優秀な人を集めれば、一人で働くより大きな成果が出る。私たちはそう考えがちだ。ところが、集団についての初期研究が明らかにしたのは、むしろ逆の現象だった。人数が増えるほど、一人ひとりは力を出さなくなる。しかも本人は、そのことに気づいていない。チームの「相乗効果」を考える前に知っておきたい、集団の意外な弱点とは何か。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)スクール・オブ・マネジメント准教授でグループダイナミクス(集団力学)を研究するコリン・M・フィッシャーの最新刊『 最強チームの設計図 成果の6割は「集まる前」に決まっている 』(野中香方子訳、日経BP)から、抜粋記事(一部改変)をお届けする。

シナジーを探しても、見つかるのはプロセス損失

 シナジーの研究は、おそらく史上初となる心理学の実験から始まった。皮肉なことに、この実験を行ったのは、心理学者ではない。しかも、その実験は、集団の力が個々の力の総和より著しく弱いことを示した。

 1882年という遠い昔、マクシミリアン・リンゲルマンというフランスの農業技術者が、荷車を引かせるのに、何頭のウシが最も効率的かを明らかにしようとしていた。

 仮に、あなたが19世紀フランスの農夫だとしよう。農場で荷物を運ばせたり、畑を耕させたりするために、何頭ものウシを飼っている。加えて、ありがたいことに、さまざまな大きさの荷車を持っている。では、これらのウシをどのように荷車に割り当てればよいだろうか。

 ここで忘れてならないのは、ウシたちは荷物だけでなく荷車そのものの重さと御者も運ばなければならないことだ。したがって、荷車の数が少なければ、ウシが牽引しなければならない重量は減り、効率が良くなる。

 しかし、19世紀の農夫なら誰でも知っていただろうが、ウシはうまく連携できない。それぞれ歩調が異なり、ときには道端の草に気を取られる。そして、ときには互いに頭突きを食らわす。

 リンゲルマンが知りたかったのは、ウシの数を増やし、牽引力を高めれば、連携の問題がもたらすマイナスが帳消しになるかどうかということだった。そこで彼は、くびきでつないだウシが増えると、牽引力がどのくらい失われるかを実験で調べようとした。

 しかし、ウシたちは、リンゲルマンの実験に参加することより、リンゲルマンが握るロープをかじることに夢中だった。そのため、彼は代わりに人間で実験することにした。

 リンゲルマンは、人間も、頭突きはしないとしても、ウシと同じ連携の問題を抱えていると考えた。しかし、その影響が予想以上に大きいことに彼は驚いた。実験に参加した人(全員が男性だった)は、1人で引くときには、平均で85㎏の力を出すことができた。けれども7人が一緒に引くと、1人あたりわずか65㎏しか出せなかった。それは出せる力を全員分足し合わせた場合の76%にすぎない。実に24%も低下したのだ。

 グループダイナミクスの研究の多くと同様に、リンゲルマンの発見は長年にわたって無視されていた。しかし、「集団が大きくなればなるほど、個人の貢献は小さくなる」という彼の発見は、「リンゲルマン効果」と呼ばれ、科学に永続的な貢献を果たした。

人は「集団の一員」だと思うだけで力を抜く

 しかし問題は、なぜそうなるのかだ。ウシにも見られる連携の欠如だろうか。それとも、人は集団で作業すると、あまり努力しなくなるのだろうか。

 1970年代に社会心理学者ビブ・ラタネと同僚は、集団プロセスの二大要素である連携と努力を切り分けるため、巧妙な実験を実施した。

 集団で作業すると成果が落ちるのは、連携の問題だけが原因ではないことを確かめるため、彼らは連携を必要としない集団タスクとして「声援を送ること」を選んだ。参加者には「音響に関する研究」だと説明し、防音室に入れてヘッドフォンを装着させた。そして参加者には、「一人で声援を送っている」「もう一人と二人で声援を送っている」「ほかの人と合わせて集団で声援を送っている」のいずれかだと思わせた。

 お察しの通り、これは策略だった。被験者は集団の一員ではなく、常に一人だった。実験の目的は、自分が集団の一員だと思うと、努力を減らすのかどうかを調べることにあった。そして実際、被験者は力を抑えた。自分以外にも声援を送っている人がいると思うだけで、一人でやっているときよりも声の大きさが落ちたのである。

 研究者たちは、疑似集団と、実際に一緒に声援を送る集団も比較した。すると、実際に集団で声援を送る場合は、メンバー同士の連携がうまくいかないため、さらに成績が悪かった。この実験は、「みんなでやれば楽になる」という言い古された言葉に、新たな見方をもたらした。

「社会的手抜き」は本人にも見えない

 面白いことに、集団になると力をセーブすることを多くの人は自覚していなかった。ラタネらはそれを「社会的手抜き」と呼んだ。研究者が尋ねると、被験者の多くは、「集団でやるときも、自分ひとりでやるときと同じく全力であたっていた」と断言する。彼らは力をセーブしたことに気づいていないようだ。

 社会的手抜きは無意識に起こることもある。したがって、集団の中で全力を発揮していると思っても、そうではないのかもしれない。

 初期の研究は示唆的だったが、どの研究に対しても私たちは健全な懐疑心を持つべきだ。とりわけ、古い心理学研究なら、なおさらだ。重要なのは、再現性があるかどうか、すなわち、研究者が何度でも同じ効果を得られるかどうかということだ。

 メタ分析の結果、社会的手抜きは効果が大きく、再現性の高い現象であることがわかった。78件の研究を対象とするメタ分析によって、人が集団では全力を出さないことが確認された。

 集団が大きくなるほど人は力を出さなくなる。社会的手抜きは、綱引き、拍手と声援、ボート漕ぎといった体を使うタスクのほか、ブレーンストーミングによるアイデアの創出や、履歴書の評価のような頭を使うタスクにおいても起こる。文化や年齢、性別などの違いにかかわらず、さまざまな集団で起こる。

 グループダイナミクス研究の最初の100年で浮かび上がった集団像は、好ましいものではなかった。集団では連携の問題が生じ、さらに社会的手抜きも起こる。こうして多くの研究者は、集団のシナジーはうそだと考えるようになった。

(写真:turn_around_around/stock.adobe.com)
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「優秀な個人を集めれば、強いチームができる」という常識を覆し、集団が個々の力の総和を超えるための条件を、グループダイナミクス(集団力学)の最新研究から解き明かす一冊です。なぜチームは力を発揮したり、逆に失敗したりするのかを豊富な事例と科学的知見から分析。鍵となるのは、目標、タスク、メンバー構成、規範、心理的安全性、コーチングという「構造」です。職場だけでなく、あらゆる集団でより良い成果を生み出すための実践的な視点を提示します。

コリン・M・フィッシャー(著)、野中香方子(訳)/日経BP/3300円(税込み)