「自分は相手の話を聞いている」、それはあなたの思い込みかもしれない。ただ耳を傾けるだけでは、相手の本音(ニーズ)には到達できない。主語を「相手」にする、わからないという認識で聞く……「NVC(非暴力コミュニケーション)」理論を軸に、コミュニケーション・コンサルタントが教える心が通い合う、聞き方のコツとは? 日経ビジネス人文庫『自分と相手の「本音」がわかる会話術』(西任暁子著)から抜粋・再構成してお届けする。

聞きながら頭の中でおしゃべりしている

 「あなたは話を聞けていますか?」
 そうたずねると、ほとんどの人が聞けていると答えます。

 ところが、
 「話を聞いていないと言われたことはありますか?」
 とたずねると、これまた多くの人が言われたことがあると答えるのです。

 これはどういうことでしょう?

 ひとつには、「聞く」の定義が、人によって異なることが挙げられるでしょう。
 声が聞こえていることも「聞く」ですし、言葉の奥にある思いを汲みとることも「聞く」に含まれます。「聞く」は幅が広いのです

 また、聞くことは目に見えないので、自分が行っていることを客観視するのがむずかしいということもありそうです。

 私自身、内観を深め、聞くことの奥深さを知るほど、話が聞けていないと思えるようになりました。

 たとえばかつては、話を聞いているとき、頭の中ではおしゃべりが止まらないことに気がついていませんでした。
 「そうじゃないよ、それは~」と説明したり、「そんな考え方だからうまくいかないんだよ」と批判したり、「私の場合はね」と自分の話をしたくなったりすると、いつ言おうかとタイミングを計ってしまう。つまり、聞いていなかったのです

聞いていないから自己流の理解になる

 あなたは、頭の中のおしゃべりにどれくらい気づいていますか。

 試しに3分間、頭の中で起こっていることを観察してみてください。
 送らなければいけないメール、家族に言われた言葉、お昼に食べたもの、誰かと交わした会話など、とめどなく、そして脈絡なく、いろんなことが浮かんでくることに気がつくでしょう。

 話を聞いているときも、頭の中ではそうしたおしゃべりが起こっています。
 そのため自分ではちゃんと聞けたつもりの話も、自己流の理解になってしまうのです。

「相手を主語」にして聞く

 話を聞くときは、「相手を主語」にすると頭の中のおしゃべりが静かになるでしょう。

 「この人」は何を言いたいのだろう?
 「この人」は何を感じているのだろう?
 「この人」は何を大切にしているのだろう?

 「私は」「私が」「私なら」という自分の考えは横に置いて、話し手の心を想像します。

 それでも頭の中のおしゃべりはゼロにはなりませんが、少なくなります。
 おしゃべりに気がついたら、また話を聞くことに戻りましょう。

 「そんなことをしたら、何を言おうと思ったのか忘れてしまう」と心配になるかもしれませんが、何かを覚えておこうとすると、そのことが気になって話が聞けなくなります

 忘れてしまったということは、言わなくてもよかったのかもしれません。
 どうしても必要なら、サッとメモをして聞くことに戻ることもできますね。

言葉だけでなく様子も観察

 相手を主語にして聞くと、これまで聞こえていなかったことが聞こえるようになるでしょう。

 「同じ言葉が3回出てきた。大切なことなのかな」
 「一瞬、声が小さくなったように聞こえたけれど、自信がないのかな」
 など、相手の声や言葉から、心で起こっていることが感じられます。

 また、話す人の心は身体に表れますから観察も大切にします。
 緊張して指先に力が入ったり、まばたきが増えたり、呼吸が速くなるといった目に見える変化から、心が伝わってくるでしょう。

 それから、全体を広く捉えるように観察すると、なんとなく苦しそう、なんとなく無理をしているような気がする、といった雰囲気が伝わってきます。

 言葉にできない「なんとなく」を大切にして、相手の心を感じてみてください。

「わからない」から謙虚に聞ける

 話を聞くときは、「私はわかっていない」という姿勢も大切です。

 「わかっている」と思うと、それ以上理解したいと思えず、話が入ってきません。
 「こういうことでしょ」と思った先入観から離れられず、自分の理解に寄せて聞くことになってしまいます。

 ある会社に、よく遅刻してくる人がいました。
 その理由は、自己管理ができないからだとみんなが思っていたので、誰も本人に理由をたずねたりはしませんでした。

 ところがある日、こう質問する人がいたのです。
 「遅刻するのには、何か理由があるの?」

 その声の響きには、相手を責めたり決めつけたりする感じがなく、わからないから教えてほしい、相手を理解したいという願いが伝わってくるのでした。

 すると遅刻をする人は、初めて理由を語りました
 彼は、時間を逆算できなかったのです。たとえば9時出社なら、通勤にかかる30分と支度する30分を差し引いて8時に起きればいい。その計算ができなくて、遅刻を繰り返していたのです。

相手が本音を語りたくなる

 もし、たずねる人が、「遅刻するのは怠けているからだ」と心の中で決めていたら、その人は心を開いて話せなかったかもしれません。

 相手の本音は、自分にはわからない。

 この認識は、先入観なしに話を聞くことを助けてくれます。
 わからないから理解したい、教えてほしいという気持ちで聞いてもらえたら、本音を言ってみようと思えるのではないでしょうか。

■主要参考文献
『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』マーシャル・B・ローゼンバーグ(安納献 監訳・小川敏子 訳/日本経済新聞出版、2012年)
相手の表情や身体の様子に「本音」が見えてくる(写真:naka/stock.adobe.com)
相手の表情や身体の様子に「本音」が見えてくる(写真:naka/stock.adobe.com)
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日経ビジネス人文庫
自分と相手の「本音」がわかる会話術
「本音」を言葉にすれば、人間関係はもっとラクになる!

「自分も相手も大切にするコミュニケーション術」を、①自分の本音に気づく→ ②相手の本音を聞く→ ③自分の本音を伝える、の3つのステップで解説。心の奥に隠された「本当に言いたかったこと」とその上手な伝え方がわかります。ビジネス・日常のあらゆるシーンで応用可能です。

西任暁子著/日本経済新聞出版/880円(税込み)