「頭がいい人とそれ以外の人との違い」について、偏差値35から東大に合格した僕(西岡壱誠)が考える本連載。引き続き、大学受験の変化について考える特別編です。クラウドEnglish(クラウド・イングリッシュ)塾長の相佐優斗さんへのインタビュー(「ドラゴン桜に学ぶ『英検準1級に3カ月で合格』の価値 受験最前線」)でも、少し触れましたが、「東大をすっ飛ばして、海外の名門大学を目指す高校生」が出てきています。どんな家庭に育ち、どんな勉強をしてきた人たちなのでしょうか。『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)の著者で、教育情報メディア「リセマム」編集長の加藤紀子さんにうかがいました。
西岡壱誠(以下、西岡):本日はよろしくお願いします。加藤さんの新刊『 海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか 』を読ませていただきました。加藤さんの著作というと、やっぱり『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)の印象が強いんですが、今度の本は、また全然違うテーマで、新鮮でした。
日本の高校から、米国のハーバード大学や英国のケンブリッジ大学など、海外の名門大学に進学した人たちを取材した本なんですね。こういう人たちって、子どものときに海外に住んでいた経験があるとか、インターナショナルスクールに通っていたとか、ちょっと「特別な子」たちなのかな、と思ったら、そうでもないんですね。
茨城の県立高校からハーバード大学に進学したり、埼玉の県立高校からケンブリッジ大学に進学したり、高校まで一般的な日本の教育を受けてきた、ごく「普通の子」ばかりを取材されていて、「なるほど、こういう切り口か!」と、思いました。
加藤紀子(以下、加藤):はい、そこが、こだわりです(笑)。しかも、短期の留学ではなく、学位の取得を目的として4年間、留学しようという人たちに絞っています。こう説明すると「裕福な家庭の子たちの話か」と、誤解されがちなんですが、決してそんなことはないんです。この本に登場する学生のほとんどは、奨学金を得るなどして、日本の大学に通うのと同じか、むしろ安い学費で、留学しています。経済的に恵まれていなくても、海外に出ていく学生は確実にいて、そういう人たちは、どうやって英語力を磨いているのだろう? という疑問がスタートでした。
西岡:今は、帰国子女だったり、親御さんが小さい頃から英語教育にお金をかけていたりして、その結果としてネーティブ並みに話せる大学生というのも結構います。そういう環境にいなくても、ハーバード大学に進学して、授業にもちゃんとついていっていると聞けば、勇気づけられますが、本当に、そんなことが可能なんですか?
加藤:はい、日本の子たちはもっと自信を持っていいと思いますよ。

日本人に足りないのは「場数」
加藤:学校の授業で学んだ英語や、高校受験の勉強は絶対無駄になりません。単語を覚えたり、文法をマスターしたりするのは筋トレのようなもので、第2言語の習得には絶対に必要です。ただ、日本人の英語学習は筋トレをずっとやっている感じで、場数が足りないだけなんです。英語を使う場所さえあれば、全然勝負できると思います。できていないのは、実際に英語を使ってみるというその一点だけ。
西岡:とにかく失敗してもいいからやってみよう、という気になるかどうかですね。留学はそういう点ではとてもいい選択ですよね。
加藤:そうですね。英語圏に行くと、当然ですが、英語を使う機会は増えますからね。英語圏でなくても、海外に行けば、自分とは文化が異なる人たちとコミュニケーションを取る場数が圧倒的に多くなります。留学すると強制的にそういう環境に身を置くことになるから、単純な英語力だけでなく、コミュニケーション力がとても鍛えられるんですよね。
でも、海外の大学に行く子たちは、留学する前に、筋トレを十分にしているのはもちろん、多くの場数を踏んでいます。お金をかけなければ、場数を踏めないわけではないですから。自治体の海外派遣プログラムならば、あまりお金はかかりませんし、オンライン英会話を活用するのもいいですよね。あるいは意識的に英語で独り言を話すといった工夫をしながら、自主的にどんどん場数を増やしているんです。
ドラゴン桜が推薦する「SNS学習法」
西岡:場数を増やせないのはきっと、外国の言葉で話すときに恥ずかしいというか、失敗するのが怖いんですよね。英語だけではないと思いますが、学力を伸ばすうえで「失敗してもいい」「とにかくやってみよう」という精神が大事、ということは、『ドラゴン桜2』でも述べられています。
東大を目指す早瀬菜緒と天野晃一郎は、桜木建二先生の指令で、英語を使ってSNS(交流サイト)をやるんですね。早瀬は、12歳の帰国子女という設定で毎日ツイートして、天野は、ユーチューブで受験生ライフを語る。
加藤:ああ、いいですね。SNSで英語が堪能な人になりきって発信するわけですね。
西岡:そうです。ユーチューバーになった天野は、こんな感じです。
アウトプット型の勉強を取り入れよう
西岡:このシーンには、インプットばかりより、アウトプット型の勉強を取り入れたほうが知識の定着がいい、というメッセージがあります。でも、アウトプットの価値は、それだけじゃないんでしょうね。
どうせ3秒後には、みんな忘れている
西岡:「気後れしない」「自信を持つ」というのも、英語上達において重要なポイントかもしれないと感じます。『ドラゴン桜2』で、先ほどのシーンの後、英語特別講師の鍋明美先生が、こんなことを言っています。
西岡:誰かに笑われたところで、3秒後には、その誰かも別のことを考えているんだから、そんなことはどうでもいいじゃないか。こういう精神性を持っているかどうかで、英語の学習効果は変わってくるんでしょうね。
加藤:確かに。それって、非認知能力ですよね?
受験生の認知能力と、社会人の非認知能力
西岡:そうですね。考えてみれば、僕が初めて加藤さんにお目にかかったのは、『 東大メンタル 』(日経BP)という本を書くために取材させていただいたときで、この本のテーマが、まさに非認知能力でした。受験勉強というと点数の競い合いで、いわゆる「認知能力」の勝負なんじゃないかと思われがちですが、実はメンタルの力のような、数字にできない「非認知能力」も大事、ということを書いた本でした。そのための取材で、加藤さんに東大受験をしたときの話などをうかがいました。
加藤:東大受験は目指した時点で半分合格。主体的な動機付けが必要だという話でしたね。
西岡:今回、加藤さんが英語について書かれた本を読んで、考えていることは似ているなと感じました。ざっくりと言ってしまえば、「日常生活を大事に送れない人は、英語もうまくいかない」という主張だと思うのですが、「何かに打ち込んだ経験が英語力を伸ばすのにも役立つ」というフレーズがあって、おっしゃる通りだと思いました。
加藤:そこは、西岡さんの新刊(『 偏差値35から東大に合格してわかった 頭がいい人は○○が違う 』)にもつながってきますよね。
受験生としての頭のよさと、社会人としての頭のよさは違うって、いわれることがあります。受験生として試されるのは、テストで点数を取る能力で、数値化できる認知能力。それに対して、社会人になったときに問われるのは、数値化できない非認知能力である、と。
西岡さんが言うように、受験勉強にも非認知能力は必要ですが、それは見えない部分で支えになっているだけで、測られるのは、あくまでも認知能力の部分。でも社会人になると、試験の点数で能力を測るなんてことはほとんどなくて、何というか、それまで水面下で認知能力を支えていた非認知能力が、水面上に出てくるみたいな感じなんですよね。学生のときは、認知能力の下に隠れていた非認知能力が、社会人になると表出してくるようなイメージがあります。
西岡:そうですね、認知能力と非認知能力は、あくまでも両輪なんだと思います。「成績がいいだけの人なんて社会に出てから役に立たないよね」なんて言われますけど、成績を良くするには「いつまでに、どの勉強をどれくらい頑張るのか」という計画性がないといけませんし、分からないところがあったら人に聞くということもしなければならない。そこは本来、社会人と同じで、学校の勉強でも、非認知能力は、認知能力を下支えしているわけです。
さて、そんな視点から加藤さんが見て、海外の名門大学でも通用するような「頭がいい人の英語の学び方」にはどのような特徴があると思いますか?
勉強させる前に、したいことをさせる
加藤:一言で言うと、「英語を目的としていない」ということでしょうか。「その国に行きたいんだから、英語を覚えるしかない」「これをやりたいから、英語は嫌いだけどそうも言ってられない」みたいな人のほうが、英語が上達することって多いんですよね。
西岡:何と。この前、対談した「英検準1級を3カ月で取る」という塾を運営する、相佐優斗さんが「英検が目的ではない生徒のほうが早く英検に合格する」という話をされていました(「ドラゴン桜に学ぶ当事者意識 受験勉強は『時給いくら』かを考える」参照)が、まさにそれと同じですね。
加藤:そうそう。そういうマインドセットのほうが結果は出やすい。だから、「英語を勉強するぞ!」とか、あんまり思わないほうがいいと思います。フランスで活躍する日本人シェフが流暢(りゅうちょう)なフランス語を話すのは、『必要だから』身に付けたものであって、話せること自体は全く目的になっていない場合が多いと思うんですよね。
西岡:なるほど。今の話を、子どもの教育に置き換えて考えると、どんなふうに生かせると思いますか?
加藤:とにかく、好きなことを応援してあげるのがいいんじゃないかと思います。例えば、サッカーの試合が見たいなら、好きなだけ見せてあげればいい。ワールドカップ(W杯)の試合の後、日本代表の選手が英語でインタビューに答えている様子とかを見ているうち、「格好いいな」「あんなふうに話せるといいな」「英語ができたら世界が広がるんだな」と実感する瞬間が訪れるかもしれません。英語が上達したいなら英語に目を向けるのではなく、英語でしたいことにフォーカスしてみるといいと思います。
西岡:なるほど、やはりモチベーションの問題なんですね。よく、外国人の恋人をつくるといいといいますよね。モチベーションも上がるし、その人が話す言語に触れる機会が増えるから、と。
加藤:そうそう。サッカーだったら、海外リーグには、日本で中継されていない試合があったりして、「英語のニュースサイトで早く結果を知りたい!」とか考え出すと、一気に英語が上達すると思います。そうやってどんどん好きなことを極めていくと、自然に英語力も高まってくる。英語で試合の中継を見たところで、最初はよく分からないかもしれないけれど、サッカーなら、サッカーの試合でよく使われる動詞とかあるわけで、そういうものが耳で拾えるようになったりすると、成長が実感できるわけですね。
西岡:「結局、それって何に役立つの?」みたいなことを考えてしまっているときって、驚くほど頭に入ってきませんしね。
スマホの設定を変えて英語力を上げる
加藤:ですね。例えば、子どもが恐竜好きなら、勉強そっちのけで、恐竜の名前を気が済むまで覚えさせてあげればいいと思うんです。そのうち、今度は全部英語で覚えたいとなったら、英語の習得は早いです。好きなことをきっかけに、取り巻く環境を英語に変えていくのがいい。スマホの設定言語を英語に変えるのもいいですね。
西岡:確かに、スマホの設定で米国に住んでいることにすると、現地のニュースが自然に入ってきて、何となく自分が米国にいる気がしてくるという話は聞きます。
今の話で思い出すのが、『ドラゴン桜』に出てくる天才高校生、大沢賢治です。大沢と一緒に東大を目指している水野直美が、どうしてそんなに勉強ができるのかと、問いつめるシーンがあるんですね。それに対する大沢の答えを聞くと、「なるほど、頭のいい子は、こういう家庭で育つのか!」と得心するところがあり、そこは東大に合格する子も、ハーバード大学に合格する子も同じなんじゃないかと思いました。気になる方はぜひ、『ドラゴン桜』の第10巻を読んでみてください。
[日経ビジネス電子版 2023年8月17日付の記事を転載]
西岡壱誠(著)、日経BP、1760円(税込み)






