金の価格が値上がりしていますが、その背景には何があるのでしょうか。これから買っても大丈夫なのでしょうか。NISAで金を買う方法なども含めて、新刊『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』(菱田雅生・大口克人著、日経BP)から抜粋して紹介します。第4回は「金資産の持ち方と注意点」について、熟練金融記者の大口克人が解説します。

背景にインフレ、円安、2つの戦争

 最近、金(ゴールド)価格が急上昇しています。2024年7月17日時点の田中貴金属工業の店頭小売価格は1万3879円。私(大口)の若い頃には4000円台で、23年7月には9600~9800円台だったのが、わずか1年で約45%も上がったのには驚きます。金が上がりすぎて「貧者の金」と呼ばれる銀の価格までが上昇している現状です。では、肝心の金は今からまだ買っていけるのでしょうか?

 この急激な金価格上昇には大きな理由が3つあります。インフレ、円安、戦争の3つです。インフレは長期的・継続的に物の値段が上がっていく現象ですので、実物資産である金や不動産が買われて上がります。現金の価値がどんどん下がっていくのだから、誰もが「将来高くなる」と分かっている実物資産に一刻も早く替えておきたいと思うからです。

 2つ目の円安ですが、金の国際価格は1トロイオンス(約31.1g)当たり何ドル、という形で示され、ニューヨーク市場での先物価格が世界的な指標になっています。このNY金先物価格は24年4月に節目の2400ドルを突破して史上最高値を更新しました。そこからさらに上がり、7月16日時点では2467.8ドルです。国内金価格は円建てですので、NY金先物が上がっている時に円安が進めば、掛け算でさらに高くなるわけです。

 最後の戦争というのには2つの意味があり、1つはロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの軍事衝突など、リアルな国際紛争が起こっているということ。金は「有事の金」といって安全資産の代表ですので、地政学的リスクが高まれば買われて価格が上がります。

 もう1つが「経済戦争」です。ロシアのウクライナ侵攻に対し欧米諸国は、制裁策としてロシア中央銀行が海外に持っていた米国債などの資産を凍結しました。これを見たトルコやインドなど新興国の中央銀行は、「ドル資産を持っていると経済制裁を受けた時の影響が大きい」と判断し、金を大量購入したのです。ロシアと近く、米国から先端半導体の輸出を止められる、関税を上げられるなど様々な経済制裁を受けている中国も同様です。この動きに危機感を持って米国債を大量に売却し、一方で金を買い増して、23年の純購入量(購入から売却を差し引いた量)では国別のトップになりました。

 そもそも、資産の一部で金を持つ意味とは何でしょうか。大きいのが前述のインフレ対策です。金価格は長期のチャートで見てもほぼ右肩上がりで推移していますので、今からでも金を買っていくことに意味はあると思います。

(『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』97ページより)
(『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』97ページより)
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金は強いが「現物のリスク」も

 これを裏付けているのが金の希少性で、昔から「人類がこれまで6000年かけて掘り出した金は全部でもオリンピックプール4杯分(約21万トン)しかない」などと言われてきました。埋蔵されている残りはプール1杯分程度でしかなく、地下3000mくらいまでの浅い部分はほぼ採掘済みなので、今後は深海底や海水、都市鉱山などから金を集めるしかない、とも聞きます。にもかかわらず金は資産保全、装飾品、通貨、工業用と幅広く使われるので、価値がなくなる理由がないというわけです。

 また資産保全という意味では、金価格は株価の影響を受けにくいのも長所です。「相関係数」というものがあり、2つの価格の動きを比べた時、相関係数が1に近いほど2つは似た動きを示します。しかし、日本の大型株の株価と金価格の円ベースでの相関係数はわずか0.03です。つまり金価格は日本株とはほぼ無関係に動くので、株価下落への備えにもなるのです。

 ただ、金は株や債券と違って利息を生みません。高配当株なら「20年持っているだけで元本が全部回収できた」ということもありますが、金は逆で、現物を手元に長く置いておくと盗難や火事、災害で失う危険性が増します。

 「大災害や戦争で水や食糧が手に入らなくなった時に備え、金を持つ」という人もいますが、100gや1kgのバー(金地金、いわゆるインゴット)は、まさかナイフで削って水と換えてもらうわけにもいかないので、その用途には向きません。そうするとコインや1gのカード型の金が選択肢になりますが、それらは加工費や手数料がある分、バーよりかなり割高になっています。

ETFや投信、純金積立に注目

 したがって、資産保全や値上がり益に期待して金を持つのなら現物ではなく、金価格に連動するETFや投信でも十分ではないか、というのが私の考えです。下の表のETFや投信はネット証券で手軽に売買でき、一部の商品は新NISAの成長投資枠でも買えます。非課税で金投資ができるならその分は確実に有利ですし、仮に課税口座で金ETF・投信を売買したとしても、他の株や投信と同じく分離課税で、税率は20.315%で済みます。

(『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』99ページより)
(『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』99ページより)
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 一方、金現物の売却益は譲渡所得で、他の所得と合わせて総合課税になり、累進課税で税率は5~45%です(所得の多い人にとっては不利)。特に保有期間が5年以内の売却は「短期譲渡所得」となり、5年超保有して売った時の「長期譲渡所得」に比べ税金が高くなります(長期だと税金は売却益から特別控除50万円を引いた額の2分の1になる)。金ETFなどにはそうした保有期間の制限はありません。

 金価格は長期ではまだ上がる、とする専門家は多いのですが、私自身は正直今から強気で大量買い付けをする気にはなりません。戦争も永遠に続くはずはなく、急速に上がったものはどこかで調整が入るのが普通だからです。

 利息を生まない金は、もともと「刺し身のツマ」とも言われ、多くても資産の1割程度にとどめるべきだとされています。ですのでここから買っていくとしても時間分散をかけ、価格が下がった時に金ETFをスポットで何度か買っていくのがいいように思います。

 その意味では、月3000円などの少額から始められ、毎日少しずつ買い付けて一定額になったら金地金で引き出せる「純金積立」も、時間分散が効いていて良さそうです。事実、知人にも純金積立を長期で続け、今では一財産になったという人が何人かいます。

 まとめると、金は希少性が高いものの利息は生まず、現物保有には危険もあります。金ETFや純金積立で時間分散も考えてみましょう。

(写真:RD02_AG/stock.adobe.com)
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物価も投資熱も高まっていますが、その分「もやもや」が出てきていませんか? 大切なお金だからこそ、迷ってしまう。どちらを選択すればいいのか分からない。そんな尽きないお金の悩みを「A or B」の形式でプロ2人に聞くと、あなたに合う「選択」が分かります。ぜひこの本でお金の悩みに向き合ってみましょう。

菱田雅生・大口克人著、日経BP、1870円(税込み)