年金制度の崩壊や保険料負担の問題がしばしば話題になります。年金制度の将来に不安を感じる人も多いのではないでしょうか? シリーズ5回目の今回は、公的年金制度の今後の見通しについて、『 日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択 』(菱田雅生・大口克人著、日経BP)の著者、日経マネーの大口克人編集委員が解説します。

 経済評論家の豊島逸夫さんがある日、こんな話をされていました。「講演会が終わった後に会場で若い人が質問に来ると、必ず『日本の年金は破綻しますよね。私たちはどうしたらいいですか』と聞いてくるんだ」と。年金破綻が話の前提になっているというのです。

 なぜそう思い込むのかは謎ですが、これは明らかな間違いです。もしかしたらその誤解が原因で国民年金の保険料を納めない人がいるのかもしれません(事実、若い人が保険料未納で『預金を差し押さえられた』と騒いでいる記事を時々見ます)。これは看過できない事態です。

 そもそも国の制度である以上、世界が破滅して日本が無政府状態にでもならない限り年金制度は破綻しないのですが、恐らく、この誤解の背景には少子高齢化があるでしょう。

「高齢者が増加、現役世代は減少=破綻」は勘違い

 日本の公的年金は自分のために積み立てる「積立方式」ではなく、現役世代が高齢世代の年金給付の一部を支える「賦課方式」です。この世代間扶養方式は、米・英・独・仏をはじめスウェーデンやカナダなど多くの主要国が採用しています。

 積立方式だと急激なインフレ時に資産価値が減って購買力が低下するのに対し、賦課方式では現役世代の賃金が保険料のベースになっているので、その時々の現役世代の生活水準に応じた年金を受け取れる長所があります。しかし、高齢者が増加する一方で現役世代の人数は減っていきますので、「将来の破綻は必至」と思ってしまうのでしょう。

 ですが、高齢者の年金支給の原資は現役世代が納めた保険料だけではありません。中心は確かに保険料収入(約7割)ですが、国庫負担金(税金、約2割)や年金積立金(約1割)もあるのです。

 第一、7割が現役世代の納める保険料だということは、日本に現役世代(労働者)がいて経済活動が続いていく限り、年金制度は破綻しないという意味ですよね。そして支え手が少なくなることの影響を抑えてくれるのが、年金積立金なのです。

「破綻しない」2つの理由

 年金積立金を運用しているのは、かの有名な「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」です。現役世代が納めた保険料のうち、年金支払いなどに充てられなかった部分を長期運用で安定的に増やすのがGPIFの役目で、その運用資産額はなんと245兆9815億円(2023年度末)。新聞でよく見る米国最大のカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)の運用資産額の約70兆円、東京証券取引所の1日の株式売買代金の約5兆円などと比べると、その巨大さがよく分かります。

(『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』より)
(『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』より)
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 GPIFの運用成績は2001年に市場運用を始めて以来、リーマン・ショックを経ても全体ではプラスで、収益率は年率4.36%、累積収益額は153兆7976億円に達しています。クジラとも称されるこの世界最大の公的年金基金が、あなたが働いている間にも年金原資を増やしてくれているのです。メディアはGPIFの運用がうまくいっている間は黙っていて、悪化した時だけ騒ぐという悪癖がありますので、そういう報道は気にしない方がいいでしょう。

 公的年金が破綻しない理由はまだあります。その1つが「年金の健康診断」とも言われる5年に1度の「財政検証」。社会や経済の変化に対応し、制度を定期的に見直す仕組みです。物価や賃金の上昇率、人口バランスの変化や平均寿命などを基に、経済成長や労働参加が進むのかどうか、「強気」から「弱気」まで複数のシナリオを設定します。各シナリオごとに長期的な年金の給付水準を試算して財政の健全性を検証し、問題が見つかればそれに対応していくわけです。

 2024年がまさにこの財政検証の年で、株高や円安でGPIFの運用が良かったこともあり、2019年時点より明るい見通しが示されました。

支払う保険料、受給する年金額はどうなる?

 また、「少子高齢化の中で今後は現役世代の保険料負担がどんどん大きくなっていくのでは?」という不安も、年金破綻説につながっているのかもしれません。

 しかし2004年度の年金制度改革により、厚生年金の保険料率は労使合計で18.3%と決まっており、もうこれ以上は上がりません。

 一方で「マクロ経済スライド」という仕組みも取り入れ、年金が増える局面では支給額をちょっと抑えるようにしています。年金額が計算通りに増えないのは残念ですが、これも制度を長持ちさせるための工夫です。

 もう1つ、厚生労働省は近年、パート従業員なども厚生年金に入れるようにするため厚生年金の適用拡大を進めています。企業の加入条件のうち従業員数は、501人以上→101人以上(2022年10月以降)→51人以上(2024年10月から)と変わっています。労働時間や賃金の条件も緩和されました。加入者の増加は年金財政の安定化にもつながります。

 最近は女性が働きやすくなったことに加え、長寿化を背景に高齢でも働く人が増えており、下のグラフのように就業者数は持ち直しています。あまり悲観的に見る必要はないでしょう。

(『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』より)
(『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』より)
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 ただ、支え手が減る中で今後「所得代替率」が下がっていくのは避けられそうにありません。これは年金額がその時の現役世代の所得の何%に当たるかを示した数字で、2024年度現在は61.2%です。財政検証では一定の経済成長が続いた場合も2037年度に57.6%に(2019年の予測では2046年度に52%)、成長率がほぼ横ばいなら2057年度に50.4%まで下がると予測されました。

 経済成長や労働参加の状況で結果は変わってきますが、もとより公的年金は長生きに備える保険であり、生活費の補助にすぎません。将来年金額が減りそうだというなら自分で備えればいいだけで、そのためのツールはたくさんあります。

(写真:mimi@TOKYO/stock.adobe.com)
(写真:mimi@TOKYO/stock.adobe.com)
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受給開始年齢の引き上げは長期的な議論か

 最後に「年金の受給開始が将来70歳からになるのでは?」という問題を見ておきましょう。私が出演しているBSテレ東の「マネーのまなび」で年金問題を解説した際、厚生労働省の橋本年金局長(当時)にご出演いただいたのですが、その中で局長は「今の年金当局として、支給開始年齢の見直しを政策的な課題として取り上げる予定はない」と明言されていました。

 仮に将来70歳などになるとしても、これは国民生活に極めて影響の大きい問題なので、何年もの慎重な議論の後にゆっくり変わっていくことになるはずです。

 例えば2000年の法律改正で厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に変わりましたが、男性の引き上げは2013~25年度にかけ、女性は2018~30年度にかけて段階的に行われているのです(今もその最中)。

 まとめると、公的年金制度は日本経済が続く限り破綻しませんが、少子化で所得代替率が下がる可能性はあります。

▼関連リンク BSテレ東 マネーのまなび
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菱田雅生・大口克人著、日経BP、1870円(税込み)