「頭がいい人とそれ以外の人の違い」について、偏差値35から東京大学に合格した僕(西岡壱誠)が考える本連載。世帯年収300万円台の家庭から東大に合格した布施川天馬くんに、これまで3回に分けて、お話を聞いてきました。今回は、それらを総括。「経済格差を乗り越える頭のよさ」について考えます。

西岡壱誠(以下、西岡):今回は布施川くんに、この連載のメインテーマである「頭がいい人の条件」について、ご意見を聞きたいと思います。「頭のよさ」とは先天的に決まっているものではなくて、ある程度、後天的につくれるというのが僕の持論なんですが、どんな力が重要だと布施川くんは考えますか?

布施川天馬(以下、布施川):西岡さんが書かれた書籍『偏差値35から東大に合格してわかった 頭がいい人は〇〇が違う』(日経BP)を読んで、僕が大事だと思ったのは、やっぱり「課題分解力」ですね。物事を分解して考えていく、という能力は、何をするにおいても重要で、自分も含めて、東大生の大半が受験勉強を通して訓練してきたものかなと。

西岡:なるほど、布施川くんって、あんまり悩まない人だという印象を僕は持っているんですが、それは悩みを分解しているからなのかもしれません。例えば、受験勉強の最中に、お母さんが乳がんになってしまったうえに、お父さんの事業が行き詰まってしまった、という話がありましたよね(「ドラゴン桜に学ぶ「年収300万円からの東大受験」 特待生がマスト」参照)。そんなことがあったら、勉強なんて手につかないんじゃないかと僕は思うんだけど、布施川くんは、そうではなかった。

布施川天馬(ふせがわ・てんま)
布施川天馬(ふせがわ・てんま)
1997年生まれ、東京大学文学部4年生。世帯年収300万円台の家庭に生まれ、予備校に通うだけの金銭的余裕がなかったため、独自に「お金も時間も節約する勉強法」を編み出し、1浪の末、東大合格を果たす。著書に『東大式節約勉強法』(扶桑社新書)、『人生を切りひらく 最高の自宅勉強法』(主婦と生活社)など。「東大カルペ・ディエム」のメンバーとしても、書籍執筆に携わる

西岡:同じような事態に見舞われた人がほかにいたとして、そのような困難な状況だとか、そこから派生する悩みと受験は「関係ないよ」って割り切れる人は多くないはずです。でも、布施川くんは「それはそれとして勉強しました」とさらっと言うし、事実、そうだったんだろうな、そこで悩まなかったんだろうな、と思わせるものが、布施川くんにはある。

 家庭の事情と受験勉強を混ぜずにいられるのはすごいことだし、そこで悩まないところに、経済格差を乗り越えるヒントがあるのかな、とも思います。

布施川:ありがとうございます。悩むというのは要するに、意思決定に時間がかかっている状態のことじゃないですか。で、意思決定に時間がかかっていることがよいことかというと、大体悪いことじゃないですか。じゃあ悩まないほうがいいってことですよね。

 さらに、悩んだ末に何が変わるのか。人間の意思決定は大体、疑問が浮かんだ次の瞬間に、答えは決まっているものです。最初の一瞬、最初の直感で答えはほぼ決まっていて、後はその検証に入るわけですね。悩み続けても、同じ検証を繰り返すだけなら無駄だと僕は思っていて、これがもしも検証を繰り返すたびに毎回、別の切り口から悩めるならいいけど、大体同じところをぐるぐる回るじゃないですか。それは本当に意味がないことだと思います。

西岡:なるほど。最近よく思うことがあって、僕らの未来というのは、複雑な方程式のようなものから導かれるのだろうなと。すごく単純化してしまって、例えば……

 3x+2y+6=?

 ……の「?」が未来だと仮定すると、3xとか2yとか6というのは「家庭環境」だったり、そこから派生する「悩み」だったり「勉強」だったりして、これらの左辺を構成する要素は、どんどん増えていくんですよ。

「未来の方程式」には変数と定数がある

 ここで大切なのは、3xや2yは変数だから変えられるが、6は定数だから変えられないということです。

 けれど、恐ろしいことに人間には、何かで悩んでいるとき、それが変数なのか定数なのかを考えられていない場合が往々にしてあります。

 大学受験の年に、母親が乳がんに「なった」ことって、どうしようもないことで、定数なんですよ。それについて、あれこれ考えるのは、無意識のうちに定数を変数として見ているということで、布施川くんのおっしゃる通り、意味がない。

 布施川くんは、「これは定数だ」と早々に割り切った、ということなのでしょう。自分の将来を決める方程式に、新しい定数が加わった。それ以上でもそれ以下でもなく、この定数が変わったってことはこのあたりの変数をもう少し上げないと、自分が望む未来に行き着かないな、というふうに思ったってことではないでしょうか。

布施川:ああ、まさにそんな感じですね。

西岡:右辺を「東大合格」と定義していた布施川くんにとって、未来は決まっている。だから布施川くんは、新しい定数が加わっても悩まなかった。定数で悩んでも仕方ないから、変数を変えよう、と。どこで悩むべきなのかをよくわかっているという意味で、布施川くんは数学的に物事を考える方なのではないかと僕は思っている。

 ちなみに数学の成績はいかがでしたか。

人生はRPGのごとく不平等

布施川:悪くはなかったと思いますよ。偏差値で言えば78くらい。自分の力でどうにかなるファクターと自分の力でどうにもならないファクターに分けたほうがいいなとは、確かに思っていて、それをやらないと結局意味のないところで悩んでしまう。

 「親ガチャ」の話は、定数が大きいか小さいかって議論をしているだけじゃないですか。定数が「+100」の人もいれば「-100」の人もいるんですけど、「-100だから頑張らない」というのは、どうなのでしょう。変数の部分である程度あがいてみるのも大事なんじゃないの? と思います。

 「それにしても定数の差が大きすぎる、このゲームは不平等だ」という意見もあって当然です。けれど、バーチャルなロールプレイングゲーム(RPG)ですら、ニューゲームの時点において手持ちのアイテムに差がつくことがある。現実世界の競争が、ニューゲームの開始時点であっても不平等なのは、仕方ないことです。

西岡:本当にそうですね。「未来をつくる方程式」の「定数」について、あれこれ悩んでも、未来はあまり変わらない。方程式には「変数」もあって、変数を変えることにこそ、僕らは力を変えるべきなのでしょう。そこで次回、最後に「未来をつくる方程式」の「変数」について、布施川くんと一緒に考えてみたいと思います。

(次回に続く)

日経ビジネス電子版 2024年1月26日付の記事を転載]

本連載を基にした新刊が好評発売中です。偏差値35から東大を目指し、合格した著者だからこそわかる、「頭がいい人と、そうでない人の違い」とは? 「分解力」「裏技力」「アップデート力」など20個の力に分けて、漫画『ドラゴン桜』を使って解説します。「頭のよさ」をつくるのは、思考と行動、心の習慣。だから、誰だって、いつからでも、頭をよくできる! そんなメッセージをこめて、解き明かします。

西岡壱誠(著)、日経BP、1760円(税込み)