昭和世代から見ると、ナゾが多い「Z世代」。Z世代から見ると、昭和世代はえたいの知れない「昭和人間」。両者が共生するためにはどうすればいいのでしょうか。『Z世代の頭の中』(日経プレミアシリーズ)でZ世代を徹底的に深掘りした牛窪恵さん(世代・トレンド評論家)と、『昭和人間のトリセツ』(同)で昭和生まれの人間の不可解な生態をつまびらかにした石原壮一郎さん(コラムニスト)が語り合いました。2025年7月に紀伊國屋書店新宿本店で開催されたイベントの模様を収録。1回目は、飲み会嫌い、コスパ(コストパフォーマンス)・タイパ(タイムパフォーマンス)にこだわるなどといわれるZ世代の本当の姿に迫ります。
「24時間戦えますか」はコンプライアンス違反
牛窪恵さん(世代・トレンド評論家)(以下、牛窪) 『Z世代の頭の中』では、1600人以上のZ世代への大規模調査(協力:CCCマーケティング総合研究所)と55人へのデプス(1対1)インタビューを基に、「コスパ・タイパ重視」「恋愛しない」「早期退職」といったイメージが本当なのかどうかを解き明かしました。ゲストはコラムニストの石原壮一郎さんです。
石原壮一郎さん(コラムニスト)(以下、石原) よろしくお願いします。僕は32年前に『大人養成講座』(扶桑社)という本を書いて以来、気がつけば100冊近くの本を出させてもらっています。近著の『昭和人間のトリセツ』では、どうすれば昭和人間が老害といわれることなく、「いい昭和人間」になれるかについて考えました。僕自身は昭和世代の中でも「新人類」と呼ばれた世代です。
牛窪 新人類! なつかしいですね。当時、故・筑紫哲也さんが編集長を務めていた雑誌でそのように命名した、とされていたと思うのですが。

石原 ええ。当時、筑紫さんが編集長を務めていた「朝日ジャーナル」(朝日新聞社)の「新人類の旗手たち」というコーナーでは、辻元清美さんや秋元康さんが取り上げられていたと思います。今のZ世代と同じで、上の世代からは理解不能な世代だと思われていたんじゃないかと。
牛窪 確かにあのころ、そんな雰囲気でしたよね。早速ですが、昭和世代のみなさんは「24時間戦えますか」という栄養ドリンクのCMと『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)というドラマを覚えていますか。私自身はバブル世代で、「24時間、頑張った先にいいことが待っている」と信じて、遊びも仕事も全力で頑張ろうって思っていました。
石原 『101回目のプロポーズ』は僕も見ていました。武田鉄矢さんがしつこい…いや、浅野温子さんに何回も果敢にアタックしていく姿に共感を覚えました。
牛窪 「僕は死にましぇん!」は名場面ですよね。でも、今や「24時間戦えますか」はコンプライアンス違反。また、ある難関国立大学の社会学の授業で『101回目のプロポーズ』をZ世代の学生に見せることがあるそうです。すると、「女性が嫌がっているのに、どうして何回もアプローチするんですか」「ストーカーじゃないんですか」といった声が上がるそうです。
石原 今だと3回目ぐらいでストーカーだと思われるでしょうね。

牛窪 場合によっては、会社のコンプライアンス室から呼び出されるかもしれないですよね。今日は昭和の時代を振り返りつつ、「Z世代が何を考えているのか」「彼らとどう付き合えばいいのか」を考えたいと思います。
まず、Z世代と呼ばれるのは、主に今の20代です。一番若い人では4歳ぐらいからスマホやタブレットに触れ、YouTubeを見て育ちました。それまでは団塊世代、バブル世代、氷河期世代、ゆとり世代…など、日本独自の呼び名だったのに、「Z世代」から突然、アメリカ発の世代名(Generation Z)が用いられるようになりました。日本の若者が多様化し、象徴的な言葉で表現しづらくなったせいもあるでしょうが、何よりアメリカの若者と様々な傾向が似ているんです。
昭和世代と令和世代の大きな違いというと、まずは青春時代に「失われた30年」のような右肩下がりの経済状況に置かれたかどうか、ですよね。令和世代は経済や働き方など将来的な不安を感じている人が多くいます。また、東日本大震災や熊本、能登で起きた大地震、「沸騰化」ともいわれる地球温暖化など自然災害への不安も大きい。そのほか、教育の影響もあって、サステナビリティーやSDGs(持続可能な開発目標)、LGBTQ(性的少数者)にも敏感になっています。
また、物心ついたころからデジタルに囲まれてきたデジタルネイティブで、SNS(交流サイト)から情報を得るのに慣れている反面、AI(人工知能)の進化によって、自分が関心を持つ分野の情報しか入ってこなくなるフィルターバブル、エコーチェンバー現象が起き始めています。
石原さんが携帯電話を最初に持ったのは何歳ぐらいでしたか。
石原 もう社会人になってからですね。30歳を超えていたと思います。携帯電話といっても通話しかできず、写真が撮れるようになったのが画期的でした。
牛窪 NTTドコモの「iモード」でインターネットにつながるようになったのが、1999年でしたもんね。何より画期的だったのは絵文字で、「ボタン1つでハートが打てる!」と話題になりました。
石原 そのときのクセが抜けずに、昭和人間はいまだに多くの絵文字を使ってしまう。iモードの呪いですね(笑)。
「飲み会不要」の回答が最多の世代は?
牛窪 ところで、Z世代といえば「飲み会嫌い」というイメージがあるかと思います。私のような上司の世代は、よく「一度誘って断られたら、もう二度と誘えない」と落ち込んでしまいますが…。今回、『Z世代の頭の中』でインタビューをした若者の一人は、上司との飲み会を断った理由に、「納豆の賞味期限がその日までだった」という理由を挙げていました。
石原 納豆は2~3日賞味期限が切れても全然平気です(笑)。
牛窪 そうですよね。さすがに納豆が理由だとは言わず、「今日はちょっと…」とだけ言って断ったそうなので、上司は「誘っちゃまずかったかな?」とモヤモヤしたかもしれません。
石原 納豆といわれてもショックだけど、「今日はちょっと…」と断られると、次がすごく誘いづらくなりますよね。「どうして来られないの」と聞くのはアウトだし、「自分は嫌われているのかな」と被害妄想がふくらんでしまう。
牛窪 ところが、2024年に日本生命がアンケートで「職場での飲みニケーションは必要だと思うか」と聞いたところ、「不要」が最多だったのは70代の38.3%で、次いで50代、60代(ともに28.1%)でした。実は、20代は「不要」が最も少なく、22.5%だったんです。
石原 この結果はすごく意外でした。若い人のほうが不要論が根強いのかと思っていました。
牛窪 『Z世代の頭の中』でインタビューした若者たちからも、「飲み会に行くと会社の勢力関係がよく分かる」や、「自慢でなければ、上司の昔話を聞くのは楽しい」など、肯定的な意見が多く聞こえてきました。ただ、お子さんがいて「夜の飲み会は無理」と話す先輩などを見ているからか、「別に夜やらなくても、昼間のお茶会でいいじゃないか」との声も複数ありました。
石原 誘うほうの上司はお酒が飲みたいんですよ(笑)。アフタヌーンティーに行く「ヌン活」だとあんまり深い話ができないというか、分かり合えない気がするなあ。お酒を飲んで、酔っぱらって、言っちゃいけないことまで言っちゃったり、飲んだ上司が人格が変わったように本音を漏らしたり、というのも後になってみると良い思い出です。
牛窪 でも、今は下手に羽目を外せないから大変ですよね。私の会社(マーケティング会社・インフィニティ)では、20年ほど前から若者研究を続けているのですが、あるビール会社からの依頼で2006~08年にかけて、2年間で20代前半の若者(当時)100人にインタビューしたことがあったんです。のちに私が「草食系」と呼んだ、何事にも慎重な若者たちです。
そのとき、何人もの若者から「ビールって、飲んで何になるんですか」との声があがって、驚きました。石原さん、そんなふうに考えたことありますか? あまりにビックリしたのでその理由を深堀りしたところ、「だって、終電を逃したらタクシー代がかかるし」や「泥酔しちゃったら周りに迷惑をかける」「次の日の仕事に差し障る」といった答えが返ってきたんです。つまり、行動するより前に「リスク」を考えて、そこに近づかないようにする…、そこから私は「攻めより守り=草食系」と呼び始めました。
石原 昭和人間としては、ビールを飲んで酔っぱらう楽しさを知らないのは、人生の半分を損していると思うなあ…おっと、今はこんなことを言っちゃいけないんでした。でも、何かかわいそうですね。若者には大きなお世話なんでしょうけど。

第1志望の企業に内定直後に転職サイトに登録
牛窪 でも、若者は時代とともに少しずつ進化しているようなんです。例えば、Z世代は「コスパ・タイパ」重視だといわれます。コスパがいわれ始めたのは、Z世代の1つ上の「ゆとり世代」からで、彼らは「今はこっちのシャンプーのほうが値段が高いけど、詰め替え用があるから、3回使えばむしろ割安になる」など、中期的にコスパを考える傾向が見られました。
それがZ世代になると、今度は生き方や働き方を、もっと長期的な視点で考えるようになっていたんです。新型コロナウイルス禍も含めて、さらに不確実性が高い時代に青春時代を過ごした彼らは、リスクヘッジするだけでなく、最初からプランA、B、Cと複数の可能性を準備する「二刀流」志向が強かった。第1志望の企業に決まった直後に、「念のため」と転職サイトに登録する人もいましたし、副業願望も強く、「社会貢献のために副業したい」という若者も少なくありません。
石原 僕たちの時代は副業というと、「そんなところに気が散っていたら、一人前になれない」「1つのことを一生懸命やってこそ、一人前になれるんだ」という風潮でした。
牛窪 そうですよね。「社内の機密が漏れる」といわれたり、こそこそ何かしていると「あいつ、この会社から出て行く気なんじゃないか」と揶揄(やゆ)されたりしました。
石原 裏切り者扱いされましたよね。あっ、でも、自分がめちゃくちゃ副業していたことを思い出しました(笑)。
牛窪 どんな副業ですか。
石原 雑誌の編集者をしながら、いろんな単行本や文庫本のライターをしていました。会社の人は気づいていたと思うけど、何も言われませんでしたね。カッコよく言えば自分のスキルを上げるためですが、社会貢献のためにとはかけらも思っていませんでした。
牛窪 昔はそうですよね。ところで石原さん、コスパ・タイパと聞くと、どう感じますか。
石原 正直なところ、何でそういうことを言うのかな、と思います。タイパって、時間を節約しようということですよね。でも、長い人生で見ると、近道を探そうとしている人ほど遠回りばっかりしていますよね。結局、まったくタイパになっていない。すみません、昭和人間の偏見ですが。
牛窪 確かに。ただ、タイパについては、どうやらSNSや動画を含めて、デジタル社会を生きてきたからでもあるようなんです。そして、実はそのことが「会社を早く辞める」ことにもつながっている可能性があるなと。詳しくは『Z世代の頭の中』に書きましたが、倍速で動画を見るのと同じように、Z世代は人生を倍速でスピーディーに回して、リスクヘッジする傾向も見られました。
そのためか、超早期退職、つまり入社6カ月以内に辞める若者の割合が高まっているんです。今回の『Z世代の頭の中』の若者インタビューでも、「自分をアップデートできていないと不安」といった声が多かったですし、一般的な調査でも、転職を考える理由に「(今の会社では)将来の目標に近づくためのスキルが身に付かないから」といった声が上位にあがります。たとえ居心地は良くても、ゆるい会社はブラック企業(「ゆるブラック」)とのニュアンスですね。
石原 昭和人間の本音としては、将来的に目指す方向のために自分のスキルを身に付けたいなら、さっさと辞めなくてもいいのにと思います。社会人になりたての自分が見ている世界なんて、たかが知れている。半年間、1年間いないと分からないこともあると思います。
牛窪 彼らも、そこが分かっていないわけではないんですよね。ですが、行動経済学の視点では、人は「選択肢」が多過ぎる状態にあると冷静な判断ができなくなる(=ジャムの法則)。今は転職サイトや退職代行といった便利なサービスが出てきたので、余計に混乱して、判断を誤る部分もあるのかもしれません。
取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子
牛窪恵著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)
なぜ10年前の出来事を最近のことのように語ってしまうのか? LINEが無意味に長文になる理由は? ――仕事観やジェンダー観など多様な切り口から「昭和生まれの人間」の不可解な生態に肉薄し、その恥部をもつまびらかにする日本初の書籍。「【注】知っておかなくても構わない昭和・平成用語集」も収録。
石原壮一郎著/日本経済新聞出版/990円(税込み)


