春夏秋冬、季節ごとにお届けしております「手前みそ」企画。2026年秋も、ぜひお読みいただきたい「日経の本」をたくさん用意しました。お薦め本を全力で推すのは、「日経の本」の作り手が30人以上も所属する日経BOOKSユニットの平井修一、宮崎志乃の両編集部長。聞き手は日経BOOKプラスの長野洋子編集長が務めます。

「手前みそ2026秋」も多彩なラインアップでお届けします! 撮影場所が編集部脇のソファーから社内の新スタジオになりました
「手前みそ2026秋」も多彩なラインアップでお届けします! 撮影場所が編集部脇のソファーから社内の新スタジオになりました
画像のクリックで拡大表示

長野洋子(以下、長野):今年は夏から雨が多くすっきりしない天気が続いたせいか、秋晴れの日には本を片手にお出かけしたくなりますね。本棚の積ん読リストの中から、どの本をお供に連れていくか、毎週末悩んでおります。さてそんな読書の秋、今回もお薦めの「日経の本」を、平井修一編集部長と宮崎志乃編集部長に伺います。どうぞよろしくお願いします。今日もたくさんお持ちいただきました。あ、この本は毎年出るシリーズですね!

日本経済を学ぶなら、まずこの一冊から

平井修一(以下、平井):そうです。この『 Q&A日本経済のニュースがわかる! 2027年版 』は毎年この時期に、最新のニュースを織り込んで、一冊の本にまとめているものです。いわゆる「日本経済の入門書」ですね。日本の景気は今どんな状況か。円安は今後も続くのか。不動産価格はどうなるのか。ニュースでは毎日のように報じられていますが、体系的に理解するのは意外に難しいものです。本書はそうした疑問にQ&A形式で答えていきます。

『Q&A日本経済のニュースがわかる! 2027年版』(日本経済新聞社編)。「経済の現場を知る記者が、皆さんの疑問にお答えします」(平井)
『Q&A日本経済のニュースがわかる! 2027年版』(日本経済新聞社編)。「経済の現場を知る記者が、皆さんの疑問にお答えします」(平井)

 就活を控えた大学生、昇進試験を控えた社会人、家族や友人・取引先との経済ニュースの話題にきちんとついていきたい人などに読んでほしいと思っています。高校生でも理解できるように分かりやすく解説しています。

 この本の特徴は、現場で取材している日本経済新聞の記者たちが執筆していることです。教科書的な解説だけでなく、経済の現場を見ている記者ならではの視点が盛り込まれていることも長年支持されてきた理由の一つだと思います。

長野:日経BOOKプラスで本書の抜粋連載【Q&A日本経済のニュースがわかる! 2027年版】をお読みいただけます。

平井:また、この本は若手編集者が担当することが多いのですが、編集作業を通じて日本経済について一通りの知識が身につきます。実は私自身も若い頃、この本の前身にあたる本を何回か担当しました。そして今でも、企画や制作の段階で見出しや目次を確認しています。今回は何が日本経済の重要テーマなのか、どの論点を取り上げるべきなのかを見ながら、自分自身も日本経済の動きを改めて整理しています。

 日々のニュースだけでは知識が断片的になりがちですが、この本を読むと経済の仕組みや実態をきちんと理解するのに役立ちます。

長野:リビングに一冊置いておきたくなりますね。ニュースを見ていてよく子どもに質問されるのですが、基本を押さえたこういう本が手元にあると、一緒に見ながら調べることができるので、親子それぞれがスマホで調べるよりも良い時間が過ごせそうです。

カラーの図解で見やすく、分かりやすく
カラーの図解で見やすく、分かりやすく

今の経済論議を理解するための入り口に

平井:この『 自由な経済と強い国家 サナエノミクスとは何か(日経プレミアシリーズ) 』は、まさに今の経済や政策を考えるうえで中心となるテーマを取り上げた一冊です。著者の若田部昌澄さんは、日本銀行の前副総裁で、現在は早稲田大学の教授を務めながら、経済財政諮問会議の民間議員として政策形成にも関わっています。

『自由な経済と強い国家 サナエノミクスとは何か(日経プレミアシリーズ)』(若田部昌澄著)。経済政策をめぐる論点を明快に
『自由な経済と強い国家 サナエノミクスとは何か(日経プレミアシリーズ)』(若田部昌澄著)。経済政策をめぐる論点を明快に

 日本では、長く続いたデフレからインフレへの転換が進んでいます。金利のある世界が戻りつつあり、物価や賃金、財政運営のあり方についても活発な議論が行われています。

 その中で、「成長率と金利はどのような関係にあるのか」「国の借金をどう考えるべきか」「政府はどこまで経済に関与するべきか」といったテーマが改めて注目されています。本書は、そうした論点について経済学の考え方、現状分析を手がかりに整理してくれます。

 特に、近年の政策論議に関心がある方には興味深いと思います。高市政権の経済政策、いわゆる「サナエノミクス」がどのような経済学の考え方を背景としているのかを知る手がかりにもなります。賛成か反対かは別として、まずはどのような考え方に基づいて政策が議論されているのかを理解することが大切です。

 その意味で本書は、経済政策をめぐる現在の議論を考えるための良い入り口になると思います。

日経平均6万円超の今、大切なのは「どう備えるか」

宮崎志乃(以下、宮崎):今は、経済の動きに関心が高まっていますよね。続くこの『 「日経平均10万円」時代に備えろ(日経ビジネス人文庫) 』は、2024年刊行のヒット作『「日経平均10万円」時代が来る!』に100ページ超の新規原稿を加えた、読み応え抜群の最新決定版。

 単行本刊行当時は3万円台だった日経平均は、その後4万円、5万円と駆け上がり、2026年6月には7万円も超えました。新NISAでオルカンを毎月積み立てている方も、「本当にこれだけでいいの?」と一度は思ったことがあるはずです。そんな方にお薦めしたいのが、投資信託「ひふみ」シリーズの生みの親として知られる人気投資家・藤野英人さんの本書です。

『「日経平均10万円」時代に備えろ(日経ビジネス人文庫)』(藤野英人著)。乗るべき"地味な株”とは? 備えるべき“10の指針”とは? 「投資の現在地が分かります」(宮崎)
『「日経平均10万円」時代に備えろ(日経ビジネス人文庫)』(藤野英人著)。乗るべき"地味な株”とは? 備えるべき“10の指針”とは? 「投資の現在地が分かります」(宮崎)

 「10万円」はすでに既定路線で、大切なのは「どう備えるか」だと藤野さんは説き、インフレの定着、AI革命、地政学リスクなど、投資環境の“現在地”を整理しながら日本株の長期上昇シナリオを解説します。ねらい目は国の成長戦略に乗る「地味な株」。一方で、10万円時代は格差が広がりやすいと指摘し、「10の指針」を示します。読者の皆さんからは「ものの見方も変わる」「就職活動にもお薦め」「具体的銘柄があるのもいい!」との声が、続々と届いています。

金融の歴史を動かした男が語る、資本主義の最前線

平井:そして、金融や起業に関心のある方なら、ぜひ読んでいただきたいのが、刊行したばかりの『 「伝説のバンカー」と呼ばれた男 スタートアップを圧倒的に成長させる仕事術 』です。本書の著者は、大櫃直人さん。みずほ銀行でスタートアップ支援に力を尽くし、メルカリ、マネーフォワード、タイミーなど、日本を代表する企業の成長を後押ししてきたことで知られています。NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも取り上げられ、大きな反響を呼びました。

『「伝説のバンカー」と呼ばれた男 スタートアップを圧倒的に成長させる仕事術』(大櫃直人著)。豊富なエピソードから、一流の伴走者の「信頼を築く力」が見えてきます
『「伝説のバンカー」と呼ばれた男 スタートアップを圧倒的に成長させる仕事術』(大櫃直人著)。豊富なエピソードから、一流の伴走者の「信頼を築く力」が見えてきます

 大櫃さんは、ただの「優秀な銀行マン」ではなく、多くの起業家たちに心から信頼され、頼りにされる存在でした。スタートアップ経営者にとって銀行はお金を借りる相手ですが、大櫃さんはそれだけではありません。事業の相談相手であり、人脈をつなぐ存在であり、ときには人生の先輩でもありました。銀行員というより伴走者のような存在かもしれません。

 そういったこともあり、本書にはメルカリ会長の小泉文明さんや、マネーフォワード社長の辻庸介さんも推薦の言葉を寄せてくださいました。顔ぶれを見るだけでも、この方がスタートアップ界でどれだけ尊敬を集めていたかが分かります。

長野:日経BOOKプラスでもこの『伝説のバンカー』の本から抜粋した記事を掲載しています。「メルカリの創業者は穴だらけのジーパン姿だった」とか、「マネーフォワード社長は自転車移動もいとわなかった」とか、「タイミーの代表は何を聞いてもパーフェクトに答えた」とか、どの記事も、バンカー大櫃さんだからこそ見てきた景色、リアルなエピソードから感じられるスタートアップ界隈(かいわい)の皆さんのお人柄など、興味深く読みました。

平井:金融の世界の本でありながら、実際には「人を見る力」「信頼を築く力」「仕事で人を応援する力」を描いた本でもあります。市場は数字で動いているように見えて、最後は人が動かしています。本書を読むと、そのことを改めて実感します。リーダーシップや人間力についての本としても読めると思います。

資本主義の歩みをたどる古典

平井:そして、この『 大いなる変貌 私たちの時代の政治と経済の起源 Ⅰ Ⅱ 』は、今回のラインアップの中では、最も骨太な作品ですね。経済思想や社会科学の分野ではよく知られた古典です。

 著者のカール・ポランニーは20世紀を代表する経済思想家の一人です。本書はこれまで日本では『大転換』というタイトルで親しまれてきましたが、今回、新たな訳で『大いなる変貌』として刊行されました。

『大いなる変貌 私たちの時代の政治と経済の起源 Ⅰ Ⅱ』(カール・ポランニー著、大野一訳)。「日経BPクラシックス」シリーズ30作目は、2冊合わせて598ページ
『大いなる変貌 私たちの時代の政治と経済の起源 Ⅰ Ⅱ』(カール・ポランニー著、大野一訳)。「日経BPクラシックス」シリーズ30作目は、2冊合わせて598ページ
画像のクリックで拡大表示

 本書は「日経BPクラシックス」の一冊でもあります。日経BPクラシックスは、経済学や経営学、政治学、哲学などの重要な古典を、現代の読者が読みやすい言葉で紹介してきたシリーズです。単なる復刊ではなく、新たな翻訳を通じて古典を読み継いでいこうという試みでもあります。

 本書はひと言でいえば、市場経済と社会の関係を歴史的に考察した本です。私たちは今の市場経済を当たり前のものとして受け止めていますが、それがどのような過程で成立し、社会や国家とどのような関係を築いてきたのかをたどり、4つの制度のもとに成り立っていた19世紀の文明がいかにして崩れたかを論じます。

 マーク・トウェインの有名な言葉とされるものに、「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」というものがありますが、激変の時代といわれる今も読まれる価値の高い本だと思います。

長野:最新ニュースで経済を読み解く本から、長く読み継がれてきた古典まで、今回も幅広いラインアップですね。次の一冊は、発売と同時に大きな反響を頂いた注目の本ですね!

優秀な人が集まってなぜか残念な結果になるモヤモヤ

宮崎:はい、この『 なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか 身近な疑問からみる日本型組織の「無駄の構造」 』は、タイトルに思わず「それな!」と思われた方も多いのではないでしょうか。一人ひとりは優秀で誠実なのに、会議になると「慎重に検討しましょう」という誰も反対できない結論に着地する。会議のあと、「で、結局何が決まったんだっけ?」とつぶやいている。そんな経験をお持ちの方も少なくないはずです。

『なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか 身近な疑問からみる日本型組織の「無駄の構造」』(太田肇著)。「組織的茶番を何とかしたい」気持ちを表現中です
『なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか 身近な疑問からみる日本型組織の「無駄の構造」』(太田肇著)。「組織的茶番を何とかしたい」気持ちを表現中です

 著者の太田肇さんは、同志社大学名誉教授で組織学の研究者です。本書は、「本当のことを言ってはいけない」空気や、「裏の承認」を得ないと評価されない構図、「自分にとって都合がいい人間かどうか」という裏の評価基準など、日本企業の“組織的茶番”を生むメカニズムを身近な疑問から解きほぐします。

 期待の新入社員が、なぜ凡庸な中堅になってしまうのか。抜擢(ばってき)されるのは、なぜ保守的な人ばかりなのか。職場で繰り返される「あるある」の理由を、説得力たっぷりに解き明かします。

長野:日経BOOKプラスでは、「賢い人が集まっているのになぜか残念な結果になるモヤモヤ」を著者の太田肇さんと一緒に考える企画として、SNSのXを使ったハッシュタグを活用して、読者の皆さんから「組織的茶番」エピソードを集めているんです。>>【なぜうちの会社は「しょうもない」のか 日本企業の「組織的茶番」を募集】

 本の抜粋をもとにした連載【なぜ「賢い人」が集まってもしょうもない意思決定がなされるのか】の記事も、多くのビジネスパーソンに読まれました。この連載は他の記事に比べると若手や中堅層に人気なんですよ。「『全方位忖度マシーン』と化す管理職」「多すぎるルールが招くしょうもない結末」などのキーワードが刺さった読者の皆さんは、まさに「なぜ、しょうもない意思決定がなされるのか」と感じてきた当事者なのではないかと思います。皆さんの「組織的茶番」エピソード(#組織的茶番で投稿)、お待ちしています!

宮崎:本の後半には「イヌ型」から「ネコ型」マネジメントへという処方箋も紹介されます。後輩や部下を持つ方はもちろん、会議での発言をためらいがちな方にも効く注目の一冊です。

AI時代だからこそ問われる「知的生産力」

平井:次に紹介するのは、とにかく読者から厚い支持を得ている著者二人による『 知的生産のセンス 』です。著者の山口周さんと楠木建さんは、いずれも多くの読者を持つ人気著者です。経営やビジネスを論じるだけではなく、ともに筋金入りの読書家であり、幅広い教養を備えた知識人として知られています。本書の魅力は、「どうすれば仕事ができるようになるか」という単純なハウツー本ではないことです。

『知的生産のセンス』(楠木建、山口周 著)。AI時代に、人はいかに生き、いかに学ぶべきか。改めて考えるきっかけに
『知的生産のセンス』(楠木建、山口周 著)。AI時代に、人はいかに生き、いかに学ぶべきか。改めて考えるきっかけに

 生成AIの登場によって、情報を集めたり整理したりするコストは大きく下がりました。しかし、何に興味を持つのか、何を面白いと思うのか、何に違和感を覚えるのかは、依然として人間の役割です。まさに「センス」ですね。

 二人が繰り返し語るのは、自分の感性や好き嫌いを大切にすることの重要性です。効率や正解ばかりを追い求めるのではなく、自分が面白いと思うものに触れる。気になる本を読む。違和感を掘り下げて考える。そうした積み重ねが、最終的にはその人ならではの知的生産につながっていく。

 AI時代だからこそ、むしろ人間の側に求められるのは知識量ではなく、何に価値を感じるかという審美眼なのかもしれません。

 知識のインプット術というより、生き方や学び方そのものを考えさせてくれる本といえます。読書好きの方はもちろん、これから教養を身につけたいと考えている若い世代にもお薦めしたいです。

長野:次に紹介する本は、山口さんと楠木さんの「感性を大事に」というメッセージに通ずる部分がありますね。

自分の言葉を取り戻す言語化論

宮崎:この『 感性を言葉にする 「自分の言葉」で生きるための教科書 』はまさにタイトルの通り、自分の感性を言語化する方法が書かれています。

『感性を言葉にする 「自分の言葉」で生きるための教科書』(園部泉子著)。AIが整えてくれた“それらしい言葉”に頼る毎日になっていませんか?
『感性を言葉にする 「自分の言葉」で生きるための教科書』(園部泉子著)。AIが整えてくれた“それらしい言葉”に頼る毎日になっていませんか?

 おいしいものも、感動した映画も、とりあえず「ヤバい」と言ってしまったり、AIが整えてくれた“それらしい言葉”を、そのまま送信したり……。そんなとき、自分が本当に感じていたことが、つい置き去りになっていないでしょうか。著者の園部泉子さんは「言葉は心の血液」と言い切り、「人生の満足は、その時々に感じたことを感じたままに実現できるかどうかにかかっている」と説きます。

 本書が目指すのは、「誰かに伝える技術」ではなく「自分の言葉を取り戻す技術」。感性は特別な訓練で手に入れるものではなく、例えば、五感を意識するだけで「鈴虫の声が眠るときに心地よい」「キンモクセイの香りで秋が来たと分かる」といった自分の行動や世界の見え方まで変えてくれる言葉が自然と引き出されるといいます。「いらない言葉を捨てる」「美の記憶を増やす」など、仕事や暮らしで試せるヒントが満載。整えられた言葉があふれる今だからこそ、手に取りたい一冊です。

ベストセラー100冊から見えてくる「聞く力」

平井:AI時代に求められるインプットやアウトプットという文脈で、『 「聞く力のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。 』も紹介したいと思います。著者たちが何冊も手掛けてきた「ベストセラー100冊」シリーズの最新作です。「聞く力」をテーマにしたベストセラー100冊を読み込み、そのエッセンスを整理した本です。

『「聞く力のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(藤𠮷豊、小川真理子 著)。累計29万部、人気の「ベストセラー100冊」シリーズ第7作です
『「聞く力のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(藤𠮷豊、小川真理子 著)。累計29万部、人気の「ベストセラー100冊」シリーズ第7作です

 例えば、話を聞きながらメモを取ることにはどんな効用があるのか。感情的な人や怒りをぶつけてくる相手とどう向き合うのか。相手の話を受け止めながらも、自分自身が消耗しないためにはどうしたらよいのか。そうした実践的なテーマが数多く紹介されています。

長野:日経BOOKプラスで本書の抜粋連載【「聞く力のベストセラー100冊」のポイントが教えるうまい聞き方のコツ】をお読みいただけます。

平井:部下との面談でも、お客様との商談でも、取材でも、家庭での会話でも、相手の話をどう聞くかは大切です。本書を読むと、そうしたテーマについて多くのベストセラーがどんな答えを示しているのかを俯瞰(ふかん)できます。

 100冊すべてを読むのは大変ですが、この本から全体像をつかむことができますし、その中から「この本を読んでみたい」と思う一冊に出会うこともできます。「聞く」という、ごく当たり前でありながら奥の深いテーマについて、幅広い知見を効率よく学べる本だと思います。

人生の曲がり角で元編集者が向かったのは…

宮崎:さて、ここからは文芸作品を。弊社では今年4月、朝井リョウさんの『 イン・ザ・メガチャーチ 』が「2026年本屋大賞」を受賞し、大きな反響をいただきました。

 続く文芸作品としてご紹介するのは『 折れた岬 』。本格ミステリの第一人者・有栖川有栖さんが日本経済新聞の夕刊に連載した、久々のノンシリーズ長編です。

『折れた岬』(有栖川有栖著)。本格ミステリの第一人者、久々のノンシリーズ長編。「この作品はミステリなのか否か」。秋の夜長にじっくりお確かめください
『折れた岬』(有栖川有栖著)。本格ミステリの第一人者、久々のノンシリーズ長編。「この作品はミステリなのか否か」。秋の夜長にじっくりお確かめください

 主人公は、還暦過ぎまでミステリ畑で名を馳せた敏腕編集者です。リタイアして、南伊豆の海が望めるロッジへ移り住みますが、そこは自らがデビューに立ち会った覆面作家が、ある日忽然(こつぜん)と姿を消した家でした。あれから9年──謎を解くのは自分の使命だと考えて……。なぜ、彼はそう思い立ったのでしょう。

 著者初の“白秋”小説(人生の秋を描く小説)で、「この作品はミステリなのか否か」という問いも刺激的です。仕事一筋で走ってきた人が、人生の曲がり角で何を選ぶのか──512ページもの大著ですが、秋の夜長にじっくり浸りたい一冊です。

平井:還暦過ぎまで仕事をしていた編集者という設定も、なんだかとても気になりますね。

長野:日経BOOKプラスでは有栖川さんのインタビュー連載【有栖川有栖 『折れた岬』】をスタートしました。第1回では、本書の着想と初めての新聞連載への思いについてお聞きしています。

直木賞作家の、好奇心のカタログ

宮崎:続いては、直木賞受賞作『黒牢城』や〈古典部〉〈小市民〉シリーズで知られる米澤穂信さんの『 談話室米澤 』です。

『談話室米澤』(米澤穂信著)。デビュー25周年を記念したエッセイ集。背景は談話室風に本書について語り合う3人です
『談話室米澤』(米澤穂信著)。デビュー25周年を記念したエッセイ集。背景は談話室風に本書について語り合う3人です

 デビュー25周年を記念したエッセイ集で、各媒体に書いた全68編を厳選して収録。帯にも「好奇心は、仕事なのです。」とあるように、題材は歴史、食べ物、建造物と実に多彩です。日本で三番目ぐらいにうまい麻婆豆腐を作り、丘の上の図書館に絶大な信頼を置き、スコーンを食べ比べ……。「そこまで調べる?」と思わず笑みがこぼれますが、気がつけば、自分の好奇心にも火がついています。

 目次には「目黒川の桜と共犯関係」「都立中央図書館とレファレンス」「東慶寺と解体されたアジール」と、気になるタイトルがずらり。ビター&スイートな文章は、どの一編も極上の味わいです。小説はあまり読まない、忙しくて本なんて、という方も、通勤時間や休憩時間に一編ずつお楽しみいただけます。

長野:日経BOOKプラスでの米澤さんの連載【『談話室米澤』の世界】も人気でした。今回の書籍づくりの裏話を担当記者や表紙を手掛けたイラストレーターと一緒に、ユーモアたっぷりに語っていただいています。書籍と合わせて読むと味わいが深まりそうです。

 平井さん、宮崎さん、今回もさまざまなテーマの本のご紹介、ありがとうございました!

平井&宮崎:気になる本がありましたらぜひ書店で手に取っていただき、充実した秋の読書時間を過ごしていただけたらうれしいです。

読書の秋、「日経の本」がお役に立ちます!
読書の秋、「日経の本」がお役に立ちます!
画像のクリックで拡大表示

写真=馬本寛子 構成=大松佳代、坂巻正伸(日経BOOKプラス 手前みそ班)