福岡・博多湾の西、糸島半島のほぼ中央に位置する九州大学伊都キャンパス。福岡市内各地に分散していたキャンパスを統合し、2018年秋に移転が完了した。単一キャンパスとしては国内最大級の広さで、生協書籍も5店舗を展開している。九州大学生活協同組合皎皎舎(こうこうしゃ)店の木原悠駿さんに、品ぞろえや売れ筋などについて伺った。

九州大学生活協同組合皎皎舎店の木原悠駿さん。手にしているのはお薦めの『18歳からの自炊塾』と『決断科学のすすめ』
九州大学生活協同組合皎皎舎店の木原悠駿さん。手にしているのはお薦めの『18歳からの自炊塾』と『決断科学のすすめ』
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売れ筋は語学系の実用書や機械学習関連。理学部には熱力学の本も人気

 九州大学伊都キャンパスは2018年秋に完成した新しいキャンパス。最寄りの九大学研都市駅からはバスで20分ほどを要し、学修や研究に集中できる環境です。敷地面積は275ヘクタールと広大で、単一キャンパスとしては日本最大級の広さを誇るため、生協としても5つの書籍取扱店を構え、幅広い需要に対応しています。学外の利用者はほとんどいませんが、その分普段ご利用いただく学生や教職員の皆さんとコミュニケーションを取り、ニーズに応えられるよう努めています。

 皎皎舎(こうこうしゃ)店は、中央図書館店に次ぎ2番目に広い店舗。理学部や2018年に新設された共創学部が近いこともあり、理系の書籍を多めに取り揃えています。また、1年生が学ぶ校舎も近いので、本に親しみを持ってもらうためさまざまなイベントやフェアを企画しています。

皎皎舎店の全景。食料品や文具などを販売している日常ゾーンと書籍店などがある勉学ゾーンに分かれている
皎皎舎店の全景。食料品や文具などを販売している日常ゾーンと書籍店などがある勉学ゾーンに分かれている
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勉学ゾーンでは約2万冊の書籍が陳列できる
勉学ゾーンでは約2万冊の書籍が陳列できる
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 先日は文庫・新書を3冊以上買うと15%オフになる「まとめ買いフェア」を初めて実施しました。北大生協で実施されていたのを参考にさせていただきましたが、非常に好評で、7月は文庫や新書が多数ランキング上位に入りました。

 クリスマス近辺にほかの伊都キャンパスの生協書籍部4店と協働して同様のフェアを開催する予定です。学生の皆さんにはこの機会を活用いただき、年末年始にたくさんの本に触れてほしいと願っています。

 皎皎舎店の売れ筋は、TOEIC対策本。年間を通して語学系の実用書に対する需要は高く、昔から人気のある定番本がずっと売れ続ける傾向にあります。また、理学部の学生には熱力学関係の本がよく売れました。熱力学は大学でもつまずきやすい分野と聞きます。入門書もそこそこ売れますが、昨年発売された沙川貴大先生の 『非平衡統計力学―ゆらぎの熱力学から情報熱力学まで―』(沙川貴大著、須藤彰三、岡 真監修、共立出版) は発売時に爆発的に売れました。

 機械学習関連の書籍も人気で、理系学部だけでなくさまざまな学部の学生が購入している印象です。授業や研究において、AIはほとんどの分野に入り込んでいるので、必要に迫られて購入されているのでしょうが、この分野への純粋な興味・関心から手に取っている人も多いように感じます。生成AIと教育と社会とのつながりに関する書籍を購入される先生も多くいらっしゃいます。

 個人的に注目しているのは、 『言語の本質』(中央公論新社、今井むつみ・秋田喜美著) 。言語学と認知科学を出発点に、AIとヒトの違いにまで言及している話題の新書で、今まさに読んでおきたい一冊。専門的な内容でありながら読み進めやすい内容で、皎皎舎店でも発売後すぐに売り切れるほど人気を集めています。著者の一人である今井むつみ先生は『英語独習法』(岩波書店)という新書も執筆されており、こちらも九大生に人気のある本です。

 九州大学の教授が執筆されている本も人気があります。『18歳からの自炊塾』『決断科学のすすめ』の2冊は、特に推薦したい本です。

  『18歳からの自炊塾』(比良松道一著、家の光協会) は2013年から続いている九大の人気講義を書籍化したものです。定員の5倍の学生が受講を希望するほどの人気がある講座なのですが、スキルとしての自炊にとどまらず、食育や社会問題にまで展開される講義内容がまとめられています。この講義ができるまでの秘話や受講生の反応も書かれており、一つの読み物としても非常に面白かったです。

  『決断科学のすすめ』(矢原徹一著、文一総合出版) は、研究者のリーダー人材に必要な「決断力」に関する本です。著者の矢原先生の専門分野である生物学をベースに書かれているのも、今まで触れたこのあるリーダー論とは一風変わっていて、とても興味深い1冊です。研究者のみならず、社会人にも通ずる話だなと思います。

「理学書の会」コーナー。今回のテーマは物理学のすすめ。専門出版社5社のお薦め書籍を集めた
「理学書の会」コーナー。今回のテーマは物理学のすすめ。専門出版社5社のお薦め書籍を集めた
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学生の読書離れに危機感。もっと気軽に本に手を伸ばしてほしい

 2022年10月に生協で実施した調査によると、「全く読書をしない」と回答した九大生が45.7%いました(教科書や参考書は除外)。10年前と比較すると約1.4倍に増えていて、学生の読書離れが急速に進んでいると危惧しています。

「読み始めた本は最後まで読み切らなければいけないという意識がハードルになっているのでは」
「読み始めた本は最後まで読み切らなければいけないという意識がハードルになっているのでは」
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 今の大学生は、物心ついた頃にはすでにネットが普及していた世代なので、「情報はスマホで収集する」という人が多く、書籍離れの要因になっているようですが、個人的には「本を買ったら最後まで読み切らなければならない」という意識が読書の大きなハードルになっているのではないか…と推察しています。

 九大出身の私自身そうなのですが、九大生は真面目に受験勉強に取り組んできた人が多く、「参考書や問題集を最後の1ページまでやり切る」ことが重要だと教えられてきました。同じように、本も一度手に取ったら読み切らなければいけないという意識が強いように感じます。そのため読書のハードルが高くなり、新しい本に手が伸ばしにくくなっているのではないでしょうか。

 学生の皆さんには、無理に最後まで読み切ろうと考えず、もっと気軽に本を手に取ってみてほしいです。「タイトルや表紙がちょっと気になった」ぐらいでもOK。ペラペラめくってみれば、予想外に面白く感じて興味の幅がどんどん広がっていったり、自分自身の思わぬ志向に気づけたりします。そしてそれが、自身の新しい知識や経験へとつながっていきます。

 あらゆる情報がネットから得られる時代ですが、それらの情報は玉石混交であり、個人が真偽を精査するのは難しいもの。先々まで自分の身になる情報としては、本の右に出るメディアはまだないと考えています。たくさんの本に触れれば必ずいい出合いがあるので、少しでも気になった本にはぜひ手を伸ばし続けてほしいですね。

取材・文/伊藤理子、構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集部)、写真/松隈直樹