通信販売でもおなじみの宣伝文句「5秒に1個売れている」。なんだかスゴそう……でも、これってホントに信じていいもの? どこかに嘘(ワナ)は潜んでいない? 「ビジネス数学」の第一人者・深沢真太郎氏の新刊『 数字にだまされない本 』(日経ビジネス人文庫)から一部抜粋してお届けする。
広告でおなじみのあのコピー
「5秒に1個、売れています!」
あるショッピングモールで買い物をしていたとき、こんなキャッチコピーが書かれたポスターを遠目に見つけました。
そこは主に女性向けの化粧品が並んでいるショップ。
ポスターが掲示されている前にはその商品が大展開されていました。
ここで問題です。
私はこのコピーを見た瞬間、すぐにポスターに近づき、あるものを探し始めました。
さて、いったいそれは何でしょう。
あなたも化粧品やサプリの広告などでこのような数字を使ったコピーを見た(聞いた)ことがあるでしょう。
「めっちゃ売れている」「爆速で売れている」では具体的にどれくらいなのか伝わりません。
「5秒に1個売れている!」というコピーはビジネス的にはきわめて効果的な表現といえます。
ただ、正直「本当にそうかなあ?」とも思う表現ですよね。
あなたはこの数字をどのような視点で疑いますか。
ぜひ想像してみてください。私の答えは後ほどご紹介します。
数字ではなく「定義」を疑う
ひとつ大事なことをお伝えします。
よほどモラルの欠如した組織・人でなければ、ビジネスにおいて「虚偽」の数字を使うことはありません。
ウソだとしたらいずれ大問題になり、その企業(ブランド)にとってリスクでしかありません。
おそらくここでの「5秒に1個売れている!」も、ウソをついているわけではないでしょう。
では、いったい何を疑うのか。
その数字の定義や前提です。
先ほどのポスターですが、私はコピーを見た瞬間、ポスターに近づきあるものを探しました。
「5秒に1個」の定義あるいは前提です。
大事なことは小さく書かれている
実はこのポスターのいちばん下に、小さな文字でこんなことが書かれていました。
※全世界を対象としています
※1日を10時間として計算しています
私はポスターを見た瞬間、(勝手に)国内でそれだけたくさん売れているのだと思い込んでいました。
しかし、実際は全世界を対象としている。そもそもの前提が違いました。
さらに私は(勝手に)1日を24時間として計算していると思い込んでいました。
なぜ1日を10時間と定義して計算しているのか。
たとえばショップの営業時間が平均10時間だから?
しかし今はオンラインでも買える時代で、24時間購入できると考えるほうが自然です。
いずれにせよ、なぜ1日を10時間と定義するのか、本当の理由はここではわかりません。
しかし、このメッセージを発する側は決して「ウソ」をついているわけではありません。
彼らが定義した内容に基づき、正しい情報を発しています。
だから数字を疑うときは、その数字の定義や前提を疑うのが正解なのです。
だまされる2つのパターン
あなたが今後なんらかの数字にだまされるとしたら、それは次の2つのパターンが考えられます。
(1)その数字自体がウソである場合
(2)その数字の定義や前提があなたの認識と違う場合
前述したように、普通であれば(1)は考えにくいでしょう。
それでも強いて疑い方があるとするなら、その数字の出所が信頼できるものかどうかを確認することです。
たとえば個人のブログで書かれていた程度の情報なのか、公的な調査機関がレポートとして発表した情報なのか、確認すればいいのです。
よってあなたが気をつけるべきは(2)です。
嘘を見抜くキラーフレーズ
そして、「虚偽」がきわめて大きなリスクを伴うビジネスシーンにおいては、数字の定義や前提は必ずどこかで説明をされているはずです。
ポスターのいちばん下に小さく書いてあったり……。
「定義や前提がわからない数字は信じない」とルール化しておくだけで、あなたが数字にだまされる可能性は激減します。
具体的には注釈や断り書きを必ず確認すること。
それが難しい場面であれば、「その数字の定義を教えてください」を伝えてみてください。これはキラーフレーズです。
あなたのイメージしていたこととまったく違う事実を表現している数字かもしれません。
数字はコミュニケーションの道具
最後に覚えておいていただきたいことがあります。
それは、数字とはコトバだということです。
これはすなわち、あなたが数字を読むときにしている行為の本質は、その数字を発した相手とのコミュニケーションであるということです。
一般的に、前提や言葉の定義が一致していない相手とは意思疎通が難しいものです。
ディスカッションをしたい人と、説明をじっくり聞きたい人がいたとします。当然、2人の対話は噛み合いません。
コミュニケーションにおける前提が一致していないからです。
あるいは、「メンタルが強い」イコール「打たれ強い」と定義している人と、「なんでも継続できる」と定義している人では議論が噛み合わないでしょう。
言葉の定義を一致させることからスタートする必要があります。
これらと同じように、数字の定義や前提がわからない(あるいは一致していない)場面でのコミュニケーションには必ずエラーが生じます。
数字を目にしたとき、「だまされないようにしよう」「疑ってやろう」と思うのではなく、「コミュニケーションを始めよう」と思ってみてください。
数字を読むということは相手と数字を介してコミュニケーションをすることだと定義するのです。
すると自然にコトバの定義や前提に敏感になり、結果としてだまされる機会が激減していきます。
【ポイント】数字を見るときは「コミュニケーションを始める」と考える
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