和書約100万冊・洋書約12万冊という国内最大級の在庫数を誇る丸善 丸の内本店で、和書を担当する宗形康紀さん。日経文庫70周年を記念して、お薦めの日経文庫を3冊選んでもらった。前回は1冊目として、『 イノベーションの考え方 』(清水洋著)を取り上げた。今回は、物流の現在から未来を見通す本と、子どもの教育を経済学の観点で考察する本の2冊を紹介する。

※『イノベーションの考え方』については前編「 丸善 丸の内本店・宗形康紀さん 70周年の日経文庫、お薦めの本 」を参照。

丸善丸の内本店で一般書を統括する宗形康紀さんお薦めの日経文庫3冊
丸善丸の内本店で一般書を統括する宗形康紀さんお薦めの日経文庫3冊
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切っても切り離せない物流

 日本のビジネスの中心地、東京都千代田区丸の内に店舗を構える丸善 丸の内本店。複合商業施設の丸の内オアゾのキーテナントで、国内最大級の在庫数を誇る大型書店だ。その1階入り口を入ってすぐのところで「日経文庫70周年フェア」が行われている(2024年10月末まで)。

日経文庫は創刊70周年を迎えた。丸善 丸の内本店では、「日経文庫編集長がおススメするビジネスに役立つ一冊」フェアが展開中
日経文庫は創刊70周年を迎えた。丸善 丸の内本店では、「日経文庫編集長がおススメするビジネスに役立つ一冊」フェアが展開中
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 日経文庫は2024年8月に創刊70周年を迎えた。経済、経営、法律、マーケティング、IT、実用外国語などの専門分野をテーマにし、信頼度の高い内容で今も昔もビジネスパーソンの必読書として親しまれている。そこで、同店・和書グループ長補佐の宗形康紀さんに、お薦めの日経文庫を3冊選んでもらうことに。前回、1冊目として『イノベーションの考え方』(清水洋著)を取り上げた。今回2冊目として紹介するのは、『ロジスティクス4.0 物流の創造的革新』(小野塚征志著/2019年3月刊)だ。

『ロジスティクス4.0 物流の創造的革新』(小野塚征志著)。「本書には、省力化のための機械化やAI導入が進んだ物流業界の未来についても書かれています」(宗形さん)
『ロジスティクス4.0 物流の創造的革新』(小野塚征志著)。「本書には、省力化のための機械化やAI導入が進んだ物流業界の未来についても書かれています」(宗形さん)
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 ロジスティクスとは、原材料の調達から生産・販売に至るまでの物流を最適化し、一元管理することを指す。「それをテーマにした本となると、メイン読者は物流業界の人になるかと思いきや、読んでみたら関係者にとどめておくのはもったいない内容だと思いました」と宗形さん。数年前から、配送会社の社員の過剰労働問題がニュースになっている。そのたびに「物流危機」と騒がれていることから、このテーマに寄せられる注目度は上がっていると言える。

 「そもそも、多くのビジネスは、物資を供給する側から需要する側へ提供されることで成り立っていますよね。一般消費者の立場で考えても、日々の生活に宅配サービスは欠かせず、物流は切っても切り離せません。本書には、省力化のための機械化やAI(人工知能)導入が進んだ物流業界の未来についても書かれています。省力化やAI導入はどの業界にも通じるテーマですから、今後、自分がいる業界でも同じようなイノベーションが起こるのかもしれない、といった観点で読むのも面白いと思います」(宗形さん)

教育を新しい観点で考えるために

 3冊目として紹介するのは、教育を経済学的に読み解く『教育投資の経済学』(佐野晋平著/2024年1月刊)。紹介済みの2冊がイノベーション関連だったことから、あえてまったく別のテーマから選書してくれた。

『教育投資の経済学』(佐野晋平著)。高まる教育熱に対し、国家、個人はどうすることが最適なのだろうか? 経済学を通じて、解決策を探った一冊
『教育投資の経済学』(佐野晋平著)。高まる教育熱に対し、国家、個人はどうすることが最適なのだろうか? 経済学を通じて、解決策を探った一冊
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 経済学の一分野として教育経済学という学問がある。その中で、能力形成を主目的にする教育は、経済学的に人的資本への投資と捉えることができる、と考えるのが教育投資だ。したがって、親が子に習い事や塾、学校に通わせるのは一種の投資行為になる。

 「多くの親は、わが子を人的資本という視点では見ないでしょう。だから、子どもにかけるお金や労力は無限で、費用対効果を考えないと思います。子がしたいことをはじめ、自分が親にしてもらったことや、周りの親がしていることもすべてしてあげることが愛情の証しといったイメージが定着しています。

 が、現実として、お金も労力も無限ではなく有限です。いい大学を出ると給料は高いのか、教育における家庭の役割はどのぐらいなのか、コロナ禍で増えた家庭学習やICT教育の影響など、言われてみると気になる、ということが結構ありますよね。それらを国内外の研究データに基づいて、論理的に解明してくれるので、教育について新しい観点で考えたい人にお薦めです」(宗形さん)

 子どもがいない人が読んでも、自分が受けてきた教育の費用対効果を探ることができて楽しい。「私自身の費用対効果は……、ちょっと言葉にならないですね(苦笑)。親には足を向けて寝られないと思いました」と謙遜する宗形さん。自身がゆとり世代であることから、「ゆとり教育の効果はあったのか」という項目も、興味深く読めたという。

 「戦後から続いた『詰め込み教育』は、知識を詰め込んで偏差値を上げることに重点が置かれていましたが、そのせいで自分で考える力が落ち、勉強以外のことを経験する時間がないことが問題視されました。それを改善するためにできたのが学習量を減らす『ゆとり教育』です。

 しかし、学力が低下するという結果に至ったため、『脱・ゆとり』が掲げられて授業数がやや増加した、というのが大まかな流れだと思います。そういった変遷を踏まえながら、自分が受けたゆとり教育にはどんなメリット・デメリットがあったのか、という長年の疑問を晴らすことができ、教育投資という観点で、人的資本に対する投資としての有効性について、自分なりの答えを得られました」(宗形さん)

取材・文/茅島奈緒深 写真/尾関祐治

日経文庫『 教育投資の経済学
データに基づき、最適行動・施策を考える

「子どもの教育」というと、親が自分の経験値で語ったり、周りの情報をうのみにして行動したりしてしまうもの。そういった「思い込み」を排し、根拠に基づいた論理的分析で結果を導くために、経済学を活用する。

佐野晋平著/日本経済新聞出版/1320円(税込み)