成果が上がらないチームを見ると、私たちは「もっと励まそう」「上司が適切に助言しよう」と考える。だが、そもそもメンバーが不利なゲームをさせられていたらどうだろう。ゼロックスの技術者チームを対象とする研究が示したのは、リーダーの巧みなコーチングよりも、目標、タスク、メンバー構成、規範という「構造」が先だということだった。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)スクール・オブ・マネジメント准教授でグループダイナミクス(集団力学)を研究するコリン・M・フィッシャーの最新刊『 最強チームの設計図 成果の6割は「集まる前」に決まっている 』(野中香方子訳、日経BP)から、抜粋記事(一部改変)をお届けする。

なぜ、同じ会社のチームで成果に差がつくのか

 単なる四角い箱に見えるコピー機の内部には、スイス時計さながらの精密な機構が詰まっている。コピー機はとても複雑で、当時は頻繁に新機種や新仕様が投入されていたため、技術者でさえ、機械を開いて戸惑うことがあった。

 こうした問題に対処するために、優秀な技術者たちは、コピー機の修理に役立つ非公式のノウハウを共有し、会社を通してではなく、仲間の技術者から最新の方法を学んだ。

 ゼロックスはこうした学習を奨励し、技術者たちをチームに分けて、地域やクライアントを担当させた。これらのチームのメンバーがコピー機を正常に稼働させ、新たな問題と対処法を学び、顧客が抱える問題に対処するには、協力する必要があった。

 しかし、チームによって成果に差があった。コピー機を順調に稼働させて顧客を満足させているチームもあれば、悪戦苦闘しているチームもあった。一部のチームは真の意味でチームだったが、他は名ばかりのチームで、技術者がばらばらに動いていた。

 本当に優れたチームではシナジーが起きていた。彼らは個人の能力を単純に足し合わせただけでは説明できないほど高い成果をあげていた。ゼロックスは組織心理学者のルース・ウェイジマンと協力して、成果のあがらないチームを優れたチームに近づけるために、複数のチームを統括するエリアマネジャーに何ができるかを明らかにしようとした。

「構造」と「コーチング」、どちらが効くのか

 ウェイジマンは、リーダーの働きかけを「構造を整えること」と「コーチングの提供」の二つに分け、効果を調べた。前者では、チームの構造、つまり、チームの目標、タスク、メンバー構成、規範などを見直す。

 後者では、コーチングを提供する。つまり、対立を建設的に扱い、問題解決の話し合いを進め、助言を与える。コーチングはチームの仕事の進め方そのものを改善しようとする。プロセス・ロスを防ぎ、シナジーを引き出すことが狙いだ。激励するスピーチ、フィードバックのセッション、戦略策定会議、助言は、すべてコーチングの例だ。

 では、どちらの働きかけが、よりチームの助けになったのだろうか。さらに重要なのは、この二つの働きかけが、それぞれどのような条件のもとで最も効果を発揮したのか、ということだ。(中略)

良いコーチングも、構造が悪ければ生きない

 予想通り、構造への介入は魔法のような効果を発揮した。グループの構成、タスク設計、目標、規範への介入は、たちまち効果をあげ、構造が整ったチームはそうでないチームを大きく上回る成果をあげた。

 ウェイジマンのこの研究結果は、ワークデザイン(チーム構造の設計)がチームの有効性に大きく影響することを示していた。2007年、約22万人を対象とした259件の研究のメタ分析でも、チームの成果やメンバーの満足度の違いの43%は、チーム構造の設計によるものだった。

 つまり、構造を変えることは、チームのパフォーマンスを左右する強力な手段なのだ。

 一方、コーチング介入では、話はそう単純ではなかった。

 まず、一部のコーチングは役に立たないだけでなく、有害だった。中には、グループダイナミクスの基本を無視するリーダーさえいた。彼らは個々のメンバーとは面談しても、チーム全体で話し合うことはほとんどなかった。細部まで管理しようとして、主要な数値指標に目を光らせた。

 チームが問題に対処するのを支援しようとはせず、リーダー自身が顧客に電話をかけた。問題点を指摘するものの、解決する方法を見つけようとしなかった。さらに、メンバーを名指しして、問題の責任を負わせた。

 しかし、良いコーチング、優れたアドバイス、問題解決をめぐる相談、激励さえ、リーダーが期待するほどにはチームの助けにならなかった。良いコーチングを受けたゼロックスのチームは、自己管理はうまくなったが、成果そのものは向上しなかった。つまり、チームの仕事の進め方を改善しようとするコーチングは、構造への介入ほど大きな成果をもたらさなかったのである。

 構造的介入とコーチングを組み合わせて検証すると、状況はさらにはっきりする。

 ゼロックスのチームが適切な構造を持つ場合、つまり、明確な目標(SMART目標)、適切なメンバー構成、理にかなった規範、よく設計されたタスクがそろっている場合は、優れたコーチングが効果を発揮した。

 しかし、構造が適切でないチームは、優れたコーチングを受けても、効果はほとんどなかった。さらに、不適切なコーチングはすべてのチームの満足度を下げたが、構造が整ったチームは、不適切なコーチングの悪影響をあまり受けなかった。一方、構造が整っていないチームは、構造が整っているチームのおよそ3倍も悪い影響を受けた。

 うまくいっているチームはさらに良くなり、うまくいっていないチームはさらに悪くなったのである。つまり、構造こそが最も重要で、良いコーチングを生かすには適切な構造が必要なのだ。

(写真:~ Bitter ~/stock.adobe.com)
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「優秀な個人を集めれば、強いチームができる」という常識を覆し、集団が個々の力の総和を超えるための条件を、グループダイナミクス(集団力学)の最新研究から解き明かす一冊です。なぜチームは力を発揮したり、逆に失敗したりするのかを豊富な事例と科学的知見から分析。鍵となるのは、目標、タスク、メンバー構成、規範、心理的安全性、コーチングという「構造」です。職場だけでなく、あらゆる集団でより良い成果を生み出すための実践的な視点を提示します。

コリン・M・フィッシャー(著)、野中香方子(訳)/日経BP/3300円(税込み)