「頭がいい人とそれ以外の人の違い」について、偏差値35から東京大学に合格した僕(西岡壱誠)が考える本連載。入試シーズンのこの時期に、あらためて教育格差と経済格差について考えてみたいと思います。東大生には、世帯年収の高い家庭の子が多いとされます。経済的に恵まれているほうが入試で有利なことは否定できませんが、貧しい家庭から東大に合格する学生はいます。経済格差を乗り越えた人たちには、どんな特徴があるのでしょうか。世帯年収300万円台の家庭から東大に合格した布施川天馬くんに、話を聞きます。

西岡壱誠(以下、西岡):本日は、世帯年収300万円台の家庭から東大に合格した布施川くんに話を聞きたいと思います。

布施川天馬(以下、布施川):よろしくお願いします。

西岡:早速ですが、布施川くんが東大を目指そうと思ったのは、「家から近かったから」だそうですね。

布施川:はい。「自宅から通える国立大学」が、東大しかなかったので、東大を目指しました。

西岡:すごいなぁ、と思うのですが、意外とよく聞く話でもあります。経済的に恵まれない家庭で育った東大生に、なぜ東大を目指したかを尋ねて、「自宅から通える国立大学が東大だけだった」という答えが返ってくることは、結構あります。ただ、首都圏の国立大学ということなら、ほかにもある気がしますが。

布施川天馬(ふせがわ・てんま)
布施川天馬(ふせがわ・てんま)
1997年生まれ、東京大学文学部4年生。世帯年収300万円台の家庭に生まれ、予備校に通うだけの金銭的余裕がなかったため、独自に「お金も時間も節約する勉強法」を編み出し、1浪の末、東大合格を果たす。著書に『東大式節約勉強法』(扶桑社新書)、『人生を切りひらく 最高の自宅勉強法』(主婦と生活社)など。「東大カルペ・ディエム」のメンバーとしても、書籍執筆に携わる

ドラゴン桜「水野直美」との共通点とは?

布施川:うちの自宅からだと、例えば、国立市(一橋大学の所在地)でも、通うのに片道2時間くらいかかっちゃうんですよ。

西岡:なるほど、まるで「ドラゴン桜」に出てくる水野直美みたいですね。漫画の舞台である龍山(りゅうざん)高校の立地は、様々な描写から東京の御茶ノ水駅の近くだと推察されます。自宅から通学していて、経済的に恵まれない水野にとって、東大は「自宅から通える国立大学」であるはずで、意外に現実的な選択肢だったというのは、多くの東大生が指摘するところです。

『ドラゴン桜』の最初のシーン。JR御茶ノ水駅とおぼしき駅の近くの橋で、水野直美がテストの答案を破り捨てる。 『ドラゴン桜』第1巻・1限目「学校倒産!?」 (C)Norifusa Mita/Cork
『ドラゴン桜』の最初のシーン。JR御茶ノ水駅とおぼしき駅の近くの橋で、水野直美がテストの答案を破り捨てる。 『ドラゴン桜』第1巻・1限目「学校倒産!?」 (C)Norifusa Mita/Cork
画像のクリックで拡大表示

西岡:でも、布施川くんが「大学に行こう」と思ったのはなぜだったんですか? 経済的に恵まれない家庭では、たとえ成績がよくても、就職するという選択肢が浮上するものだと思います。

布施川:大学に行ったほうが、お金が稼げそうだと考えたんです。僕の一族は、みんな、さほどの学歴はなくて、全員自営業なんですよ。誰一人サラリーマンがいなくて、父母も祖父も、みんな自営業で、その結果、経済的に苦労している。そういうのをよく見て育っていたので、「自分はもっと稼げる仕事に就いたほうがいい」「自営業より、サラリーマンのほうがいいんじゃないか」「サラリーマンで稼げる会社に入るなら、大学に行ったほういいだろう」と思いまして。

西岡:高校までは、どんな感じだったんですか?

布施川:実は、私立の中高一貫校に通っていました。

特待生から転落したら退学

布施川:地元の公立中学がすごく荒れていたので「この学校では、生きていけない」と思って、中学受験をさせてもらいました。授業料などが免除される特待生として入学して、「特待生から転落したら転校する」と、親と約束していました。

西岡:そんな布施川くんの大学受験は波瀾(はらん)万丈で、お母さまが乳がんで入院し、おじいさまが危篤状態になって亡くなったとうかがいました。すごく大変だったろうと思いますが、どの時期ですか。

布施川:母の入院が高校3年の9月、祖父が亡くなったのは2月でした。

西岡:すごい時期ですね。ショックだったんじゃないですか?

布施川:まぁ、そうですね。母の乳がんに関しては、結構進行している、みたいな話もありましたし。しかも当時、父の会社が倒産しかかっていて、父は、母の面倒を見ている場合ではなかったんですよ。だから、僕が母の面倒を見るしかなくて。

 抗がん剤の副作用で、母はほとんど歩けなくなってしまったんです。歩けてもすごくゆっくりで、僕らの家から最寄りの駅まで、普段は歩いて8分くらいなんですけど、そこを1時間とか1時間半とかかけながら、病院まで一緒に通っていました。母を1人で歩かせてしまうと、横断歩道を渡っている最中に信号が赤になっちゃいますから。あとは、やっぱり抗がん剤の副作用で、夜中に突然、母の髪の毛がどさっと抜けてしまったことがあって、そのときは夜中に帽子みたいなものがどこかに売っていないかと、近所を走り回りました。全身がかゆくて眠れないという母を夜通し慰めるとか、いろいろありました。

西岡:勉強なんて、手につかなかったんじゃないですか。

布施川:それはそれとして勉強しましたね。だって、仮に、母が死ぬとか、父の事業がダメになって、我が家の家計が破綻するとか、そういう話になったとき、勉強していないと、なおさら僕の人生、終わっちゃうじゃないですか。だから勉強はちゃんとしていました。

(次回に続く)

日経ビジネス電子版 2024年1月11日付の記事を転載]

本連載を基にした新刊が好評発売中です。偏差値35から東大を目指し、合格した著者だからこそわかる、「頭がいい人と、そうでない人の違い」とは? 「分解力」「裏技力」「アップデート力」など20個の力に分けて、漫画『ドラゴン桜』を使って解説します。「頭のよさ」をつくるのは、思考と行動、心の習慣。だから、誰だって、いつからでも、頭をよくできる! そんなメッセージをこめて、解き明かします。

西岡壱誠(著)、日経BP、1760円(税込み)