「頭がいい人とそれ以外の人の違い」について、偏差値35から東大に合格した僕(西岡壱誠)が考えきた本連載。今回は特別編です。

これまで東大入試を軸に「頭がいい人の条件」を考えてきましたが、大学入試の世界は目下、激変しつつあり、そこで求められる「頭のよさ」にも、変化の兆しが見られます。頭がいい人の条件は、時代とともに変わっていくのでしょうか。

そこでお話をうかがったのが、千代田国際中学校校長、日野田直彦先生。36歳で大阪府立箕面高校の校長に就任し、地域4番手の「普通」の学校から、海外の大学に進学する生徒を多く出し、注目を集めました。「世界」で生き抜く生徒を養成する学校教育の実践者に、頭のよさについて、尋ねました。

西岡壱誠(以下、西岡):日野田先生には、いつも大変お世話になっておりますが、最近、日野田先生が書かれた書籍をいただいて、驚きました。タイトルが『 東大よりも世界に近い学校 』で、帯のキャッチコピーに「いまの学校はオワコン」とあるのですね(*)。これはつまり、「東大はオワコン」という意味ではないか。「これは本当に僕に送られた本だろうか? 僕は東大生だけど、この本を読んでいいものだろうか?」なんて悩んでしまいました。

*「オワコン」とは「終わったコンテンツ」の略
日野田直彦先生の著書『東大よりも世界に近い学校』(TAC出版)。キャッチコピーは「はっきり言って、いまの学校はオワコンです」
日野田直彦先生の著書『東大よりも世界に近い学校』(TAC出版)。キャッチコピーは「はっきり言って、いまの学校はオワコンです」

日野田直彦(以下、日野田):いえいえ、東大批判の本ではないので安心してください。

西岡:僕の新著『 偏差値35から東大に合格してわかった 頭がいい人は○○が違う 』(日経BP)を読んでいただいたとうかがっています。その上で、「世界」を生き抜く力を持った生徒を養成する学校教育の実践者である日野田先生に、「これからの時代を生きる上で求められる『頭のよさ』とは、どのようなものか。その能力をどう育んでいくべきか」についておうかがいしたいと思っています。よろしくお願いします。

日野田:こちらこそよろしくお願いします。最初に申し上げておくと、「頭のよさ」には様々な意味があると思います。その上で、私はこれからの時代は知識という意味での頭のよさとは別種の能力が必要になってくると思っています。

西岡:知識とは別種の能力ですか。

日野田直彦(ひのだ・なおひこ/写真左)
日野田直彦(ひのだ・なおひこ/写真左)
千代田国際中学校校長。1977年大阪府生まれ。幼少期をタイで過ごし、帰国後は欧米の最先端の教育に取り組む同志社国際中学校・高等学校でもまれる。同志社大学卒業後、進学塾、私立学校の新規立ち上げ、公立・私立の校長を経験。36歳で校長になった大阪府立箕面高校では、地域の4番手の「普通」の学校から、海外大学に進学する生徒を多数出し、注目を集める。著書に『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか!?』(IBCパブリッシング)、『東大よりも世界に近い学校』(TAC出版)

* 写真右は筆者の西岡壱誠

知識を増やしたら、個性は伸びないのか?

日野田:知識は確かに必要ですが、知識は所詮知識でしかありません。もっとワイルドな部分、点数では評価されないような部分を高めないと、これからの社会を変えていけないと思いますし、海外の大学には進学できません。

西岡:先生のおっしゃる「ワイルドな部分」「点数では評価されない部分」を、より具体的に表現するなら、どのような言葉になるでしょうか。

日野田:「他の人と違うことをする能力」ですね。個性、あるいは哲学や世界観と言っていいでしょう。

西岡:知性ではなく、個性の時代がやってくるということですね。これだけAI(人工知能)が発展してきているのだから、知性が評価対象になることは少なくなってきているというのは確かにそうだと思います。

日野田:知識を高める勉強をした結果、個性を磨く時間を取らず、今まで培ってきた知性を、さも個性であるかのように振りかざしてしまう人は、社会に出てからは使い物にならないと言っていいと思います。これだけ変化が激しい時代に、知性が個性の人は必要ないでしょう。東大生の弱点はそういったところかなと思いますが、西岡さんはどう思いますか?

西岡:痛いところを突かれてしまいましたね……。東大生を束ねる集団の長としては(*)。さすが『東大よりも世界に近い学校』の著者でいらっしゃいますね。おっしゃる通りだと思いつつ、一つだけ反論をさせていただくと、『ドラゴン桜』で桜木建二先生が、こう語るシーンがあります。

 「"カタ"がなくて お前に何ができるっていうんだ」

 これは、その通りだと思うのです。

* 筆者(西岡)が設立した株式会社カルペ・ディエム(東京・中央)は、東大生を中心メンバーとして、教育事業を手掛けています

「型」があってこその「個性」ではないか?

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『ドラゴン桜』第2巻・12限目「東大と京大」(C)Norifusa Mita/Cork
『ドラゴン桜』第2巻・12限目「東大と京大」(C)Norifusa Mita/Cork
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西岡:何も誇れるものがなくて、個性が見つからないという人は、知性から入ってもいいと思うんですよね。「バカとブスほど東大に行け!」ってやつですね。僕もその、型がなかったクチなので、個性よりも先に知性の方から入ったのが自分には良い道だったと思っています。知性を磨いてから個性を磨く、というのもいいと思います。とはいえご指摘の通り、そこで個性がおろそかになってしまう東大生がいるのは事実でしょうが。

日野田:そうですね。「守破離」と言われるように型は大事です。結局、個性を磨ける人って一握りだと思います。大学入試では近年、総合型選抜や学校推薦型選抜の比重が高まっていて、ペーパーテストの「一般入試」は、今や半分以下です(*)。すでに日本の大学も個性重視に変わってきています。総合型選抜と一般入試に必要な力は、それぞれ違いますから、これからは総合型選抜に挑戦できない人が一般入試を目指せばいいと思います。得意なほうでチャレンジすればいいのではないでしょうか。

* 令和4年度・文部科学省委託調査「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究」によれば、大学入試における一般入試の割合は、全体で43.3%、国立大学49.1%、公立大学40.9%、私立大学42.7%

西岡:なるほど。総合型選抜がダメでも、一般入試があるじゃないかと、日野田先生はさらりとおっしゃる。しかし、まだ今は、世間的には反対に捉えられている気がしますね。「一般入試で難しいなら総合型選抜」「知性の勝負でダメなら、個性で勝負」ってイメージがありますが、僕も、これは逆だと思います。というか……。

総合型選抜の合格者は侮れない

西岡:今の合格者を見ていると、東大の「学校推薦型選抜」も含めて、総合型選抜や推薦型選抜で難関大学に合格できる人って、そのほとんどが努力すれば一般入試でも結果を残せる気がしています。勉強の計画を立て、期日までに求められたことを求められる以上のレベルでやり切る能力など、一般入試で求められる能力を別のところで養っていて、もう事前に持っている場合が多いですからね。

日野田:ただ、現状の学校教育だと、学校の先生の一元的な評価によって生徒の可能性が阻まれている可能性もあると思っています。

西岡:なるほど、日野田先生はなぜそのようにお考えに?

日野田:以前、現場の先生が、ある生徒について「授業態度が悪く、テストも真面目に取り組まない。評定を下げようと思う」という話をしていて、私は「それはいけない」と止めました。その子は課外活動に積極的に取り組んでいました。他の子と違うところで頑張って、まさに「他の人と違うことをする能力」を伸ばしていた。そんな子の評定を授業態度が悪いからと引き下げて、その後の人生の可能性を狭めるなんて言語道断だ、と。もっと生徒たちを多面的に評価して可能性を広げるべきだと指摘したんです。

西岡:確かに、知性の評価はペーパーテストで済みますが、個性は一律に評価できませんからね。先生たちにとっては大変ですが、もっと個性の部分を評価するような教育が求められる時代なのでしょうね。

 ただ、日野田先生とお話ししていて、「知性を磨くこと」と「個性を磨くこと」とは竹馬のような関係にあるのではないかと感じました。一方が欠けていてもいけない、両方ないといけない。けれど、知性と個性を同時に伸ばすのは、難しいのではないかと思います。

 『ドラゴン桜』に、勉強と部活動は竹馬のような関係にあると、桜木先生が述べているシーンがあります。

知性と個性、どちらを優先すべきか?

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『ドラゴン桜』第8巻・74限目「竹馬」(C)Norifusa Mita/Cork
『ドラゴン桜』第8巻・74限目「竹馬」(C)Norifusa Mita/Cork
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西岡:知性と個性も、知性は個性のためにあり、個性は知性のためにあるという関係だと思います。けれど、その2つを同時に伸ばそうとするのは、学業と部活の両立と同じで、大半の生徒にとって無理があると思います。ですから、先に知性を伸ばしてから、個性を伸ばすのか、あるいは、個性を伸ばしてから知性を伸ばすのか、そのいずれかが現実的な選択肢になるでしょう。

日野田:ええ。米国をはじめ海外の大学は、入り口では個性を重視しますが、入学後に膨大な知識を求めます。日本であれ、米国であれ、最終的には個性と知性の両方が必要です。

西岡:日本の大学の場合、かつては米国の逆で、入試で知性を問い、入学後に個性を伸ばすというやり方が主流でした。それが、徐々に入試の段階で個性を問う方向に変化しつつあるわけです。

 東大入試は、知性重視の傾向が今も強いですが、個性が求められる段階になって苦労する東大生は少なくないと、日野田先生とお話ししていて、あらためて気づかされます。東大生はもっと知性以外のものを養う必要があると強く感じました。僕も精進します。

日経ビジネス電子版 2023年7月25日付の記事を転載]

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西岡壱誠(著)、日経BP、1760円(税込み)