サステナビリティ経営を突き詰めていくと、最終的には、自然界からの「採取」(資源採掘など)と自然界への「拡散」(CO2や廃棄物の排出など)をいかに極小化できるかに行き着く。そのためには、すでに採取済みのものをぐるぐる回していくビジネスの「サーキュラー化」が欠かせない。帝人は、30年以上前からポリエステルのケミカルリサイクルに取り組むなど、「地球の健康」をケアする活動に力を入れてきた。同社の内川哲茂社長に、推進中の循環型バリューチェーン構築について、『必然としてのサーキュラービジネス』著者の磯貝友紀氏が話を聞いた。(※本記事は『必然としてのサーキュラービジネス』から抜粋・再編集したもの)

リーディングカンパニーの自負から土壌浄化を事業化

磯貝友紀(以下、磯貝):サーキュラーエコノミーを経営のなかでどのように位置づけていますか?

内川哲茂氏(以下、内川):化学メーカーとして二酸化炭素の排出は大きな問題なので、当初はカーボンニュートラルを真ん中に据え、それにサーキュラー経営が役に立つだろうという考え方でした。

 けれども、今、問題になっているのはカーボンだけではありません。磯貝さんの著書『必然としてのサーキュラービジネス』で詳しく説明されているように、「採取」と「拡散」という目で見ると、反応性窒素の問題もあれば、金属の問題もあります。現在起きているすべての環境問題は、結局のところ、人間が自然界から大量に採取をし、それらを消費した後、大量に放出(拡散)したことによって引き起こされている。それに気づいたので、会社の中でも重み付けを変えました。

 会社のアクティビティとしてはまだ小さいですが、地球に対する負荷全般を見るような形で今は議論するようにしています。現在は、サステナビリティに関するマテリアリティ(重要課題)を五つ掲げており、その一つに「サーキュラーエコノミーの実現」を位置づけています。

 実は、帝人は、30年ぐらい前からサーキュラーエコノミーに取り組んでいます。当時は、ポリエステル繊維の世界シェアで日本企業がトップを占めていた時代で、今ほど製造者責任やサステナビリティの重要性が叫ばれてはいませんでしたが、先輩方は先の先を見越して研究されていたんです。

内川哲茂(うちかわ・あきもと)氏/帝人社長兼CEO。1990年信州大学大学院修了、帝人に入社。繊維研究所、繊維事業本部繊維技術開発部門加工技術第2部などを経て、2003年にオランダのテイジン・トワロンB.V.に出向。14年高機能繊維事業本部生産・研究開発部門長、21年6月取締役常務執行役員マテリアル事業統轄、22年4月より現職。(写真=鈴木愛子、以下同)
内川哲茂(うちかわ・あきもと)氏/帝人社長兼CEO。1990年信州大学大学院修了、帝人に入社。繊維研究所、繊維事業本部繊維技術開発部門加工技術第2部などを経て、2003年にオランダのテイジン・トワロンB.V.に出向。14年高機能繊維事業本部生産・研究開発部門長、21年6月取締役常務執行役員マテリアル事業統轄、22年4月より現職。(写真=鈴木愛子、以下同)
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磯貝:どんなことを研究されていたのですか?

内川:そのころすでにPETボトル向けの樹脂を製造・販売していたのですが、その樹脂には微量の重金属が含まれていて、研究員たちは「もしかしたら自分たちが世界中に毒をまき散らしているかもしれない」と懸念し、重金属フリーのポリエステルの開発やポリエステルのケミカルリサイクルの研究を始めました。すごいことだと思うのですが、そこまでなら、ケミカルメーカーならあり得る話です。ところが、それと並行して土壌から重金属などを取り除く土壌浄化の研究にも取り組み、その後、パイロットスケールですが事業として始めていたんですよ。

磯貝:技術者たちには、世界のリーディング・ファイバーカンパニーであるという自負が、あったのでしょうね。

磯貝友紀(いそがい・ゆき)氏/PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス リード・パートナー。PwCサステナビリティ合同会社。日本企業のサステナビリティビジョン・戦略策定、サステナビリティ・ビジネス・トランスフォーメーションの推進、サステナビリティリスク管理の仕組み構築、途上国における社会課題解決型ビジネス支援やサステナブル投融資支援を実施。近著に『必然としてのサーキュラービジネス』(日経BP)。
磯貝友紀(いそがい・ゆき)氏/PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス リード・パートナー。PwCサステナビリティ合同会社。日本企業のサステナビリティビジョン・戦略策定、サステナビリティ・ビジネス・トランスフォーメーションの推進、サステナビリティリスク管理の仕組み構築、途上国における社会課題解決型ビジネス支援やサステナブル投融資支援を実施。近著に『必然としてのサーキュラービジネス』(日経BP)。
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学校体操服を回収し、リサイクルして再び体操服に

内川:後から見返すと、社会に対する自分たちの影響度を先駆的に取り上げて課題解決されていたんだなと感銘するとともに、その精神を受け継がないといけないと思っています。

 このようにPETボトルや衣服のケミカルリサイクルは30年以上前から取り組んでいて、実は何回も工場をつくっては閉じてというのを繰り返しています。

 わかりやすい例で言いますと、2008年から全国の学校を対象に始めた体操服のリサイクル活動「体操服! いってらっしゃい、おかえりなさいプロジェクト」があります。これは旭化成アドバンスとの共同事業で、この活動に賛同した学校には、帝人フロンティアもしくは旭化成アドバンスのリサイクル可能なポリエステル繊維を使用した体操服を採用していただきます。使用後に不要となった体操服を学校側の協力を得て回収し、帝人グループが展開するポリエステル繊維の循環型リサイクルシステム「エコサークル」を活用して、石油から製造するものと同等の品質のポリエステル繊維に再生します。150校以上の小中学校に参加していただいていました。

磯貝:体操服のサーキュラー化を実現したわけですね。

内川:学校の体操服だけでなく、工場などの制服でも同じ仕組みでサーキュラー化を実現できます。「エコサークル」は2002年に帝人グループが世界で初めて開発した、ポリエステルのケミカルリサイクル技術を核とした循環型リサイクルシステムです。化学的に分子レベルまで分解し、石油から製造するものと同等の品質の製品に再生できるため、それまでのリサイクルの課題だった品質劣化を回避でき、何度でも繰り返しリサイクルできるため、石油資源の使用を抑え、廃棄物を削減することができます。

 この活動に賛同していただいた国内外アパレルメーカーやスポーツメーカー160社以上と共同で、商品の開発およびその回収・リサイクルを進めていましたが、2018年にやむなく中止せざるを得なくなりました。私たちは、回収した繊維製品を日本国内で産業廃棄物処理し、リサイクル原料として中国へ輸出し、中国のグループ協力工場でポリエステル原料化や再生糸の製造を行ってきたのですが、この年に中国政府が廃棄物の輸入を禁止すると発表したため、活動の継続が困難になってしまいました。

 当時はバージン原料のものも含め、生産拠点をアジアに出さざるを得ない状況だったのですが、結局はそれがあだとなってしまい、大変残念に思っています。

磯貝:回収量のボリュームもあり、現在まで続いていたら十分にペイするビジネスになった可能性がありますね。

内川:こうしたことに再チャレンジしていくことも、「サーキュラーエコノミーの実現」の柱の一つだと思っています。

 リスタートに当たっては、今までは、ポリエステル100%の製品をつくってそれだけをリサイクルしていましたが、これからは、さまざまな素材が含まれている製品を回収・分別し、他の繊維企業にも参画していただいて、素材ごとにそれを得意とする企業にリサイクルしてもらえないかと考えています。つまり、繊維業界の水平連携によるサーキュラーエコノミーの実現です。弊社単独で行うのではなくいろいろな会社の力を結集すれば、回収ルートやリサイクル技術においても、発揮できる力が格段に大きくなります。

最終製品メーカーとの協働でサーキュラー化を推進

磯貝:自動車関連ではEVバッテリーのアズ・ア・サービスを始めた会社がありますし、タイヤに関しても、運輸事業者向けにアズ・ア・サービスが浸透しつつあります。アズ・ア・サービスは、サーキュラーと相性がすごくいいので、使用者へのサービスを手厚くして対価を受け取るビジネスモデルを描きやすく、使用後の製品も確実に回収できるのでループを閉じやすい。バッテリーにもタイヤにも、取り外し(交換)しやすい、メンテナンスが必要、リサイクルが課題、という共通点があります。

内川:その視点で自動車関連を見ると、当社に関連するものとしては、例えば、燃料電池車(FCV)の燃料タンクなどがあります。あくまでも仮の話ですが、FCVの燃料タンクのサーキュラー化を実現しようと思ったら、燃料タンクの規格が統一され、どの自動車メーカーも同一の炭素繊維が使用されたタンクを採用する、回収に関しても自動車リサイクル法のなかでタンクの回収を義務化するなど、リサイクルのしやすさを考慮した仕組みがないと難しいと思います。炭素繊維は金属類のように溶かしてピュアなものに一度戻せば品質が保証できるというものではありません。そこが技術的なハードルです。

 素材メーカーが1社でできることには限界があります。私たちも技術開発などで汗をかくことには労を惜しみませんが、制度設計や回収の仕組みづくりなどを含めてサーキュラー化を主導するのは、最終製品メーカーなどバリューチェーンや商流をつくっていく企業であり、私たちはそれに協力する形になると思います。

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気候変動対策・脱炭素だけでなく、生物多様性喪失、窒素汚染の問題など、近年、企業にとって、対応すべき環境課題が次々と出現している。だが、「採取」と「拡散」というレンズを通すと、一見バラバラに存在するこれらの問題は、同じフレームワークで捉えることが可能になり、対策を講じやすくなる。目指すべき北極星は、「採取と拡散の極小化」であり、そのためにはビジネスのサーキュラー化が必然の道となる。

磯貝友紀(著)、日経BP、2420円(税込み)