「頭がいい人とそれ以外の人の違い」について、偏差値35から東京大学に合格した僕(西岡壱誠)が考える本連載。世帯年収300万円台の家庭から、東大に合格した布施川天馬くんにインタビューしてきたシリーズは、今回が最終回。経済格差を乗り越えるため、勉強で力を入れるべきポイントを探ります。
西岡壱誠(以下、西岡):教育格差について布施川くんと議論してきたなかで、前回、「未来をつくる方程式」という考え方を、提案させていただきました。要するに、未来というのは、複雑な方程式のようのものから導かれるのだろうと、僕は考えていて、すごく単純化してしまえば、例えば……
3x+2y+6=?
……の「?」が未来だと仮定すると、3xとか2yとか6というのは「悩み」だったり「勉強」だったりするのではないか、と。
布施川天馬(以下、布施川):そうでしたね。そして、この式では「6」のような「定数」について悩むことには、あまり意味がない。だから、僕は「親ガチャ」という言葉が嫌いなんだと、話しました。
西岡:方程式には、変数がある。変数については、頑張れば変えられるから、変数のことに意識を集中させるというのが布施川くんの考え方で、教育格差を乗り越えるうえで重要なポイントなのだと思います。
ただ、変数には3xもあれば2yもあって、どこで頑張るかという問題が残ります。つまり、頑張れば成果が出やすいポイントもあれば、頑張っても成果が出にくいポイントもあると思うんです。
布施川くんは自分がどこで努力すればいいのかをしっかり考えてきたんじゃないでしょうか。

布施川:受験勉強でいえば、僕は配点が高いところで努力して、配点が低いところでは努力しないようにしました。得意・不得意では考えない。あくまで配点で考えました。
配点が大きいというのは、努力に対するレバレッジが大きいということです。レバレッジが大きいんだったら苦手な科目も頑張ったし、レバレッジが小さいんだったら別にやらない。数学はレバレッジがすごく大きかったから、最初苦手だったけど頑張って偏差値を上げました。反対に、英熟語は大した点数にならないから、全然やらなかった。イディオムも英熟語も、覚える努力はひとつもしていないんですよ。頻出の英熟語を集めた参考書とか、たくさん出ていますが、ひとつも買ったことすらない。
西岡:それはすごいなぁ……。あ、それでいうと、英語の発音やアクセントの問題にはどう対応されていましたか? 布施川くんはセンター試験の世代で、今の大学入学共通テストと違って、発音やアクセントの問題も出題されていましたよね。
アクセントの勉強はしない
布施川:勘ですね。対策したことすらないです。
だってあれ、10点とか15点とか、それくらいだったじゃないですか? 英語の配点が全部で200点だったら、発音とアクセントは全部捨てて190点満点、185点満点だと割り切ってもいい。その代わり、その他の教科も含めて、もっとレバレッジが大きいところを頑張ったほうがいいと思っていたんです。努力すべきところを見極めてリソースを投下するという、投資みたいな考え方ですね。
可処分時間は、どの受験生でも大体みんな同じです。だから、それをどのタイミングでどこに割くかの違いでしか差は出ない、と。
西岡:布施川くんは東大生になってから、時間術の本を出していて、時間術のワークショップもされていますよね。
可処分時間の計算から始めよう
布施川:はい、ワークショップでは、まず自分の可処分時間の計算からやってもらいます。
極論を言うと、無限に時間があるんだったら何やってもいいんですよ。好きなだけ遊んでもいい。
例えば、目標の達成に1万時間使えるなら、何から取りかかってもいいという状況はあり得ます。でも、現実には2000時間しかないとしたら、これからやったほうがいいよね、っていう。
たまに受験生で「浪人覚悟で」と言う人がいますが、あれは良くない。浪人を想定することで自分の可処分時間をバーチャルに増やしてしまっている。だから、自分がいつ何をすればいいかがわからなくなってしまう。受験生というのは、限られたリソースをどう振り分けるかっていうゲームをやっているはずなのに、いつの間にかリソースを無限と仮定してしまっていて、それではゲームとして成り立たないんですよ。
西岡:文学部なのに、理系的な考え方をしますね。
布施川:自分でも最近、文学部じゃなくて、理系のどこかの学科に行ったほうが幸せだったんじゃないかと思うことが結構あって。
西岡:最後に、もう一つ質問させてください。
受験はいつまでに何をしなければならないかが割合、明確で、ゲーム的に目標設定をしやすいと思うんです。でも、社会に出て行くと、そこが不明確な状況というのがたくさんあると思います。そうなったとき、どうやって目標や可処分時間を設定していくかを考えたことはありますか?
受験という目標を失ったとき、どうするか?
布施川:今は、本を書いたり、ウェブ媒体に寄稿したり、ワークショップを開催するといった「お仕事」をしているわけですが、そこでは「いただいたお仕事」の締め切りから逆算して、スケジュールを組んでいます。
今は「いただいたお仕事」をしていて、自分として「これを実現したい」という野望があるわけではないんです。でも、いつか何か野望ができたとして、おそらくその野望にはリミットがつきます。何歳までにこれをクリアしなければ意味がないとか、何年までにこれを達成しなければいけないとか、大抵の野望にはリミットがつくと思うので、そのリミットから逆算すればいいんじゃないかなと思います。
例えば「何歳までに課長に昇進したい」なら、「いつまでに、どれくらいの業績を上げたら、課長に昇進できるのか」を調べる必要があるでしょうし、そこからじゃあ「どういうプロジェクトに参加しなければいけないか」「そういうプロジェクトに参加するには、何をしたらいいか」「誰々さんと仲良くしたほうがそういう仕事がもらえそうだ」というふうに考え、工夫していけますよね。
僕には、まだ、本格的な社会人の経験がないので、具体的な話をするのが難しいんですが、可処分時間のリミットというのは、見えにくいだけで、誰にでもあるんです。要するに、死ぬまでの時間ですよね。死ぬまでに何時間の可処分時間があって、それをどう切り分けるかっていう話なんです。目標ができると、そこが明確に意識されるようになって、いつまでに何をしなければならないのかがはっきりしてくるんだと思うんですよ。
だから、目標があるっていうのは、時間術において重要なことで、小さいことでもいいから、何かしら目標を立てる。来年、このテストに合格したいとか、何歳までに係長になりたいとか、目標が決まれば、時間の使い方も決まってきて、いいんじゃないかなと思います。
僕の場合、今は、例えば何月何日までに記事を出さないといけないから、何日までに入稿しないといけなくて、何日までに取材を終わらせなきゃいけなくて、と逆算して、日々の生活を組み立てています。ここにビッグスケールな人生の野望とかが出てくると、そこからの逆算になるんでしょうけど、それも細かく切り分けていけば、毎日の仕事の積み重ねであるわけで、今の生活の延長線上にあるのかなと思います。
成功するには、目標設定が必要
西岡:確かに、成功している経営者には、10年、20年、30年単位で、「何年後までにこうする」っていう、目標を掲げている人が結構いますね。人生にタイムリミットを設けることは、未来の成功をつかむうえでかなり有効かもしれません。
布施川くんは、頭がいい人の条件として「課題分解力」が重要とおっしゃいました。ただ、課題を分解する以前に、理想や目標というものがないと、分解すべき課題が見つからないかもしれません。教育格差を乗り越えるために、僕らが最初にやるべきことは、頑張りたいと心から思える目標を見つけることなのかもしれませんね。
布施川くんと議論してきた全5回のシリーズも、今回が最終回です。長い時間、ありがとうございました。布施川くんのように、経済格差を乗り越えていく受験生がどんどん出てくるといいですね。
布施川:はい。こちらこそ、ありがとうございました。
[日経ビジネス電子版 2024年2月2日付の記事を転載]
西岡壱誠(著)、日経BP、1760円(税込み)
