合宿、懇親会、ゲーム、互いを知るためのワークショップ。チームを強くするには、まず人間関係をつくる必要があると考えられてきた。だが、「信頼しているから協力できる」という因果関係は、一方向ではない。むしろ、一緒に仕事をして成果を出すからこそ、信頼が生まれることもある。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)スクール・オブ・マネジメント准教授でグループダイナミクス(集団力学)を研究するコリン・M・フィッシャーの最新刊『 最強チームの設計図 成果の6割は「集まる前」に決まっている 』(野中香方子訳、日経BP)から、抜粋記事(一部改変)をお届けする。

チームビルディングは本当に効くのか

 実に多くの人が、チームの人間関係を改善することとチームビルディングを結びつけて考える。世界中の経営幹部、コンサルタント、コーチたちが、職場のあらゆる問題の特効薬としてチームビルディングを推奨している。

 だが、そもそもチームビルディングとは何だろうか。それを的確に説明してくれるのが、よりによってテレビCMだ。2000年代後半、アメリカン航空は「日常から抜け出そう」というキャッチコピーの広告キャンペーンを展開した。

 その広告の中で、人々が抜け出したい状況の一つとして描かれたのが、チームビルディングの研修会だった。そのCMは、信頼を確かめ合うワークで仲間を受け止め損ね、床に崩れ落ちるシーンから始まる。

 続いて人間を駒に見立てたチェスのゲームが映し出され、さらには「正直」と書かれたシルクハットをかぶらされ、お互いの感情を語り合う場面もある。私だって、この種のチームビルディングからは抜け出したい。こうした研修は、「効果的なチームワークを築く前に、まず信頼関係やメンバーの一体感が必要だ」という間違った前提に立っているからだ。

 その原因をつくったのは、教育心理学者ブルース・タックマンだ。タックマンは1960年代に、集団の発達モデルを提唱した。そのモデルがこれほど有名になった理由の一つは、チームの成長段階を形成期、混乱期、規範形成期、遂行期、散会期と命名した、そのネーミングセンスの高さにある。

 公平を期して言えば、タックマンのモデルは、メンバーの利益のためだけに存在する研修会や社交クラブやその他のグループを説明する場合には、かなり役に立つ。しかし、彼のモデルを真のチームに当てはめると、さまざまな問題が生じる。

好成績だったと聞くと「仲が良かった」と思い込む

 あなたがビジネススクールの学生だとしよう。あなたとクラスメートのグループが、ある企業の過去の財務データから次年度の株価を予測するという課題を与えられる。グループでの議論はすぐ終わり、簡単な計算をいくつかして、妥当と思われる数字で意見が一致する。要するに、当てずっぽうに近い。

 だが、ここには仕掛けがある。これは実在する企業のデータなので、講師は正しい答えを知っている。そして講師から、あなたたちのチームはクラスの上位20%に入っている、と告げられる。その後、あなたたちは、グループでの作業について簡単なアンケートに答える。どのくらい結束できていたか、コミュニケーションはうまくいったか、グループ作業中の満足度はどうだったか。

 この架空の演習は、カリフォルニア大学の組織心理学者バリー・ストウが、人々が自分のグループ内の協力ぶりをどう評価するかを調べた研究に似ている。ストウの研究には、もう一つ仕掛けがあった。参加者に伝えられる成績は、実際の出来とは関係なく、無作為に決められていたのである。各グループは、予測結果が実際にはどうだったのかに関係なく、「よくやった(上位20%)」または「よくできなかった(下位20%)」と告げられた。

 その結果、グループ内の協力ぶりについての評価は、実際にどれほど結束していたか、コミュニケーションがうまくいっていたかといった実態よりも、自分たちがどれほど良い成績を上げたと思うかによって、はるかに強く左右されることが判明した。

 よくやったと告げられたグループは、そうでないグループに比べて、自分たちは結束力が強く、コミュニケーションが良好で、変化を柔軟に受け入れた、と感じていた。つまり、「グループでどれだけ成果をあげたと思うかによって、集団がどのように協力していたかについての評価が、あとから変わってしまう」ということだ。

 もちろん、グループでの経験が素晴らしかったときや、ひどかったときには、誰にでもわかる。しかし、グループでの経験の大半は、その中間に位置する。そうしたごく普通の状況では、グループがどのように協働したかは、後付けで推論される。つまり、成績を見て、それを引き起こしたと思われるグループダイナミクスを推測するのだ。

 逆に言えば、多くの人は、「結束力が強く、やる気に満ち、良好なコミュニケーションがあれば、グループは好成績をあげる」と考えている。そのせいで私たちの脳はこう推論する。

「良い結果が出たのだから、集団内の協力もうまくいったに違いない」

信頼は、協力の「原因」であり「結果」でもある

 タックマンのモデルでは、「チームがタスクを遂行する前にまず信頼を築き、規範を固める必要がある」としている。「信頼関係づくりを目的にした研修でもこなさない限り、いきなり仕事に取りかかることなどできない」というわけだ。

 だが、それはチームビルディングの神話にすぎず、現実に即していない。

 チームの一体感は、効果的な協力を生む原因であるだけでなく、協力の結果として生まれるものでもある。協力する前に良好な人間関係を築いておくことも助けになるが、良好な人間関係を築く最善の方法は、スムーズに協力し合って成果を出すことだ。

 チームメイトに対して当初は無関心でもかまわない。試合に勝つ、プロジェクトがA評価を得る、資金集めのバザーを成功させるなど、何かを達成すると、チームのメンバーは互いをもっと好きになり、理解も深まる。

 グループダイナミクスと効果的な協力の間には、双方向に因果関係が働いている。協力がうまくいくと人間関係が強固になる。協力がうまくいかないと人間関係は弱まる。当たり前のことのように思えるかもしれないが、タックマンのモデルや一般的なチームビルディングの理論とは真逆の考え方だ。

 真のチームにとって、良好なグループダイナミクスはそれ自体が目的ではない。それは健全な協力関係の積み重ねによって、結果として自然に生まれる副産物だ。

 多くの人が、まず人間関係を築いてから協力しようとする。しかし、人間関係と協力は終わりのないサイクルで、自分の尾をかんで輪になる蛇「ウロボロス」のようなものだ。協力するには信頼が必要だが、その信頼を築くには協力が必要なのだ。この好循環を始める最善の方法は、チームをしっかりと、しかも素早く立ち上げ、速やかに仕事に取りかかることだ。

 実際の業務に近い環境で、チームのメンバー全員を一緒に訓練することこそが、チームを育てるうえで効果的だ。一方、いかにも楽しげなアクティビティーを通して信頼や一体感を高めようとするチームビルディングには、残念ながらその効果を十分に裏づけるエビデンスはない。

(写真:rangizzz/stock.adobe.com)
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「優秀な個人を集めれば、強いチームができる」という常識を覆し、集団が個々の力の総和を超えるための条件を、グループダイナミクス(集団力学)の最新研究から解き明かす一冊です。なぜチームは力を発揮したり、逆に失敗したりするのかを豊富な事例と科学的知見から分析。鍵となるのは、目標、タスク、メンバー構成、規範、心理的安全性、コーチングという「構造」です。職場だけでなく、あらゆる集団でより良い成果を生み出すための実践的な視点を提示します。

コリン・M・フィッシャー(著)、野中香方子(訳)/日経BP/3300円(税込み)