「優れたリーダーには共通点があり、それは一部の人の生まれ持った資質やカリスマ性ではなく、身につけられる技術である」と語るのは、『「リーダーシップのベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(日経BP)の著者として、100冊以上のリーダーシップ・マネジメントの名著を精読した藤吉豊さんと小川真理子さんです。リーダー本の名著100冊に紹介されていた、報酬をめぐるリーダーの姿勢と戦略を紹介します。
報酬は単なる「労働の対価」ではない
100冊のリーダー本では、報酬をめぐるリーダーの姿勢と戦略の重要性が繰り返し語られています。優れた人材を惹きつけ、組織の信頼を保ち、努力や成果に報いる。そのすべてに、適切な報酬が欠かせません。
また、報酬は、単なる金銭ではなく、「あなたを大切にしている」というリーダーからの意思表示でもあります。
なぜ、報酬が大切なのでしょうか。100冊のリーダー本をまとめると次のようになります。
● 努力や責任を引き受けてくれたことに感謝や敬意を示すため。
● 優秀な人材を採用したり、定着させたりするため。
● モチベーションを後押しするため(「モチベーションになるのは一時的」と指摘する本もあり)。
● 従業員や従業員の家族の生活を支えるため。
世界でもっとも影響力があるといわれるビジネスシンカーのジム・コリンズさんは、全世界で400万部を突破した『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(日経BP)で、次のように述べています。
「報酬と奨励給は重要だが、偉大な企業では、これが重要な理由が大きく違っている。報酬制度の目的は、不適切な人びとから正しい行動を引き出すことにはなく、適切な人をバスに乗せ、その後もバスに乗りつづけてもらうことにある」
報酬において最重要なのは「公平さ」
100冊のリーダー本で、報酬において重要とされていたのは、金額そのものではなく「公平さ」です。
ただし、誰に対しても同じ報酬を与えるのではなく、成果を上げた人と上げなかった人が区別されることを公平としています。
ここで大切なのは、報酬制度について、評価される社員にきちんと説明できるようにしておくことです。たとえば、
● 高い報酬を手にするには何を達成すればいいのか
● その評価がどのように判断されるのか、基準とプロセスはどうなっているのか
などを明確にしておきます。
「優秀な人材」には投資を惜しまない
「優秀な人材獲得のためには、多くの報酬を支払う」とする本も複数ありました。それによってイノベーションの速度が高まるからです。
「クリエイティブ系職種については例外なく、凡庸な人材を1ダース雇う代わりに、最高の人材に『個人における最高水準の報酬』を払うことにした。(略)この方法はすばらしい成功を収めてきた。イノベーションの速度と成果は飛躍的に高まった」(リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』/日経BP 日本経済新聞出版)
人が動きたくなる報酬を設計する
リーダー本の中には、実践的な報酬設計のヒントも多数ありました。人が自然と動きたくなる報酬設計の工夫をまとめました。
(1)「ごほうび的な報酬」をもうける
あらかじめ伝えられている報酬の他に、ごほうび的な報酬を用意します。
「細心の注意を払って報酬を利用すれば、次回の仕事の成果をもう少し向上させられるかもしれない。ただし注意が必要だ。ある一つの重要な条件を満たしていなければ、成果が裏目に出るおそれがある。(略)その条件とは、スタッフにとって外的な報酬が予期せぬものであり、業務が完了したあとにそれを伝えることである」(ダニエル・ピンク『モチベーション3.0』/講談社)
(2)生活できる額は必ず確保する
部下のやる気や安心感を支えるのは、まず「暮らしていけるだけの収入」です。
「給料の役割は、生活に余裕を持てるようにする『安心料』と思ったほうがよいだろう。だからきっちり、安心して生活できる額は最低限として支払う必要がある」(篠原信『自分の頭で考えて動く部下の育て方』/文響社)
(3)幹部層は厚遇する
組織を動かす要(かなめ)となる幹部層には、責任に見合った処遇が必要です。自信と誇りを持って働ける環境が、期待以上の力を引き出します。
「一介の使用人ではなくて、幹部として誇りが持てるように、それなりの待遇をしてあげることによって初めて、あなたの期待に応えてくれるはずです。それがないのに、『がんばれ』というのは、違うと思います」(稲盛和夫『人を生かす 稲盛和夫の経営塾』/日経BP 日本経済新聞出版)
(4)経験や品物による報奨を渡す
お金の報酬だけでなく、経験やものを報奨として渡すことで社員の満足度が高まった、という実験結果を報告する本もありました。
「経験やものを受け取った社員は、現金を受け取った社員より満足度が長く続いた。5カ月後に再び調査したところ、現金を受け取った社員の満足度は25%下落していたが、実験群の社員は受け取ったときよりさらに満足していたのだ。カネの喜びはつかの間だが、記憶は永遠に残る」(ラズロ・ボック『ワーク・ルールズ!』/東洋経済新報社)
(5)失敗にも報いる
失敗をしたからといって、責めたり、大きな不利益を与えたりしないことも大切です。組織が失敗から学ぶことも多いためです。失敗に報いることは、挑戦する文化を根づかせることにもつながります。
報酬は「金銭」だけではない
報酬は人を動かすきっかけにはなっても、持続的な意欲を生み出す決め手にはなりません。とくに創造性や協働が求められる場面では、金額以上に「尊重」や「意味づけ」、感情への訴えかけなどが欠かせません。成果主義に偏りすぎると、かえって人の力を引き出せなくなることもあります。以下に、金銭的な報酬だけに頼らないほうがいい理由を紹介します。
(1)人には感情報酬や名誉も欠かせないから
人はお金だけで動くわけではありません。感謝の言葉や栄誉を与えることで、仕事への誇りや意欲が大きく高まります。
「兵隊には栄光と、栄典と、報酬とが必要なのです。共和国の軍隊が偉大なことをして来たのは、それが無頼の徒からではなく農民の子弟やその妻たちから成っていたからでもありますが、また名誉の感情によってでもあります」(『ナポレオン言行録』/岩波書店)
(2)報酬が逆効果になる場合があるから
「もし~をしたら、○○を与える」といった条件つき報酬は、一時的にはモチベーションを上げる場合もあります。しかし、「報酬がないならば、やらない」など、報酬に依存してしまう場合もあります。
報酬は、優秀な人材を惹きつけ、努力に報い、信頼を築くための大切な手段です。重要なのは、金額の多寡ではなく、公平で納得のいく設計にすること。金銭だけでなく、称賛や意味づけも含めて、人が「もっと力を発揮したい」と思える報酬を、リーダーは戦略的に設計する必要があります。

藤吉豊、小川真理子(著)、日経BP、1870円(税込み)
