30年にわたったデフレが終わり、ものの値段が上がっています。このような局面では、預貯金だけだと資産が実質的に減っていきます。お金を守るためには、株や投資信託への投資が必要なのです。人生後半を充実させるために役立つマネーや健康の知識を実践的に解説する書籍『50代から輝く! 「幸福寿命」を延ばすマネーの新常識』(田中彰一著)から抜粋・再構成して解説します。
旅行もスイーツも高い
先週(7月中旬)、妻とアフリカ5カ国を周遊してまいりました。みやげ話を披露したいのではなく、お伝えしたいのは旅行代金の高さ。2人で250万円ほどかかりました。もちろん、飛行機はビジネスではなくエコノミー。アフリカと似た予算の渡航先に南米がありますが、2020年2月の南米旅行が120万円ほどでしたから、ここ数年の高騰ぶりにはため息しか出ません。1年も前から計画していたので強行しましたが、2年分の予算を使い切って「お金の備蓄」が底をついてしまいました。
このところ洋菓子などスイーツも、ひと切れ500~700円程度とお手軽に買える金額ではなくなりました。秋には食品類の再値上げが予定されているというから先が思いやられます。暮らすにも遊ぶにも物価高がますます身に染みる時代になってきました。
180度、考えを転換すべし
2024年3月、日本銀行は17年ぶりに利上げを実施しましたが、生活実感としては2022年からインフレ局面だったといえます。1989年の資産バブル崩壊、冷戦終結による労働供給力増加、2000年前後のインターネット革命による労働生産性上昇などでおよそ30年にわたってディスインフレ、デフレが常態化していましたが、世界分断や大規模金融緩和の影響で環境が一変しました。コスト・プッシュ型インフレが定着し、長期間続きそうな気配です。
インフレが定着するとなると、お金に対する価値観や考え方を180度、変えないといけません。この春、専門学校生向け金融教育講座の教材を作ってくれといわれ、図のようなグラフと合わせてクイズを1問作りました。
専門学校卒業生は、将来起業したり、自分のお店を持ったりされる方が多いとのこと。そこで、「30年後の独立起業のために祖父母から1000万円の軍資金を贈与されたら、そのお金をどうするか」と作問しました。
選択肢は2つ――「虎の子の資金、預貯金で減らさないようにする」。もう1つは「大切な軍資金だが株や投資信託への投資で増やしてみる」です。
ちなみに私が学生だったら、間違いなく「大切な資金を投資に回すようなことはしないで、預貯金で保管しておく」という考えに至ったと思います。今の学生も同じ感覚ではないでしょうか。
保険・ローンにも応用
ここでインフレの影響を考えてみましょう。日本では現在、年率2~3%前後で消費者物価が上昇しています。世の中の値段が今後も2%ずつ上がり続けると仮定すると、軍資金=現金で買える上限が実質的に毎年2%ずつ減っていくことを意味します。これを購買力といい、1000万円の現金が、30年後に価値としては545万円へと低下します。実質的に半分に減ったわけです。
では、投資に回したらどうでしょうか。全世界株連動型投信(MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスに連動するもの。通称「オルカン」)で運用した場合、過去30年間の実績では年率平均7%台半ばで上昇し続けていますので、30年間で7600万円に資産が拡大します。
新型コロナウイルス禍以前のデフレ下では、物価が下がる、あるいは上がらないため、現金の購買力が保たれ「投資より貯蓄」で問題ありませんでした。しかし、インフレ下で預貯金のまま放置することはお金を減らしていることと同義です。お金を守るには「貯蓄から投資」なのです。
この考えは他の金融商品・サービスにも当てはまります。例えば、保険は固定保障より変動型が有利になるし、ローンなどの負債は逆に変動金利から固定金利で借りるほうが有利になります。
家屋の修繕費をどう工面?
別のジャンルにも応用がききます。例えば、家屋の修繕費はどうでしょうか。人生100年時代、災害に備えるための住まいのメンテナンスは重要な支出項目です。最近は50年、60年といった長期保証も多く、高級住宅はすでに人生100年仕様という設計ですが、屋根や壁、上下水道などのインフラの一部は経年劣化が進みますし、今後の異常気象を想定すると定期的・計画的なメンテナンスは必須でしょう。
首都圏近郊の場合、築30年の戸建て住宅で300万~600万円前後の費用がかかるといわれます。屋根のふき替えやシート防水、シーリングの打ち替え、外壁塗装など対象は多岐にわたります。マンションでも11年目ぐらいから不具合が発生しやすくなります。国土交通省では1坪月額1000~1100円を目標に積み立てることを推奨しています。30坪なら月額3万円、年36万円、10年で360万円程度です。この予算規模は人生で5、6番目に大きな出費になります。
ではこの修繕費をどう工面しますか。コツコツ貯(た)めますか。
人件費、高騰に拍車も
先ほどから指摘しているように、インフレの影響を勘案してみましょう。人件費や資材価格は一段と高騰が予想されます。特に「人手」が求められる工事関係は、少子高齢化で担い手が今でも足りない状況です。360万円でよいと思っていたメンテナンス費用が400万円、500万円に上がることも否定できません。
コスト上昇分をカバーするためには、やはり貯めるのではなく、積み立てなど投資でまかなうのが賢いやり方です。月額3万円を全世界株連動型投信などで積み立てた場合、10年間でおよそ520万円になる見込みです。修繕費が将来上昇したとしても十分ヘッジできる水準といえます。積み立ては途中で取り崩すとメリットが失われるので、老後資産とは分別して管理するようにしましょう。リフォーム代も同じです。
ことほどさように、金融資産であろうが生活費用であろうが、インフレから防衛するには投資を最有力手段として考えていく必要があります。一般に投資といえば「積極的に金融資産を増やす」という「攻め」のイメージでした。しかし、インフレ局面では「守り」としての効果もクローズアップされるのです。
さて、私も5年後の旅費を捻出するためにいざ、投資です。
シニア層に向けて、人生後半を充実させるために役立つマネーの知識を実践的に解説。株・投資信託から不動産投資、保険、死後の準備、さらには健康情報まで、127項目に分けて取り上げます。日本経済新聞社で取材歴35年のベテランが、驚きのノウハウを多数紹介します。
田中彰一著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)


