「自分は意志が弱いから何事も長続きしない」「努力するには特別な才能が必要、だから自分にはできない」…そんな“言い訳”を口にしながら「努力」を諦めてしまっていませんか? 実は、行動経済学の力で努力を続けることは可能です。詳しくは新刊『努力は仕組み化できる 自分も・他人も「やるべきこと」が無理なく続く努力の行動経済学』(山根承子著/日経BP)をお読みいただきたいのですが、ここでは同書の編集者2人が挑んだ「努力の仕組み化実験」をリポートします。自ら設定した課題を1カ月間続けることはできたのか? やってみて実感した継続のコツや課題とは? 新刊著者・山根承子さんの講評&アドバイスとともにお届けします。まずは「楽器の練習を毎日続けたい!」編です。
「好きだけど、上達のための反復練習はつらい」という本音
反復すればするほど、回数を重ねれば重ねるほど上達するスキルがあります。例えば「文章を書くこと」や「仕事の段取り」もその1つでしょう。あるいは、家庭生活の中でも「料理」や「掃除」をはじめ、繰り返すほどにうまくできるようになることはたくさんあります。
今回、新刊『努力は仕組み化できる』の編集を担当し、「本当に努力は仕組み化できるのか」を検証するに当たって努力の対象を考えたとき、まず基準としたのが、「反復によって上達することにしよう」ということでした。
好きなことであっても、上達のために反復練習するのはつらい。きっと多くの方が、同意してくださるのではないでしょうか。
登山は好きだけど、そのための体力づくりはつらい。
海外旅行は好きだけど、そのための語学習得はつらい。
「好きだけど、反復練習はつらい」と聞いて、思い当たることがある方も多いはずです。私自身、上達のための反復練習ができずに挫折した経験が、幾つも思い浮かびます。
見て見ぬふりをしてきた「努力のチャンス」
今回、私が選んだ努力は、「クラリネット」という楽器の練習です。童謡「クラリネットこわしちゃった」で有名なこの楽器は、細かく指を動かす滑らかな演奏を求められることが多くあります。
ピアノや電子オルガンを習ったことのある方ならピンとくるかもしれませんが、この手の楽器を上手に演奏するために不可欠なのが、「指練習」です。うまく演奏できない箇所を、できるようになるまで繰り返す。単純ですが、大変な努力が求められます。
今回の書籍の発売(2024年8月)を待つまでもなく、努力(練習)すべきタイミングはこれまでもずっとありました。
楽譜は、半年以上前から手元にあります。何度も合奏に参加していて、その合奏の中で思うような演奏ができなかったことから、自分に「指練習が必要である」ことは分かっています。さらにいえば、演奏会は今年の9月で、日一日と迫ってきています。
でも、指練習は正直、面倒臭い。だって忙しいし、別に今日やらなくても…。明日からだっていいのでは? こうして「努力のチャンス」を逃し続けてきたわけです。我ながら、いかにも「意志の弱さ」を感じずにはいられません。
複数の「仕組み」で自分を努力に向かわせる
そこで今回は、そんな意志の弱さに対抗すべく、『努力は仕組み化できる』から、次の仕組み化を取り入れることにしました。
①コミットメント
著者の山根さん、そして同僚に、「私はこの本の発売に合わせて、自分が努力してみたことについての記事を載せる」と何度も宣言しました。結果的に、「努力を始めよう!」と思っていた時期からは1カ月ほど遅れてのスタートにはなりましたが、本記事を書くまでに1カ月以上の「努力期間」を設けることができました。
②仲間づくりと証拠
①で、努力することを宣言していたにもかかわらず「始める」ことができなかったので、一緒に努力してくれる仲間を募りました(「日記を毎日欠かさずつけたい!」編参照)。そして、「一緒にやっている感じ」を強めるために、「1カ月チャレンジ」と名前を付けたチャットグループを作成し、努力の「証拠写真」をアップしていくことにしました。
努力は仕組み化できたのか?
結果は次のようになりました。
40日の期間中、
・努力できたのが23日
・楽譜を見るなど、設定した努力に準じることができたのが4日
・努力できなかったのが13日
努力率(努力できた日の割合)は57.5%でした。この実験を始める前の努力率が12.5%(40日中5日)であったことを踏まえると改善したものの、「1カ月間、毎日練習する」という目標は果たせなかったことになります。
なお、できなかった13日の理由の内訳は、
・人との約束(飲み会や会食、外出など) 8日
・忘れた 2日
・その他(残業、疲れなど) 3日
でした。
この実験について著者の山根さんは、次のように述べています。
努力率100%を目標にしていた宮本さんは不完全燃焼のようですが、コミットメントと仲間づくりで、12.5%だった努力率が57.5%になったというのは、ものすごい増加です。
宮本さんのように「努力できなかったとき」の状況を記録しておくと、自分にとっての「努力を妨げるもの」が浮き彫りになり、解決しやすいんだなと思いました。簡単にできますし、効果的だと思います。
『努力は仕組み化できる』のp.211-214では、人と一緒にいるときや疲れているときに努力をやめてしまいがちであるという研究を紹介しましたが、そこで示されていた通りの結果になっていたようですね。
書籍でも紹介したように、そのような状況で努力を続けるには、かなり強い意志を必要とします。意志力によっぽどの自信がなければ、他人の影響を受けそうな状況や、疲れているときに「努力」しようとするのは避けたほうがいいでしょう。
この研究では、既に努力の習慣ができている人は「疲れ」や「周囲の人」を努力の妨げとは感じていないことも明らかにされています。努力が習慣になるまでは、意志をぐらつかせる危険な状況からは離れておくほうがよいでしょう。
また、「なかなか始めることができなかった」のも興味深いです。p.207-208「夏休み最終日に宿題で泣く人の心理」でも紹介したように、「楽観的な人ほど面白くなさそうな課題を先延ばしにする」ことが実験で明らかになっていますので、宮本さんもこのタイプなのでしょうか?
山根さんのご指摘の通り、「やろう!」と決め、コミットメントしたものの、それだけでは動き出すことができませんでした。自分で認識している以上に、意志の力が弱く、また楽観視しがちである、ということを自覚したほうがよさそうです。
また、意志の力が弱く楽観視しがちな場合には、「努力の仕組み」を幾つか組み合わせることが有効である、ともいえそうです。ぜひ皆さんも、この“発見”を役立てていただけたらと思います。
「努力できない」のは、やっぱり意志が弱いから?
本書には、「努力しなきゃいけない場面で意志の強さについて考えるのは、努力できない人だけ」と書かれています。言い換えれば、努力できる人は「意志の強さ」について考えることもなく、自然と努力を続けているということです。
この研究によって、実際に健康的な行動を取れていない人は、自分の意志力に問題を感じていることがわかります。
そして、努力を続けられない人ほど「努力には意志の力が必要だ」と考えているともいえます。(略)
一方、努力を継続できている人は、意志の強弱が行動のハードルとなっているとは感じておらず、「努力を努力と思わずにできること」の重要性も示唆されています。(『努力は仕組み化できる』p.40)
最初は努力と思って努力するしかありませんが、それでも続けていれば、習慣になります。それが、「努力を努力と思わずにできる」ということです。
寝る前に歯を磨かないと気持ちが悪いように、いつの日か、練習をしないと気持ちが悪くて眠れない日が来ることを祈って、これからも努力をし続けたいと思います。
「○○は好きだけど、そのための努力はなかなかできない。それをやるだけの意志の強さがない」と思ったことのある方、そして今、この記事を読みながらも「○○について努力しなきゃいけないのは分かっているのだけれど、なかなか手をつけられない。始められない」と考えている方は、本記事、そして本書における努力の仕組み化の方法が、きっと役に立つことでしょう。
山根承子著/日経BP/1870円(税込み)


