長い老後をひとくくりで考えてはいけません。65歳が定年としても、老後は20~25年も続きます。実態に合わせて、老後を5つのステージに分けて捉えるとよいでしょう。人生後半を充実させるために役立つマネーや健康の知識を実践的に解説する書籍『50代から輝く! 「幸福寿命」を延ばすマネーの新常識』(田中彰一著)をもとに再構成して解説します。
波平さんは54歳
「サザエさん」は老若男女誰でも知っている国民的アニメですが、1カ月ほど前に放送55周年の特集をやっていました。55年というとちょっと半端じゃない期間ですね。長寿アニメとしてすでにギネス認定されていますが、アニメを含む映像コンテンツ全体でも最長寿だろうと思います。
昭和のアニメがなぜ根強い人気を誇るのか――。私見ですが、1つ目の理由は、サザエさんが家族団らんを題材にしている希少性です。テレビコンテンツは医療、刑事、クイズ、音楽多々あれど、日本の家族の原風景を描いたものはありません。2つ目の理由は、四季の行事・伝統を織り込んだ設計であることがあせない魅力をつくり出しているように感じます。
とはいえ、さすがに今の時代にそぐわない設定がいろいろとあります。パソコンがない、スマホがないといった文明の利器の面での違和感はさておき、最大のギャップはキャラクターかと思います。代表格が磯野波平さん。年齢54歳。俳優の阿部寛さんが60歳ですから、ちょっとびっくりしませんか?
波平さんは翌年に定年退職という設定です。アニメ放映の始まった1960~70年ごろは55歳が定年。平均余命が60代後半~70代前半で推移し、「人生70年」といわれた時代です。波平さんは「おじいさん」の一歩手前、言い換えると「老後」が目前なのです。
ひるがえって今の平均余命は男性は80代前半。10年延びました。これからさらに5年程度は延びるでしょう。人生70年=定年55歳、の比率を単純に当てはめると、人生100年時代は79歳まで、90年時代なら71歳まで働き続ける必要性があります。
今は65歳定年が主流ですが、実態と合っていませんね。仮に65歳を節目とみなすと、老後はおおざっぱに20~25年も続くわけです。長すぎて「晩年」の概念なんかは埋もれてしまいそうです。
元気いっぱい「未病」段階で終活準備
長い老後にもかかわらず、たいていは「老後のプランを」とか「老後の人生設計を」などと、ひとくくりにしか扱いません。この考え方は改めるべきだと思います。
退職したばかりでまだまだ現役、次の職探しに燃えるシニアもいれば、酸素吸入器を付けながら寝たきりで介護施設に入る老人もいます。老後25年といえばほぼ世代ワンサイクル。この長い期間を十把ひとからげに「老後」で片づけるのは乱暴です。
そこで、老後を実態に合わせて5つのステージに分けてみましょう。老後のタイムラインを図解にしてみました。退職後しばらくは現役並みの体力・知力を維持し、NISA(少額投資非課税制度)などの運用も変わりなく続けられます。60代後半は退職金も確保できるでしょうし、子どもも独立し、金銭的・時間的にも余裕が生まれるはずです。ひょっとしたら人生でもっとも充実した時間になるかもしれませんね。
しかし、70歳を超えるころから就労力が衰え始め、判断能力も低下していきます。血圧やコレステロール値などが高くなり、骨がもろくなるなど、発病・発症には至っていないけれど病のタネが身体の中で育つ「未病」状態に入ります。健康と病気のグレーゾーン、この未病期間は自立生活に問題がなく、健常な状態です。最近は70代前半で亡くなる著名人も目立ちます。身体をいとわないとここで健康寿命が尽きますからご用心を。
よく「終活をいつから始めればいいの?」と尋ねられるのですが、未病状態が1つのタイミングです。自身が健康だと考えているので「もう? 早くない?」と思われるかもしれませんが、適切な判断力が働く間に着手したいところです。
杖が分岐点、フレイルのスパイラル警戒
健康かどうかの分岐点は杖の有無です。筋力が衰え、歩行能力などに支障をきたすサルコペニア、ロコモティブシンドロームなどが顕在化すると杖が欠かせません。トイレや階段、浴室などに転倒防止や歩行の補助器具を設置しましょう。日常生活にはヘルパーが必要で、とうとう介護保険の出番となります。
ちなみに私の母親は腰椎を圧迫骨折し、リハビリを続けたものの結局腰は曲がってしまい、杖に頼らざるを得なくなりました。圧迫骨折は骨粗しょう状態を放置したために起こりましたが、骨がもろくなっても実際にケガや痛みが出るまで事の重大さに気づきません。自覚症状の出にくいガンとこの点で似ているのです。
さて、介助が必要なステージに入ると、趣味、ライフワークなどに支障が出てきます。「人生を楽しむ」時間や出費は一気に減り、医療と介護に時間とお金を費やすことが増えてきます。上の図表にある一番上の数字は介護ランクで、要支援1、2と要介護1~5を表しています。要支援は1人でなんとか頑張れる状態です。リハビリをしっかりやれば自立生活の期間を延ばせます。
とはいえ、歩行が苦痛になると外出がおっくうになり、不測の事態を避けようと出歩かなくなります。引きこもり→うつ→認知障害など心身全体が脆弱になるフレイルのスパイラルが始まります。このステージでは、例えばマネーの分野では、株式や投資信託などリスク資産運用からの撤退を急ぎましょう。
「終の棲家」「看取りの場」を探す
身体が不自由になると、買い物や掃除、洗濯などはヘルパー任せでOKですが、入浴や排せつなど基本的な生活行動に支障が出ます。自立生活が困難になるため、一刻も早く「終の棲家(すみか)」を探さないといけません。
ところが、マンションやアパートと違って介護施設の空きはたやすく見つかりません。施設によっては1年待ち2年待ちはザラです。近隣の施設を早めに回って目鼻をつけましょう。介護施設に入るか入らないかの分かれ目は要介護1、2あたりです。
要介護2と要介護3には隔たりがあります。3までいくと人によっては4、5へ簡単に進みます。死期が迫るのです。寝たきりになり、認知症が進めば子の顔や名前も忘れてしまいます。「ピンピンコロリ」とは上の図表下段に示した通り、非・健康寿命をゼロに縮めることです。苦痛もなく、誰にも迷惑をかけない理想的な人生の幕引きです。
人生100年、まだまだ先は長いし、終わりに向けた準備など考えたくないのですが、知らない間に判断能力が鈍りますし、認知力に明らかに問題があれば相続や贈与も法的に無効とみなされます。後継世代に円滑にバトンタッチする意味でも準備は早いに越したことはありません。
最後に余談ですが、サザエさん考察でちょっと発見をしました。年を取らないサザエさん一家がもし時間通りに年齢を重ねるなら55年後の今は波平さんが99歳! なんと白寿です。人生100年時代ならまだご存命というシナリオに……うーん、人生100年、生き方を賢く設計しないと長すぎる気がしてきました(笑)
シニア層に向けて、人生後半を充実させるために役立つマネーの知識を実践的に解説。株・投資信託から不動産投資、保険、死後の準備、さらには健康情報まで、127項目に分けて取り上げます。日本経済新聞社で取材歴35年のベテランが、驚きのノウハウを多数紹介します。
田中彰一著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)


