生命保険はどれぐらいかければよいのでしょうか。この質問に対して万人に共通する正解はなく、個々人によって答えはバラバラです。今回は、あなたに合った保険商品を考えるために、4象限に分けたリスクマップを紹介します。人生後半を充実させるために役立つマネーや健康の知識を実践的に解説する書籍『50代から輝く! 「幸福寿命」を延ばすマネーの新常識』(田中彰一著)をもとに再構成して解説。

医療保険の損得計算

 酷暑やら台風やら今年も厳しい夏との闘いが続いていますが、皆様はうまく乗り切っておられますか。私はなんと7月下旬に体調を崩して入院しておりました。53年ぶり!

 生まれて初めて救急車にも乗りました(搬送)。喜ぶことではないですが、めったにない?体験のできた夏となってしまいました。

 シニアで病室に閉じ込められると人生後半の良からぬリスクばかり考えてしまいますね。今年は春にぎっくり腰で2日間寝たきりになっており、株式・為替相場ほどではないけれど過去にないほど日々波乱含みです。「万一…」が起こらぬよう気を引き締めていくつもりです。

 さて、今回はその「万一」に備える生命保険の要不要を考えてみたいと思います。今回、私も契約後初めて医療保険の世話になりました。入院費や検査費などでまとまった費用になりましたが、全額保険金で賄えました。

 保険金のありがたみを感じる一方、職業病の悪癖で累積払込保険料との収支を比べると支出超だとつい損得を計算してしまいました(さもしい)。では収入超を望むのかと問われると、やっぱり保険のお世話になるようなことは正直起こってほしくないですね。

あなたの適性額、分かりますか

 では、この保険金の適正額とはいったいどれぐらいなのでしょうか。
 個人にとってどの程度の保険資産を持てば安心なのでしょうか。

 実はこれ、答えがありません。正確には共通解がなく、個々人でバラバラという意味です。「万一」を気にしない楽観的な人と気にする悲観的な人では掛け金も違うでしょうし、子供がいる世帯主と独身でも異なってきます。がん家系の人と長寿家系の人でも価値観はだいぶ異なるでしょう。

 じゃあ、他人任せでいいじゃないか――と言いたいところですが、そうは問屋が卸しません。日本銀行の資金循環統計によると、保険資産は金融資産全体のほぼ4分の1を占め、現預金を除くと30年以上首位の座を保っています。株・投信が18%ですから、戦後一貫して国民の圧倒的支持を得ている金融商品です。

 ところが、株・投信については毎日おびただしい情報が発信されているのに、保険商品はとんと表に出てこないのです。この理由は、株や投信が「上場・公募型」なのに対して、保険は「非上場・オーダーメード」だからです。付加するオプション(特約)も多く、均一の商品が存在しません。マスメディアには共通性があり、公共的性格のある情報は熱心に伝えますが、個別具体的な情報は重視しません。実態の分かりにくさから熟慮せず契約に走り、保険金(保険料)が妥当でない状態になるケースがかなりあると推定されます。

保険は戦後一貫して国民の圧倒的支持を得ている金融商品だ(写真:ktktmik/stock.adobe.com)
保険は戦後一貫して国民の圧倒的支持を得ている金融商品だ(写真:ktktmik/stock.adobe.com)
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4象限のリスクマップ

 保険とは「もし○○になったら」というリスクを提示し、不安やペイン(課題)を与えることで需要(ニード)を喚起する仕組みです。図表はリスクの発生頻度と影響の大小で4象限に分けた保険マップです。保険の優先度が高いのは自分ではカバーしきれない左上のエリアです。対象は死亡や高度障害。「万一」の確率は低いが、起こると金銭的影響が大きくなる事態が対象になります。自分自身では解決できない金額なので、そのリスクを保険会社に「移転」すればよいわけです。保険契約のパフォーマンスが高いといえます。

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 右上のエリアは重篤な疾病への治療や老後資金枯渇への対策が目的です。金銭的余裕があっても、一部を保険で補うことでリスクを「回避・軽減」することは賢明だと思います。下半分はリスクを抱えても問題が少ないエリアです。備蓄を計画的に進めることで保険契約に頼る必要性を減らせるはずです。このマップを参考に、まずは今の保険契約などを点検してみるとよいでしょう。

未来の収支をシミュレーション

 次に死亡や高度障害に対する保障を求めるとして、いくらぐらいの保険金を考えるとよいのでしょうか。

 そもそも生命保険の本質的役割は、公的年金保障などでは足りない部分を補う保障性にあります。遺族年金や公的補助、雇用保険等々の制度では賄えない生計費を補完するわけですから、個々人によって保険金はすべて違ってきます。

 ポイントは同一人物でさえ年齢や家族構成によって異なってくる点です。30代で乳幼児2人扶養なら必要保障額は大きいでしょうし、50代で子が大学生になっていれば保険金をかける必要はないかもしれません。イデコ(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)などで金銭的備蓄を準備している場合は保障の必要性はさらに低くなるでしょう。

 したがって、本来は自分の将来設計や年金給付見通し、備蓄額などを織り込んでシミュレーションをしないと適正な保障額は計算できないことになります。

 ところが、先のように不安をテコに需要を喚起するのが保険ですから、営業上手な販売員は言葉巧みにこう言うのです。「月々わずかな金額で安心を買いませんか」。

 結果、保障額が身の丈以上になりがちで、それと引き換えに割高な保険料を払って収支が苦しくなる、いわゆる「保険貧乏」になってしまうのです。

 金融庁によると、保険代理店39社を対象にした調査では商品パンフレットに依存した説明が多く、社会保障などのシミュレーションは少数だということが報告されています。顧客本位の観点ではなく、やはり営業本位なのです。少し前の投資信託の世界と同じですね。

 私の経験でも、保険販売員は解約返戻金の皮算用など個々の商品の説明はしてくれますが、金融資産全体の試算などはしませんし、ヒアリングすらありませんでした。

 保険代理店に頼れない以上、自分自身で金融収支シミュレーションを作ってみてはどうでしょうか。未来の家計簿のようなものですから難しい計算はいりません。将来の収支・資産が見えてくるだけではなく、昔契約した保険が過剰な金額になっていることが分かり、見直しの契機につながることもあります。

「死ぬまで減らない」資産を作る

シニア層に向けて、人生後半を充実させるために役立つマネーの知識を実践的に解説。株・投資信託から不動産投資、保険、死後の準備、さらには健康情報まで、127項目に分けて取り上げます。日本経済新聞社で取材歴35年のベテランが、驚きのノウハウを多数紹介します。

田中彰一著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)