2024年8月5日、日経平均株価は前週末比4451円安となり過去最大の下げ幅を記録しました。24年1月にスタートした新NISA(少額投資非課税制度)をきっかけに投資を始めた人は、動揺しているかもしれません。しかし、今こそ積み立て投資、長期投資のメリットを考えるときです。人生後半を充実させるために役立つマネーや健康の知識を実践的に解説する書籍『50代から輝く! 「幸福寿命」を延ばすマネーの新常識』(田中彰一著)をもとに再構成して解説。
日経平均が過去最大の下げ
個人投資家にとって2024年8月5日月曜日は悪夢の1日だったかもしれません。東京株式市場で日経平均株価が前週末比4451円(12%)安の3万1458円で終え、いわゆるブラックマンデー(暗黒の月曜日)といわれる1987年10月20日の3836円安を抜き、過去最大の下げ幅を記録したからです。日本経済新聞は日銀のマイナス金利解除、日経平均バブル後最高値更新に続く今年3回目の号外をリリースしました。
NISA制度が刷新された2024年は、前半、株式市場も証券・金融業界も大いに沸き立ちました。NISA口座は急増、そして想定を超える株高・円安を追い風に、主要な株式インデックス投信の多くが年率20%前後の高リターンをはじき出しました。
こんな簡単にもうかるのか――。NISAスタート組はわずかな期間での成功体験に、投資のすばらしさを実感していたことでしょう。
それが7月11日を境に急転直下、1カ月もたたないうちに日経平均株価は年初の水準(3万3288円)を割りました。その後は反発と戻りを繰り返しており、不安定な地合いはなお続いています。米国株もほぼ同じでしょう。一時1ドル140円台前半まで円安修正が進み、全世界株投信などの含み益はのりしろが少なくなっています。
本来、数カ月でのリターンなど望むべくもないのです。NISAを始めた新参組はマーケット、投資の怖さを初めて知ったことでしょう。
「NISA組に試練」?
「運用商品を変えるべきか」。対面の大手証券会社には問い合わせが殺到したといいます。真実ならマーケットや積み立て投資について初歩的な理解ができていないことになります。私は暴落当日、すぐに以下のメッセージをX(旧Twitter)でつぶやき、8月6日火曜日の日経CNBCの番組でも緊急解説をしました。
「長期資産形成において相場が大きく下げる局面は買付コストを引き下げる好機。ドルコスト平均法の本領発揮だから積立投資を始めた個人はラッキーと受け止めよう」と。
4万円を超えた株価が高値から25%近くも下げたわけですから千載一遇のバーゲンセールです。そもそも積み立て投資をやっている人は最低限、この程度のリテラシーを持ってのぞむべきなのですが、現実にはブームだけで始めた個人が多かったということなのでしょうか。
さて、個人はよいとしても……理解しがたい報道が相次いだことも看過できません。ネットで検索をしてみてください。
「NISA初心者に試練、広がる動揺」「新NISA初めての試練」――。
日本経済新聞グループは入っていませんでしたが、他の多くの全国紙、通信社がNISA組は難局に直面しているという見出しで報じました。
長期投資に追い風となる今回の調整がなぜ試練になるのでしょうか。NISA初心者組が個別株の短期売買を繰り返し、今回の暴落で含み損を抱えたというなら分かりますが、初心者がNISAで短期売買をやっているという前提は荒唐無稽です。ろうばいぶりを演出する作文ではないとすれば、報じる側のリテラシーに相当問題があると言わざるを得ません。
5年に1度、谷に落ちる経験則
脱線しましたが、ではそもそも長期株式投資というのはなぜ報われるのでしょうか。過去の株式相場を振り返ると、およそ5年に1度は想定外のリスクを受けて暴落、ショック安という局面が訪れています。直近では2020年2~3月のコロナ・ショックが該当します。
よく短期売買と長期投資の分かれ目は何年なのか聞かれることがありますが、私は株式相場に訪れる大きな波(谷)を吸収できる期間が長期だと定義しています。
では、この谷間到来によって生じた傷(損失)が癒える期間はどれぐらいなのでしょうか。
1987年10月のブラックマンデーを含めて、相場の一時的なショック安は数日~2カ月で止まります。次にその株価が復調して底入れから直前の高値を回復するまで、言い換えると高値づかみをした投資家が損失を埋めきるまでにどれぐらいの期間を要するかを調べました。
結果は1~2年です。インデックス投信なら3年持てばたいていのショック安を乗り切れることになります。ただし、2度のバブル崩壊は傷が深いせいか時間がかかっています。ナスダック総合指数がITバブル前の水準を回復するのに15年余りかかりました。2024年2月22日は日経平均株価が1989年12月末の最高値3万8915円を更新するエポックメイキングでしたが、回復には34年かかっています。
しかし、この安値圏での推移があるからこそ、買付コストを下げ、買い株数を増やすという利益を享受できるのです。平均買付コストが下がるので、株価が元の水準に戻る過程で損失は解消されます。
長期で右肩上がりが条件
ただし、上記のドルコスト平均法のメリットを得るためには欠かせない条件があります。株式相場が長期的には右肩上がりになるという前提です。最終的には上昇するからこそ、コストを平準化させるメリットを享受できるわけです。
日本株は1990年から23年間、右肩下がりを続けました。時折訪れる短い反発局面が稼ぐチャンスでしたから、株も投信も保有は1~2年が望ましく、長期投資はご法度でした。証券業界が音頭をとった「貯蓄から投資へ」など根づくはずもない状況でしたが、2012年のアベノミクスをきっかけに正常化を果たしました。米国株と同様に右肩上がりの市場に仲間入りしたわけで、こういう相場であれば積み立て投資が報われるわけです。
グラフの右端をご覧ください。直近は過去最大の下げで3万1000円台まで調整した日本株ですが、右肩上がりの長期トレンドが崩れたわけではありません。むしろ、2024年から急激に鋭角化して上げており、その勢いが剥落したとみてとれるでしょう。
なぜ積み立て投資なのか。なぜNISAなのか。長期資産形成の利を今回の下げを奇貨として学び直してみるとよいでしょう。
シニア層に向けて、人生後半を充実させるために役立つマネーの知識を実践的に解説。株・投資信託から不動産投資、保険、死後の準備、さらには健康情報まで、127項目に分けて取り上げます。日本経済新聞社で取材歴35年のベテランが、驚きのノウハウを多数紹介します。
田中彰一著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)



