラクターの力によって支えられている。『君の名は。』や『タイタニック』は、あのストーリーがあるからこそ感動する。『スター・ウォーズ』はジェダイが活躍し、フォースが存在するという世界観がなかったら、平凡な宇宙戦争映画になってしまうのではないか。『 オタクベースの物語づくり入門 永久不滅のIPの法則 』からの抜粋で解説する。

時代を超えて愛され続ける作品

 エンタメコンテンツにおいて、1つのシリーズやブランドが数十年にわたって続くことは稀だ。人々の嗜好の変化、技術の進歩、制作体制の変化などとともに、新しい作品が次々と生まれ、1つのオリジナル作品をもとにしたシリーズや関連作品が長期間にわたり関心を惹き続けることは至難の業である。

 それにもかかわらず、いくつかの作品はこの難関を突破し、時代を超えて愛され続けている。たとえば、70年以上にわたってシリーズが続く『ゴジラ』や、60年の歴史を誇る『ウルトラマン』、そして米国で世代を超えて愛され続ける『スター・トレック』や『スター・ウォーズ』がある。世界的な人気を誇る『ポケットモンスター』、そして半世紀近くにわたってシリーズ展開が続く『ガンダム』の存在感も衰えない。

 幼児向けのコンテンツに目を向ければ、『アンパンマン』のように教育要素を含みながらエンタメ性を追求した作品も安定した地位を築いている。『ドラえもん』は世代を超えたファンを持つ。こうした作品は、視聴者の成長とともにファンが「卒業」していくものと思われがちだが、親から子へと受け継がれることで、ファン層を拡張している。

 『仮面ライダー』『スーパー戦隊』『プリキュア』などのシリーズは、定期的にキャラクターや物語を刷新しながらも、基本的なテーマやフォーマットを維持することで、新しい視聴者を取り込み続けている。こうした柔軟性と一貫性の両立は、冷静に考えてみれば不思議だろう。

大ヒットしても単発で終わる作品

 一方で『ターミネーター』や『エイリアン』はシリーズが続いたが、高く評価されているのは『2』までだ。社会現象となるほどまで大ヒットした『タイタニック』『千と千尋の神隠し』『君の名は。』は名作として多くの人の心に残っているが、そのグッズが売れ続けていたりするわけではない。

 ある作品が人々を強烈に惹きつけたものの、IP(Intellectual Property、知的財産)として持続しない場合もあれば、ある作品のキャラクターがストーリーから切り離されアイコンとして独立し、存在感を示し続けるケースもある。

 作品が一時的にヒットすることと、IPとして長期的に愛され続けることは、別の話である。では、IPとしての持続的成功は、何によってもたらされるのか。この問いに答えるために、まずはエンタメコンテンツにとって重要な要素は何かを考えてみよう。

メディアによって違う重要な要素

 映画、小説、アニメ、マンガ、ゲーム……。それぞれメディアの特性は異なるが、突き詰めればすべて「心を動かす体験」を設計・提供する営みである。どのような表現形態であれ、エンタメの根底には必ず「人の心を動かす」という共通の目的がある。エンタメとは、単なる娯楽ではなく、「感情を揺さぶる仕組みを持ったビジネス」であり、感動・驚き・没入・共感といった心に作用する情報産業と言えるだろう。

 たとえば映画は、約2時間の中で物語を完結させる映像体験だ。強いインパクトを与える映像美や演出、音楽によって一気に観客を引き込み、短い時間の中で濃密な感動を生み出すことができる。そのためには、導入・展開・クライマックス・余韻までの流れを強く意識し、感情のうねりを短時間に凝縮することが求められる。

 小説は、映像や音声といった補助装置がない代わりに、文字だけで登場人物の内面や世界の細部を丁寧に描き出すことができる。読者の想像力に大きく委ねられているため、読者一人ひとりが理想のイメージをつくり上げていく。読者との関係性は深く、個人的である。その分、大衆性や拡張性には限界があるが、コアなファンを獲得しやすい。

 アニメは、映画的な要素に加えて、現実の制約を超えたビジュアルと声優の表現力によって、キャラクターの魅力を最大限に伝えやすい。中でもテレビアニメは、定期的な放送を通じて視聴者の「日常」に入り込む。エピソードが積み重なることで、登場人物や物語への親近感が自然と育ち、生活の一部として愛着が湧いてくる。

 マンガは、絵と台詞とコマ割りの組み合わせによって、疑似的に映像的な感覚を作り出し、ストーリーをテンポよく伝えることが可能だ。連載マンガは、テレビアニメ同様に「続きが気になる」という習慣性を生み出す。さらに、マンガは他メディアへの展開がしやすく、アニメや映画、ゲームの原作にもなっている。まさにIPの起点とも言える。

 ゲームは、プレイヤーが能動的に参加するコンテンツである。自分でコントロールしながら虚構の世界に入っていくという特徴は、他のメディアにはない没入感を生み出す。それは長期的なプレイ時間となって人の心を惹きつけ続ける力を持っている。

 このようにメディアごとに特性は異なり、人を惹きつけるためのポイントがさまざまにある。それぞれのメディアごとに、コンテンツ作りの鉄則や教科書がある。

メディアが違っても共通する成功要素

 しかし、メディアは違っても、成功しているコンテンツには、その魅力を支えている共通要素がある。それは「ストーリー」「キャラクター」「世界観」である。

  • 感動的なストーリーがあれば、感情を揺さぶり、人々の心をつかむことができる。
  • 魅力的なキャラクターがいれば、熱心なファンがつき、人々の心に長く残り続ける。
  • ユニークな世界観があれば、没入したくなり、新たな物語やスピンオフ作品を生み出す土壌となる。

 このストーリー、キャラクター、世界観という3つの要素こそが、IPの持続的成功を支えるものである。つまり、メディアの特性や制作の手法が異なっていても、ストーリー、キャラクター、世界観によって作品の価値を高めることができれば、IPとして持続する名作が生まれやすい。

IPの魅力はどの要素に支えられているか?

 IPの分析において重要なことは、「そのIPの魅力が、3つの要素のどこから生まれているのか」「3つの要素のどれによって支えられているのか」を見極めることである。

 3つの要素は密接に結びつき、絡み合っていて、切り分けられるものではない。それでも、3つの要素を分けていくことが、IPの分析には欠かせない。絡み合っている関係を解きほぐして、どの要素によって作品の魅力が支えられているかを考えるのである。

 そのIPはストーリーの面白さによって人を惹きつけているのか、キャラクターの存在感によって成り立っているのか、あるいは世界観を基盤にしているのか。それを認識することによって、IPの持続的成功の法則をロジックとして捉え、再現可能な形に翻訳することができる。それが本書の「IPメソッド」の核心である。

 私は、3つの要素とIPという概念を組み合わせることにより、作品を「ストーリーIP」「キャラクターIP」「世界観IP」に分類している。

 ここでわざわざ「IP」を付けているのには理由がある。単純に「ストーリー重視」の作品がストーリーIP、「キャラクター重視」の作品がキャラクターIP、「世界観重視」の作品が世界観IPではないということだ。

 たとえば『エイリアン』や『ターミネーター』には、アイコンにもなっている強烈なキャラクターがいるが、それらの作品はストーリーIPと捉えたほうがいいだろう。『名探偵コナン』は毎回の謎解きストーリーは面白いが、キャラクターIPと見るべきである。『ガンダム』はストーリーにもキャラクターにも魅力があるが、世界観IPだからこそ約半世紀も続いてきた。

「この要素がなくなったら?」と考えてみる

 繰り返すが、そのIPの魅力が何に支えられているのかを見極めることは重要だ。ストーリーによって人を惹きつけているのか、キャラクターによって成り立っているのか、あるいは世界観を基盤にしているのか、特徴を分析する必要がある。

 IPの見分け方をまとめてみよう。

(『オタクベースの物語づくり入門 永久不滅のIPの法則』より)
(『オタクベースの物語づくり入門 永久不滅のIPの法則』より)

 ストーリーIPは物語そのものが強力な魅力を持っている。観客や視聴者は物語の展開に心を揺さぶられ、結末を見届けるために作品に引き込まれる。つまり終わることが魅力や価値を作っている。悲劇はその典型だ。主人公の死などによって終わってしまうからこそ、ストーリーとして強烈なのだ。

 たとえば『タイタニック』は、あの悲劇の物語が作品の核となっている。船の沈没という歴史的事実を背景にしたラブストーリーが多くの人々の心を打ち、強烈な印象を残した。これは明確にストーリーIPと言える。

 キャラクターIPは、個性的で強烈なキャラクターが物語の枠を超えて愛され続ける価値を持ったコンテンツである。キャラクターのビジュアルや性格、名台詞などが人々の記憶に残り、キャラクターそのものがブランド化される。このため、キャラクターを軸にしたスピンオフや商品展開がしやすく、長期的なビジネスに適している。

 たとえば『名探偵コナン』は、江戸川コナンというキャラクターが存在することで物語が成立している。作品の核となっているのは、ストーリーや世界観ではなく、「コナン」というキャラクターの圧倒的な存在感である。彼の推理力や行動が物語を動かし、シリーズを支えている。このため、『名探偵コナン』はキャラクターIPに分類できる。キャラクターが視聴者や読者の心に深く刻まれ、コナンという存在そのものがブランドとなっているのだ。

 世界観IPは、作品世界のルールや文化、歴史がしっかりと構築されており、その中で無数の物語を生み出すことが可能だ。主人公に依存せず、世界そのものがブランドとなるため、ストーリーやキャラクターを入れ替えながら、長期的な価値を維持しやすい。そしてファンはこの世界に何度でも戻りたいと感じる。それゆえ他のメディアへの展開、たとえばゲーム化などメディアの枠を超えた展開も容易になるし、その世界観での小道具やキャラクターがグッズになりえる。『スター・ウォーズ』のライトセーバー、『機動戦士ガンダム』のプラモデルが典型例だろう。

 IPの種類を見分ける方法としては、「この要素がなくなったら?」と考えてみればいい。

 たとえば『ドラえもん』から、ドラえもんというキャラクターがなくなったら、作品は成立しない。つまり『ドラえもん』の魅力はキャラクターの力によって支えられている。『君の名は。』や『タイタニック』は、あのストーリーがあるからこそ感動する。『スター・ウォーズ』はジェダイが活躍し、フォースが存在するという世界観がなかったら、平凡な宇宙戦争映画になってしまうのではないか。

ガンダム47年、ゴジラ71年、ドラえもん56年、コナン32年、マリオ45年、FF38年、ポケモン30年――。アニメ、ゲーム、映画などの名作のうち、単発ヒットで終わる作品と、長期的・多面的に稼ぎ続けるIPへと進化する作品は、どこが違うのか? ゲームデザイナーとして数々の受賞歴があり、アニメの世界観監修なども手掛ける著者が、「ストーリー」「キャラクター」「世界観」という3つの視点から「永久不滅のIPの法則」を解き明かす。

イシイジロウ(著)/日経BP/1980円(税込み)
 新刊『オタクベースの物語づくり入門 永久不滅のIPの法則』の刊行を記念して、著者のイシイジロウ氏が独自のIP分析論を語るイベントが、2026年8月4日(火)19時から、青山ブックセンター本店(東京都渋谷区)で開催されます。入場料は1650円(税込み)、先着100名のお申し込み順(現在受付中)で、本書を持参もしくは購入いただいた方はサイン会にご参加いただけます。
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