どんなに話しても思いが届かないのは、実は自分の本音(ニーズ)に気づいていないから。まずは自分と向き合い、「本当に伝えたいこと」を知るところから人間関係は始まる。「NVC(非暴力コミュニケーション)」理論を軸に、コミュニケーション・コンサルタントが教える自分の本音の見つけ方とは? 日経ビジネス人文庫『自分と相手の「本音」がわかる会話術』(西任暁子著)から抜粋・再構成してお届けする。

「伝えるだけ」では不十分

 今日、あなたはどんな話をしましたか。

 お客様に商品の説明をした。
 会議で、そのやり方には反対だと意見を述べた。
 コンビニで、つり銭が多いことを店員に伝えた。

 言葉を交わしたいろんな場面が浮かんできます。
 では、私たちはなぜこのように、いろいろな話をするのでしょうか?

 「何かを伝えたいから」という声がもっとも多く聞こえてきそうです。
 確かに、話は「伝えたい」という思いから始まります。

 でもそのさらに奥には、伝えることで満たしたい願いが隠れていないでしょうか。

 たとえば、商品の魅力は伝わったけれど、必要ないと言われたら落ち込むかもしれません。
 会議で自分の意見は伝わったけれど、鼻につく奴だと言われたら傷つきます。
 つり銭が多いことは伝わっても、間違いを指摘された、と相手が逆ギレしてしまったら、言わなければよかったと思うかもしれません。

行為の奥にある「大切にしたい何か」

 なぜ、伝えたのに満たされなかったのか。
 それは、伝えることが、「目的」ではないからです。

 伝えることは、「手段」。
 伝えることによって、自分が「求める何か」を手に入れようとしていた。
 だから、伝わっただけでは満たされないのではないでしょうか。

 商品の魅力を伝えたいのは、契約をとって、上司に「認めて」ほしいからかもしれません。

 会議で反対意見を述べたのは、プロジェクトの「成功」が自分にとって大切だったからでしょうか。

 コンビニでつり銭が多いと伝えたのは、「正直さ」や「誠実さ」が大切だからかもしれません。あるいは、自分にもレジ打ちの経験があり、計算が合わなくて困ったことがあるから、その人に同じ思いをさせたくなかった。そんな「思いやり」や「貢献」を大切にしたかったのかもしれません。

 認めてもらうこと、成功、正直さ、誠実さ、思いやり、貢献……。
 私たちが話をするのは、こういった「大切にしたい何か」を満たそうとするからだと思うのです。

 話すことだけではありません。すべての行為の奥に、「大切にしたい何か」があります。それこそが、「本音」なのです。

ニーズをさらに深掘りする

 すべての行為の源にある「大切にしたい何か」を、ここでは「ニーズ」と呼びます。
 ニーズは私たちを動かす原動力。
 人は、どんなときもニーズを満たそうとして行動しています。

 ビジネスでも、ニーズという言葉はウォンツと合わせてよく使われますね。
 ニーズが目的、ウォンツは手段の意味です。

 たとえば、「車が欲しい」が「ウォンツ=手段」の場合、「ニーズ=目的」は「移動ツールが欲しい」となります。
 ここで言うニーズは、そこからさらに深掘りして見つけます

 たとえば「移動ツールが欲しい」というニーズの奥には、どんなニーズがあるでしょうか。

 それは、いつでも好きなところへ行ける「自由」かもしれません。
 家族みんなでキャンプに出かける「遊び」、恋人とドライブをしながら楽しむ「コミュニケーション」かもしれません。

 このように、ビジネスシーンで使われるニーズをさらに深掘りした「大切にしたいこと」が、これからお伝えしていく「ニーズ」です。
 それは、価値や願いとも言えるでしょう。

「感じて」見つけ出していく

 ビジネスにおけるニーズが簡単には見つからないように、そのさらに奥にあるニーズとなると、最初はなかなか見つけられないかもしれません。

 私たちは、頭で「こうするべきだ」「こうしたほうがいい」と考えて行動することには慣れていますが、何を大切にしたいのかを感じることはあまりやってこなかったからです。

 つまり、「本当はこれを大切にしたい」という真の本音とは、すでに頭の中にあるような考えではなく、その先を感じて見つけ出していくものなのです。

「快・不快の感情」がヒント

 では、どうすればニーズという本音に気づけるのでしょうか
 ヒントは「感情」です。

 うれしい、安堵、ワクワク、イライラ、うんざり……。
 私たちはその瞬間ごとに、さまざまな感情を感じています。
 そんな快・不快の感情は、「ここにニーズがあるよ」と教えてくれているのです。

 たとえば、おなかが空いているのになかなか食事ができずに、「イライラ」するのは、「食べ物」のニーズが満たされないからです。仕事の成果が認められて「誇らしい」気持ちになるのは、「承認」「成長」「貢献」などのニーズが満たされるからでしょう。

 このように、不快な感情は満たされていないニーズを、快の感情は満たされているニーズがあることを教えてくれています。

自分にも相手にも正直になれる

 私たちはなぜ話すのか。
 それは、自分にとって「価値ある何か」を手に入れるためだと先にお伝えしました。その手に入れたいという願いこそ、真の本音なのだと。

 そして、手に入れたい何かは常に移り変わっていきます。
 私たちは、その変わり続ける何かを追い求めて、ほとんど無意識に話しているのです。

 「自分の本音に気づく」習慣が身につくと、感情を味わってニーズにたどり着くことができるので、自分にも相手にも正直に、そして穏やかでいられるようになっていきます。
 感情に振り回されなくなるからです。

 本音を伝え合うコミュニケーションは、まず自分の本音に気づくことから始まります。

■主要参考文献
『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』マーシャル・B・ローゼンバーグ(安納献監訳・小川敏子訳/日本経済新聞出版、2012年)
自分も相手も「手に入れたい何か」のために会話している(写真:wheeljack/stock.adobe.com)
自分も相手も「手に入れたい何か」のために会話している(写真:wheeljack/stock.adobe.com)
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日経ビジネス人文庫
自分と相手の「本音」がわかる会話術
「本音」を言葉にすれば、人間関係はもっとラクになる!

「自分も相手も大切にするコミュニケーション術」を、①自分の本音に気づく→ ②相手の本音を聞く→ ③自分の本音を伝える、の3つのステップで解説。心の奥に隠された「本当に言いたかったこと」とその上手な伝え方がわかります。ビジネス・日常のあらゆるシーンで応用可能です。

西任暁子著/日本経済新聞出版/880円(税込み)