与党が惨敗し、少数野党が躍進した2024年10月の衆議院総選挙。久々の政界大激震は、日本社会に何をもたらすのか? 日経プレミアシリーズ『それでも昭和なニッポン 100年の呪縛が衰退を加速する』の著者で元日本経済新聞編集委員の大橋牧人氏が、同書の内容を踏まえながら解説する。
少数与党に転落した自公政権
2024年10月27日投開票の総選挙の衝撃が日を追うごとに広がっている。何しろ、自公政権が少数与党に転落したのは、2009年の民主党への政権交代以来15年ぶりだ。石破茂内閣の閣僚や公明党の石井啓一代表も落選した。与党側も野党側もこれまでとは全く勝手が違うため、右往左往している印象だ。多数派工作もどこかぎこちない。自公与党は合わせて215議席の大惨敗となったので、これまでのように、自民党非公認で当選した議員を追加公認したり、会派に入ってもらったりするだけではとても数が足りない。
そこで、自民党は今回、7議席から28議席へ4倍増と大躍進した国民民主党を取り込んで多数を確保しようと手を伸ばした。しかし、「手取りを増やす」を1枚看板にして戦い、20代から40代などの現役世代の支持を得て勢力を伸ばした国民民主党は、安易に自公との連立に踏み切れば、2025年の参院選で手ひどいしっぺ返しを受ける可能性もある。
結局、与党は、国民民主党とテーマごとに政策協議し、国民民主党の政策を取り入れることで首相指名での配慮を取りつけるよう働きかけている。だが、あまり政策面で譲歩すれば、今度は自民党の党内から反発を受けるから、党内基盤の弱い首相は立ち往生する恐れもある。たとえ首相指名を乗り切ったとしても、少数与党のままでは、予算や条約、各種の法律を通すことが困難になる。
良かれ悪しかれ、今回の総選挙の大テーマは、「政治とカネ」だったが、「景気と生活」もそれに勝るとも劣らない主要テーマだった。
立憲民主党は、「政治とカネ」を前面に押し立てて、野田佳彦代表の演説も、ほとんどこのテーマに終始した。その結果、「国民にとって切実な暮らしの話はないのか」という批判があったものの、小選挙区で自民党の「裏金議員」を中心に破って、50議席増と躍進した。
国民民主党は、選挙戦中に行われた党首討論会などで、いちばん訴えたいことを尋ねられると、他の野党が「政治改革」や「裏金政治の一掃」などを挙げる中、「103万円の壁を見直す」などと現役世代やパートの主婦、学生の「手取りを増やす」政策を掲げた。これが、予想以上の支持を集めた。
大敗の原因は「政治とカネ」だけではなく、家計の苦しさも
国民の家計は急速に苦しくなっている。その一方で、自民党の一部政治家は「裏金」を懐に入れている。有権者の多くは、この2つの問題を決して忘れてはいなかった。2023年暮れに「裏金」問題が明らかになって以来、全国で行われた国会議員の補選で、都会、地方を問わず自民党が負け続けてきたのは、その表れだった。それが、党の看板を岸田文雄氏から石破氏に掛け替えた今回の総選挙でも、同じかそれ以上の無残な結果をもたらした。
この点について、2024年9月に刊行した拙著『 それでも昭和なニッポン 100年の呪縛が衰退を加速する 』(日経プレミアシリーズ)では、この2つの大テーマが国民感情の中で相互に化学反応を起こしている点を指摘した。
このところ、円安の進行などで、物価が目に見えて値上がりしている。それは、野菜や卵などの生鮮食品から始まった。最近では、主食のコメが手に入りにくい状態になり、供給が安定したら、値段が上がっていた。
1、2年前までは、賃金はあまり上がらなくても、デフレで物価が低めに抑えられていたから、何とかやり繰りをすることができた。しかし、いったん、堰(せき)を切ったように値上げラッシュとなると、それもままならない。仕方がないので、楽しみにしていた旅行をあきらめたり、外食も控えたりせざるを得なくなる。
そういう不満が高まる中で、新聞やテレビでは、毎日、自民党のカネにまつわる不祥事が大きく報じられてきた。多くの自民党の政治家が派閥のパーティー券を企業などに売りまくる。ノルマより多く売った分は、派閥から裏金としてキックバックしてもらい、税金も払わない。
税務申告をしなければ、所得税の脱税になるとの指摘を受けて、「初めて知った」「派閥から申告しなくていいと言われた」「会計責任者に任せていた」と言い訳をして、知らん顔。そんなことも知らずに、よく国会議員が務まるな、と多くの人が憤った。
日本社会は不安定化、大転換に向かうか
これから、政界は昭和以来ほとんどの時代に続いた「絶対多数与党と万年野党」という構図が崩れ、2025年7月の参院選へ向けて、極めて不安定な時代に入る。参院選の結果次第では、政権交代も視野に入ってくる。久々の政界大激震だ。
自公政権が少数与党のままでは政治が停滞する、と指摘する声も多い。しかし、この結果は、もう1年近く前から続く大きなうねりの一部である。ドイツやフランス、イタリアなどの欧州主要国では、少数与党や政策ごとの部分的連携が当たり前だ。
昭和以来の「自民党絶対多数」のもと、自民党と中央官庁が決めれば、国会では予算でも法案でも必ず通るので無風、というこれまでの“常識”のほうが世界では“非常識”なのだ。様々な意見を持った政党、議員が議論して一致点を見つけていくしかない時代に入った。確かに、与党にとっても、野党にとっても、手間はかかるが、より良い社会への道筋につながる必然的状況だとしたら、群雄割拠、百家争鳴は悪いことばかりではない。
経済的にも、すでに円安が進行している通り、「日本売り」が進む恐れもある。景気が悪化して経済的格差が広がれば、社会不安も増す。外交・安全保障でも、周辺国からの圧力は強まるだろう。2025年は、昭和100年、戦後80年にして、ニッポン大転換の年になる可能性がある。
30年以上にわたる日本の停滞の原因は、今も残る昭和型の社会構造にある――。元日本経済新聞編集委員が、大企業不祥事からエンタメ業界の闇まで時事ニュースを取り上げながら100年にわたる昭和の呪縛について警鐘を鳴らし、転換の糸口を考える。
大橋牧人著/日本経済新聞出版/1045円(税込み)

