英語力を測る物差しは「何点取れるか」から「何ができるか」に大きく変わる――。そんな時代を先取りし、“今、英語を学ぶ意味”と“AIを使ってAIを超える英語学習法”を解説した『 自分が言いたいことを、英語でもちょっといい感じに伝えられる人がやっていること AIに自分に合った英語の学び方を作らせる技術 』(斎藤広達、石塚浩之著/日経BP)から内容の一部を抜粋してお届けする。第3回は、2人の著者の対談。なぜ英語を学ぶのか。2人が行き着いた結論とは――。
英語が苦手だった通訳研究者
斎藤広達(以下、斎藤):この本を書きながら改めて感じたのは、英語って結局は自信なんだよね。知識があっても、自信がないと声が出ない。
石塚浩之(以下、石塚):実は僕、高校生の頃は英語がものすごく苦手でね。卒業が危ないくらいだったんだよ(苦笑)。
斎藤:それは意外だったなあ。俺たちが出会ったのは、大学のペンクラブだから、高校時代のことは知らなかった。石塚がイギリスに行ってから、環境が変わって急に開花したのかと思ってた。
石塚:いや、渡英前に日本でかなりやり込んでたんだよ。30歳から本格的に英語を始めて、シャドーイングを徹底的にやった。1つの素材を1000回以上繰り返したこともある。
斎藤:それ、すごくわかる。量も大事だけど、徹底してやり込むのって大事だよね。
石塚:そうなんだよ。うまくいかなくなったときは、昔やり込んだ素材に戻ると、「ちゃんと成長できている自分」を確認できる。それがコンフィデンスにもレジリエンスにもなる。
斎藤:わかる。英語って続けるにも自信が要るもんね。
企業通訳の現場で見たもの
斎藤:大学卒業後は定期的に連絡を取り合う関係になったけど、石塚が研究者になったと聞いて、驚いたのを覚えているんだよね。そのきっかけを聞きたいんだけど、その前にメーカーで通訳をやってた頃は、どんな感じだったの?
石塚:企業通訳として現場にいたし、仕事もこなしてた。国際事業の通訳で、生産現場、現地調査から経営トップ同士の会談まで、いろいろと経験させてもらった。英語ができるということで雇われたわけだけど、内容が理解できないと通訳はできない。ビジネスのことはまったく素人だったから、こっそり必死で勉強した。
斎藤:そこから研究の道に入った理由は?
石塚:通訳実務だけでずっと突き詰めていくというより、研究の世界に可能性を感じたんだよね。通訳実務よりは研究のほうが、より大きな貢献ができると思った。
斎藤:それはなぜ?
石塚:イギリスの大学院で学んだことでアカデミアの世界が見えていたし、日本の通訳研究の発展期で、面白い研究ができそうな気配もあった。一流の通訳者になるより、研究のほうが大きな貢献ができると思ったんだよね。しかも実践者であるより、実践の根底にある理論の構築のほうが自分には向いてると思った。博士課程で研究している間は、ビジネス通訳の仕事をしつつ、研究を進めて、次のステップの準備をしていたよ。
斎藤:実務や現場を知ってるからこそ研究できたり、書ける内容があるよね。今回のトレーニング編を読んでいて、それをすごく感じた。
「自立した学習者」が伸びる
石塚:ありがとう。大学教授として日々教える中で気づくこともたくさんあるよ。例えば、授業で出た課題をやるだけじゃなくて、その学習法を自分の勉強に取り入れる学生はすごく伸びるんだよね。授業だけだと練習量が足りないから、自分で教材を用意して活用していく人って強い。
斎藤:朝起きたらシャドーイングやって、クイックレスポンスやって、みたいな感じだよね。
石塚:そうそう。受け身でも取り入れやすいものからやるのがいい。英検で言うと、2級は高校で言われたことを真面目にやれる力なんだよ。でも準1級は、自分で学習スタイルを確立して、自立した学習者として行動できる力が必要になる。
斎藤:受け身でやるか、自分で回せるかの違いか。
石塚:そう。英語の情報を日常的に入れていくのも大事。スマホのプッシュ通知に英語の情報が入ってくるかどうかが1つの目安になる。日本語の情報だけしか入ってこないということは、日本語環境の中に閉じてるってことだから。XでもニュースでもYouTubeでも趣味のサイトでも、英語の情報は入ってくる。ふだんから日本語と英語の壁をなくして情報収集していけば、勝手に英語の世界が入ってくるんだよ。広達も日々の中で意識的に英語に触れているとわかって、うれしかった。
リプロダクションは概念化である
石塚:広達自身、この本を書きながら再確認できたことってある?
斎藤:そうだな。会議で自分がディスカッションをリードしたいときって、クイックレスポンスが結構使えるんだよね。相手の話を受けてつないで、自分の論点に持っていけるから。あとはシカゴ大学で学んだアクティブリスニングも思い出すなあ。相手の話を要約して返すやつ。
石塚:それはサマライジングとかパラフレージングにもつながるよね。結局、相手の言ってることを自分の概念にして、発話し直すわけだから。
斎藤:つまり、リプロダクションって概念化だよね。
石塚:そうそう。単なるオウム返しじゃなくて、相手と同じ概念を自分の頭の中に作ることなんだよ。
AIと人間のハイブリッド時代
斎藤:結局、AIで同時通訳が完璧になっても同じだよね。Google翻訳だけで生きていけるかって話、面白かったよね。
石塚:翻訳機能は便利だよ。ホテルのフロントとか買い物とかには使える。海外旅行はスマホだけで何とかなるかもしれない。でも、揉め事とか説得とか、深いコミュニケーションは苦労する。もっと難しいのは、パブで友達と飲むとき。デバイス越しのやりとりでは10分も持たない。完璧な翻訳があっても、人間が担う領域は残るはず。今の通訳・翻訳はもうハイブリッドなんだよ。AIがあるから人間や英語力は要らない、みたいな話ではない。
斎藤:AIは情報を伝えられても、人格は持てないもんね。声は人格の一部みたいなものだから。
卒業生たちの多彩な進路
斎藤:石塚の大学の学生も、ハイブリッドに対応しながら、働いているんだね。卒業してから通訳になる人が多いの? どんな仕事に就いてる人がいる?
石塚:結構いろいろいるよ。例えば、企業の海外営業に行ったり、英語を使う部門に配属されたりね。卒業して数年後にそうなってる人もいる。
斎藤:へえ、そうなんだ。
石塚:それから、国連機関に勤めてる人もいるし、自衛隊の幹部候補になってる人もいる。あとは、プロ野球チームの広島東洋カープの通訳者なんかもいるんだよ。今、カープの日本人通訳は2人いて、そのうち1人はぼくの教え子。
斎藤:え、すごいね。
石塚:あとは、教員もいれば、公務員もいる。言語はあらゆる場面で使えるから、どこか特定の業種だけって話じゃないんだよ。
斎藤:企業だけじゃなく、公務員とか国際機関とか、いろんなところに広がるわけか。
石塚:そうそう。日本だけで閉じてる業種のほうが少ないからね。どんな分野でも外とつながってる。
世界は言語でできている
石塚:この本を読まれた方には、やっぱり言葉って単なる道具じゃないってことを、最後に伝えたいんだよね。思考と言語の関係については、この本の中でも少し触れたけど、社会の実体は個人の思考と言語のネットワークだ。言語がなければ社会もない。「結婚」も「所有」も、言語がないと成立しない。世界は言語でできているんだよ。
斎藤:それ、すごくいい言葉だね。
斎藤広達、石塚浩之(著)/日経BP/1760円(税込み)

