インフレに備えるだけでなく、AI(人工知能)革命の時代の変化に備えるためにも、一定の資産を株式という形で持つ意味がこれまで以上に大きくなっている。なぜそう言えるのか? その背景にあるものは? 2024年1月の株価3万円台の時期から「日経平均10万円」時代の到来を見据えていた藤野英人さんの『「日経平均10万円」時代に備えろ』(日経ビジネス人文庫)から抜粋・再構成してお届けする。
インフレ×AIで投資の重要性が増す
インフレ×AI(人工知能)時代の今、投資の重要性は、これまで以上に高まっています。
デフレ時代は、株を買うというのは「リスクを取って資産を増やしにいく行為」であり、どちらかといえば「攻め」でした。
ところが、インフレのもとでは事情が変わり、株を買うことは「自分の資産をインフレから守る」という意味が強くなっていると言えるでしょう。
さらに、AI革命が本格化する時代には、「株に投資をしていないこと」そのものが大きなリスクになりうる、という視点も持っておく必要があります。
2026年2月、米調査会社Citrini Research が公表した“The 2028 Global Intelligence Crisis” というレポートが大きな話題を呼びました。
このレポートは、AIの急速な普及によって企業が業務効率化を進め、人の採用を減らしたりリストラをしていく未来を描いたものです。
そこで問題にされていたのは、「AIの導入が企業収益にはプラスでも、家計や消費には深刻なマイナスをもたらしかねない」という点でした。
人の採用を減らせば、企業の人件費は下がり、その分だけ利益率は高まりやすくなります。これは、株価には追い風です。
しかしその利益は、以前と同じように広く賃金として配分されるとは限りません。職を失った人や賃金の伸びが抑えられた人は、当然ながら、消費を控えざるを得なくなります。
一方、AIはいくら働いても、食事をするわけでも家を借りるわけでも車を買うわけでもありません。
つまり「生産の担い手は増えても、消費の担い手は増えないどころか、むしろ弱くなる可能性がある」ということです。
このレポートは、そうした状態を「見せかけのGDP(Ghost GDP)」と表現し、数字の上では成長していても実体経済に豊かさが広がらない事態を警告していました。
このレポートが市場で注目を集めた局面では、AIによる代替リスクが意識されやすいソフトウエアやサービス関連株が売られることになりました。
この議論が示唆していることの1つは、「AI革命が進む時代には、単に働いて所得を得るだけでは不十分になるかもしれない」ということです。
AIの恩恵が企業利益や株価の上昇という形で先に表れるのであれば、その果実を受け取れるのは「株を持っている人」です。逆にいえば、「株を持たない労働者」は、AIによる効率化の恩恵を受けにくいばかりか「AIに置き換えられる側」に回ってしまうおそれもあるでしょう。
つまり、インフレに備えるだけでなくAI革命の時代の変化に備えるためにも、一定の資産を株式という形で持つ意味がこれまで以上に大きくなっているのです。
雇用リスクの備えとして「株主」になる
もちろん、こうした未来がそのまま現実になると決まったわけではありません。
歴史を振り返れば、新しい技術は古い仕事を奪う一方で、新しい需要や新しい産業も生み出してきました。AIについても同じことが起きる可能性は十分にありますし、実際、Citrini Research のシナリオに対しては「悲観的すぎる」「歴史的な技術革新の適応力を過小評価している」といった反論も出ています。
それでも私は、このレポートが突きつけた問題提起には重い意味があると思っています。
もしAIによって雇用環境が大きく変わる局面が来るなら、個人がその変化に対抗する手段の1つは、企業の成長や利益拡大の果実を受け取れる「株主」という立場に回っておくことです。
ここ数年のAIの進化スピードを見ると、これからは「インフレに備えるため」だけでなく、「AI時代の雇用リスクに備えるため」にも、資産の一定割合を株式で持つことの重要性が高まっていくのかもしれません。

「日経平均10万円」はすでに既定路線、今大切なのは「どう備えるか」。インフレ定着、AI革命の進展、「重い」経済への転換、スタートアップを取り巻く状況、高まる地政学リスク、国の成長戦略――投資環境の“現在地”を整理し、日本株長期上昇シナリオを解説。
藤野英人著/日本経済新聞出版/990円(税込み)
