全国の大学生協ではいったいどんな本が売れているのか。売れ筋は地域や時期によってさまざまです。各大学の生協書籍部の担当者に最近のトレンドやお薦め本を聞く本シリーズ。1回目は東京大学消費生活協同組合 本郷書籍部の竹原昌樹店長にお話を伺いました。
売れ筋は深層学習や拡散モデルといったAI関連
東京大学生協本郷書籍部は、戦後間もない1946年に営業開始しました。安田講堂内で営業していた頃もありましたが、1981年に現在の場所(第2食堂1階)に移転。もう40年以上経つので、先生方もほとんどが安田講堂時代を知らないようです。
現在の在庫冊数は約7万冊で、一通りのジャンルを揃えていますが、大学内の書店なので中心となるのは専門書(教養書)。学生や先生方だけでなく、近隣住民のみなさんにも多く来店いただいています。卒業後も近隣に住んでいるOB・OGは多く、そういう方々が興味や関心あるテーマの本を探しに来るケースが多いようです。
最近の売れ筋は、AI関連の専門書。特に、深層学習や拡散モデルなどに関するテーマが動いている印象です。理工系の学部ではAIに関する授業や研究の機会が増えていて、より最先端の情報や、理論的な解説が成されている専門書が売れています。
東大では、一般的に話題になる前に、関連する書籍が売れ出す傾向にあり、AIのほかにも例えばジェンダー論やサステナビリティなど今話題のテーマについても、かなり以前から注目されている印象です。最近では「因果推論」や「大規模言語モデル」などが気になるワードですね。やはりAIやビッグデータに関わりますが、「因果推論」も経済分野で多用されているように、文系であっても理系的センスが必要になってきているように感じます。
なお、 5月のランキング 1位の『東大生が書いた 問題を解く力を鍛えるケース問題ノート』は、外資系コンサルティング会社の採用選考で課されるケース問題対策の良書として知られていて、毎年この時期には必ずランキング上位に入っています。
2位の『暇と退屈の倫理学』は、哲学書ながら非常に読みやすく、物語のようにすいすい読み進められます。以前からお薦め本として店内に掲示していますが、コロナ禍で多くの人が感じたであろう「暇」と「退屈」について論じられていることから、興味を持った学生が多いようです。パンデミックを経て、今後我々はどういう生き方をすべきなのか、考えさせられる本です。
コロナ禍に、書籍部主催のオンラインイベントを開催
近年は、本郷書籍部主催のトークイベントを積極的に開催しています。2020年にコロナ禍に突入し、外に出られない、大学にも来られない日々が続きました。そんな中、大学内の書店としてできることはないか考え、先生方や著名人の方々によるトークイベントをオンラインで開催したところ、大きな反響を得ることができました。学生のみならず、一般の方も無料で視聴いただけるようにしています。
これまでにご登場いただいたのは、政治学者であり東大社会科学研究所教授の宇野重規先生や、直木賞作家で東大出身の小川哲さんなど。ここでしか聞けない裏話なども、たくさん語っていただくことができました。
新型コロナが一段落し、再び学生がキャンパスに戻ってきたので、これからは店舗内にイベントスペースを設けてオンライン&オフラインのイベントを積極的に開催していきたいと考えています。
「本を買う価値」を感じてもらえるような良書を提案し続けたい
最近、学生から「本は高い」という声をよく聞くようになりました。私は生協の書店で20年近く働いていますが、専門書の価格はほとんど変わっていません。今は、ネット経由で情報がタダでいくらでも手に入る時代。東大生にとっても「お金を出して情報を買う」という行為自体のハードルが上がっているのかもしれません。
そんな環境下だからこそ、より専門的な知識を得られる有益な書籍を、どんどん提案していきたいですね。当店で売れた本は、「東大生が読んでいる本」としてメディアに取り上げられることも多いので、トレンド発信という意味でも重要な役割を担っていると自負しています。より多くの学生に来店いただき、トレンドを生み出してもらえるよう、魅力的な店舗づくりのための努力、工夫を続けていきたいと考えています。
取材・文/伊藤理子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集部) 写真/佐々木睦


