「ゆとり世代」の大学講師として日々20代の大学生に接しており、『 Z世代化する社会 』の著者でもある舟津昌平さんに聞く「悩めるZ世代に贈る本」2回目は、『君は君の人生の主役になれ』と『「ジョブ・クラフティング」で始めよう 働きがい改革・自分発!』。『君は君の人生の主役になれ』は10代に向け、学校や親が押し付ける基準を疑い、人生を自身で切り開くことの大切さを説く本だが、そのメッセージはそのままZ世代に届く。『「ジョブ・クラフティング」で始めよう 働きがい改革・自分発!』は、仕事にやりがいを感じるためのちょっとした一工夫を提案している。

もっと「自由」に生きるには

 今の日本は、生きづらさや不安を感じている方が少なくないようです。とりわけ20代のZ世代にはその傾向が顕著です。理由はいろいろ考えられますが、生まれたときから「低成長」「失われた○年」「少子高齢化」「年金崩壊」など暗い話題に囲まれていて、なかなか明るい未来を描きにくいからかもしれません。

 生きづらさや不安を感じる人に寄り添ったり、励ましたりする本は多数ありますが、特にZ世代にお薦めしたいのが、『 君は君の人生の主役になれ 』(鳥羽和久著/ちくまプリマ―新書)です。

『君は君の人生の主役になれ』(鳥羽和久著)。学校や親が押し付ける正しさを疑い、自分自身の道を探ることをアドバイスする
『君は君の人生の主役になれ』(鳥羽和久著)。学校や親が押し付ける正しさを疑い、自分自身の道を探ることをアドバイスする
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 著者の鳥羽和久さんは、福岡市で小中高校生を対象にした学習塾を主宰するかたわら、ご自身の考え方や日常の出来事について、ブログや新聞コラム、著書を通じて盛んに発信されています。

 本書の面白さは、塾で日常的に子供たちと接している様子がリアルに描かれている点です。子供たちがどういう学校生活を送り、どんな問題に直面しているか、どんなことで悩んでいるかが手に取るように伝わってきます。

 また、それに対して鳥羽さんが送るメッセージは丁寧です。もともと文学を学ばれていたそうで、論理的で説得力があります。Z世代より下の10代の事例ですが、同じような境遇にあるZ世代にとっても道しるべを得られると思います。

 ただし、優しい言葉をかけるだけではありません。「生きづらさに寄り添う」というと、とにかく包み込むように慰めて、ストレスを与えないように配慮すると思われるでしょう。しかし、鳥羽さんは違います。時には強い言葉を使いながら、ダメなものはダメとはっきり指摘します。昨今の大人には、なかなかまねできないことかもしれません。

 これはZ世代に対してもはっきり言わなければいけないことを、見事に代弁してくれている本でもあります。

 例えば、「ワンチャン」とか「ガチャ」という言葉をよく使う生徒に対し、「マジキモいな」と返した後、これらの言葉が流行する背景について考察します。経済成長が止まり、将来に明るい展望を描きにくいこと、ユーチューバーをはじめ、自分の能力をお金に換えられる手段が増え、今が「偶然性の時代」になっていることを理由に挙げています。

 ただし、世の中はそう甘くない。「ワンチャン」も「ガチャ」も、そこに「当たり」があるという前提になっていますが、それは錯覚に過ぎない、「当たり」などないかもしれないと言います。だから偶然に期待するのではなく、大人に与えられた「行動基準」を疑い、古典の中から「変わらないもの」を探し、自由に生きる手がかりを得なさいと説きます。

仕事に手作り感を持ち込む

 『 「ジョブ・クラフティング」で始めよう 働きがい改革・自分発! 自分で仕事にひと匙(さじ)、仕事の再創造が働きがいに 』(高尾義明著/日本生産性本部 生産性労働情報センター)も、自らの力で未来を切り開くことを推奨する1冊です。

『「ジョブ・クラフティング」で始めよう 働きがい改革・自分発!』(高尾義明著)。個々人が仕事のやりがいを高める実践方法を論じている
『「ジョブ・クラフティング」で始めよう 働きがい改革・自分発!』(高尾義明著)。個々人が仕事のやりがいを高める実践方法を論じている
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 日々の仕事で「しんどさ」を感じたとき、その原因を外に求めるのが昨今の風潮かもしれません。「自分で頑張れ」というのがタブーというか、ただちに「冷酷な自己責任論だ」として反論されるだけでしょう。

 しかし、本書はあえて「自分発!」と銘打ち、自己解決の方法を示します。そのキーワードが「ジョブ・クラフティング」です。「クラフト」とは手仕事・手作りという意味。つまり、日々の仕事を誰かから与えられた既製品と捉えるのではなく、自ら作り上げていく工芸品として向き合えば、仕事をもっと楽しめるのではないか、というわけです。

 一見するとよくある自己啓発書のようですが、それらとは一線を画しています。「ジョブ・クラフティング」は学術的な概念で、具体的には何をすればいいか、さまざまな事例を挙げながら提示しています。

まずは「ひと匙」から

 もちろん組織の一員として働いているのであれば、上司から仕事を与えられることは避けられないでしょう。しかし、それでも自分なりに仕事のやり方を工夫することはできるはず。その方法論として大きく3パターンを挙げています。1つ目は業務そのものを見直す「業務クラフティング」。2つ目は周囲の人間関係を見直す「関係性クラフティング」。3つ目は仕事に対する見方を改める「認知的クラフティング」です。

 このうち「認知的クラフティング」の例として挙げているのが、東京ディズニーリゾートのケースです。当然ながら多くの清掃スタッフが働いているわけですが、彼ら彼女らは「清掃係」ではなく「カストーディアルキャスト」と呼ばれます。単に清掃の仕事に従事するのではなく、「ゲストをもてなすキャストの一員」として客の対応をしたり、パフォーマンスを見せたりします。つまり自分の役割を再認識し、使命感を持つことで、やりがいを見いだそうというわけです。

 あるいは、ほんのささいなことでも結構です。本書のもう1つのキーワードは「ひと匙」。料理にほんのひと匙加え、味を調えるように、少し目先を変えるだけで、仕事の取り組み方やモチベーションに変化が起きるかもしれません。

 例えば、職場のデスクに自分の好きなものを置いたり、レイアウトを変えたりするだけでもいい。それで多少なりとも気分よく仕事に取り組むことができれば、一歩進んで業務や人間関係の工夫をしたり、仕事そのものの意義を見直したりできるかもしれません。自分なりにそのサイクルを何度も繰り返すことで、仕事の手作り感を高めていこうと説いています。

「職場として推進」したら逆効果に

 以上のような内容の本なので、読者対象はZ世代に限りません。しばしば「働かないおじさん」と称されるシニア世代に言及した章もあります。

 もっとも、若い世代はどう働けばいいのかということ自体がよく分かっていない面があります。どこまで仕事の裁量や工夫の余地があるのかも手探りでしょう。経験や知識が乏しい状態で働いているという意味では、ストレスはより大きいのかもしれません。そういう方にこそ読んでほしいと思います。

「個人の自発的な取り組みが大切です」と語る舟津さん
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 1点、注意があります。本書が推奨しているのは、あくまでも個人が自律的に実践すること。そのために、職場としてサポートできることがあるかもしれませんが、サポートが行き過ぎて「いっそ職場全体でジョブ・クラフティングを推進しよう」となったとしたら、様相が異なってきます。それはもはや自律的ではなく義務的になります。働く人にとってはかえって負担になって、やりがいどころではなくなるでしょう。

 いかに自律的な仕組みを取り入れていくかが、組織としての課題です。それにはやはり、個々人がまず、「ひと匙」を意識することが有効かもしれません。

取材・文/島田栄昭 取材・構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集) 写真/稲垣純也