「ゆとり世代」の大学講師として日々20代の大学生に接している舟津昌平さんに聞く「Z世代に贈る本」インタビュー1回目は、自著『Z世代化する社会』について。舟津さんは「若者とは社会を映し出す『鏡』である。もし若者に何か悪い面が目立ち始めたとしたら、それは世の中が悪い方向に傾いている兆候だ」と言う。Z世代はもちろん、Z世代を部下や後輩に抱えて困っている人、日本の将来に不安を覚えている人にもお薦めしたい。
Z世代は「炭鉱のカナリア」
昔も今も、世に「若者論」はあまたあります。昨今の10代後半から20代前半は「Z世代」と呼ばれ、それより上の世代からいささか奇異な目で見られることが少なくありません。何を考えているか分からない、職場などでコミュニケーションがかみ合わないといった話もよく聞きます。
しかし、彼ら彼女らは本当に突然変異のように現れた世代なのか。むしろ我々のような大人世代と地続きの徒花(あだばな)ではないか。これまで社会がつくり上げてきた学校や会社、あるいは就職活動のあり方などが、若者のキャラクターに強く影響を及ぼしているのではないか。そんな仮説をもとに書いたのが、『 Z世代化する社会 お客様になっていく若者たち 』(東洋経済新報社)です。
本書を読んだある方が、Z世代とは「炭鉱のカナリア」であると評してくださいました。まさにその通りで、炭鉱の中でカナリアがいち早くガス漏れや酸素不足を察知するように、Z世代に何か悪い面が目立ち始めたとしたら、それは社会が悪い方向に傾いている兆候と見なすことができる。つまりZ世代を観察することで、逆に社会の動き方や構造の変化が分かるのではないか、と考えたわけです。
さらに経営学者として言うなら、社会を構成する大きな要素であるビジネスも多分に影響しています。大学もビジネスの側面を強めているし、就職活動もビジネスの一環です。Z世代は、好むと好まざるとにかかわらずビジネスの対象になり、日々洗礼を受けています。影響されていないと考えるほうが不自然でしょう。
「プライベート優先」はZ世代に限らない
例えば「ワーク・ライフ・バランス」について。Z世代は仕事よりプライベートを大事にする、と指摘されることがあります。実際、私が授業で尋ねたら、9割の学生はそう答えました。
「だから最近の若者は~」という議論になりやすいのですが、そもそも社会全体として「働き過ぎは良くない」「ワーク・ライフ・バランスを整えよう」という風潮があることは周知の通りです。実際に30代でも40代でもプライベートを優先している人はいるし、現実はともかく、優先したいと考えている人も多いはずです。
そういう世相を受けて、つまり模範解答の影響からZ世代が「プライベートを優先したい」と答えたとしても不思議ではありません。だいたい彼ら彼女らは、世の中の規範に合わせて要領よく立ち回ろうとする傾向があります。
あるいは、Z世代は割と学歴主義で、権威に弱いといわれることもあります。強い側に与(くみ)すれば自分も強くなれるという、ある意味で合理的ですが面白みのない感覚を持っている。「長いものに巻かれろ」的な思考が強い。自らベンチャー企業を立ち上げるような若い人もいますが、全体で見ればごく少数でしょう。
しかし、こうしたことはZ世代に始まった話ではありません。概して日本人は保守的でリスク回避的な傾向があります。Z世代は上の世代の気質や動向を観察し、受け継いでいるだけという見方ができます。
確たるデータではありませんが、私自身の実体験を踏まえて言えば、東大生(経済学部)の就職先すらも、その時々の流行にかなり左右されています。例えば総合商社やメガバンクは今も昔も人気が高い。しかし私が大学生だった十数年前は、成長目覚ましいDeNAが最も人気だったそうです。人気が人気を呼ぶ「長いものに巻かれろ」的な思考は、当時も今もさして変わらないのではないでしょうか。
ゆとり世代は「自己責任」、Z世代は「他責」
ただし、大人世代とZ世代の思考がまったく同じかといえば、そうでもありません。Z世代は特に、日本の未来にポジティブな印象を持っていないように思います。
その代表例が、日本企業に対する見方です。ここ15年ほど、多くの日本企業の財務状況は、利益剰余金・現金預金・経常利益率などで右肩上がりが続いています。ところが、学生はそれをにわかには信じません。むしろ「ずっと下がり続けているはず」と思い込んでいる学生が多いのです。
これには理由があります。「低成長時代」とか「失われた○年」とか「少子高齢化」とか、ネガティブなイメージをさんざん吹聴されて育ってきたからです。また、企業のリストラや非正規雇用は珍しくなくなり、終身雇用も消えつつあります。年金制度にしても、将来本当にもらえると思っている学生は少数かもしれません。これでは、未来に希望を持てなくても仕方ないでしょう。
もっともそのイメージは、いわゆる「ゆとり世代」と呼ばれた私の世代も共有しています。だから自分でなんとかしなさい、あなたが頑張って社会を変えるしかないんだよと、「自己責任論」を教え込まれたのがゆとり世代でした。
ところが、Z世代は違います。「自責」ではなく「他責」の感覚に慣れているのです。未来に希望を持てないのは、上の世代が悪いからだ。職場環境が合わなかったり仕事がうまくいかなかったりするのは、上司の指示や先輩の面倒見が悪いからだ。いずれにせよ自分の責任ではないと考えがちです。
その結果、象徴的に登場したのが「退職代行サービス」です。退職の意思を自分で上司に伝えるのは気が引けるので、代行業者に伝えてもらう。上の世代は、こうしたサービスの登場に心底驚き、違和感を持ったことと思います。しかし「他責」に慣れたZ世代にとっては、案外当たり前の行為かもしれません。要は不快なものやストレスが高まりそうなことは、他人にお金を払って処理してもらおうというわけです。
見方を変えれば、提供者の進化がこういうビジネスの成立を支えているということでもあります。最近よく聞く「推し活」もビジネスです。より多くのお金を払えば、その分だけ「推し」に近づけます、あなたを幸せにしますよ、という理屈で支えられているビジネスです。私が20代だった頃にも「推し活」はありましたが、今ほどではなかったし、言葉もなかった。Z世代が積極的に消費に加えてから、言葉が生まれ、急速に浸透しました。
つまり、地獄の沙汰も金次第。お金があれば楽に生きられる世代とも言えます。そこにつけ込んで、お金を巻き上げるような悪徳ビジネスも跋扈(ばっこ)してくるかもしれません。
Z世代からもツッコミ
本書は、おそらくどんな若者論の本よりも多数のZ世代に取材して書いたと自負しています。草稿段階で、若者たちから多くの意見やツッコミをいただきつつ、時にはケンカのような対話をして、推敲(すいこう)を繰り返しました。その意味では、かなり真に迫ったZ世代論になっていると思います。少し上の世代の者として、私なりのアドバイスも書き添えました。
ただ最初に述べた通り、本書の目的はZ世代自身を評論することではありません。彼ら彼女らをフィルターとして、今の社会全体を分析することです。したがってZ世代に限らず、彼ら彼女らを部下や後輩に抱え、困っている方、日本の将来に不安を覚えている方にもお薦めしたい。要するにどの世代の方が読んでも面白いはず、と自賛しておきましょう。
2回目からは、Z世代へのお薦め本6冊を紹介していきます。
取材・文/島田栄昭 取材・構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集) 写真/稲垣純也


