日経BPの技術系メディアの編集長らが選定した、注目すべき技術100件を解説する『日経テクノロジー展望2025 世界を変える100の技術』が発刊。ビジネスパーソン約600人の協力の下、「2030年において重要度が高い」技術のランキングなども掲載している。本コラムでは「日経トレンディ」の澤原昇編集長が「もっと知りたい!」と注目する技術について、記事を執筆した専門記者に話を聞く。「技術の解説? 難しそう…」と尻込みせず、ぜひご一読を。最先端の技術解説も、きっかけは記者の好奇心だったり、日頃の疑問だったり。「100の技術」を身近に感じていただければうれしい。第1回は「完全自動運転」について。

人が主体のレベル2、システムが主体のレベル3

澤原昇(以下、澤原):「完全自動運転」は『世界を変える100の技術』の「2030年のテクノロジー期待度ランキング」で1位となっています。「運転はクルマにすべて任せて、自分は車内で仕事をしたり、映画を楽しんだりできる」。そんな夢の世界は、いつ頃やってくるのでしょう?

(写真:Gorodenkoff/stock.adobe.com)
(写真:Gorodenkoff/stock.adobe.com)

高田隆(以下、高田):自動運転について日本では国土交通省が自動化の度合いに応じて5つのレベルを定義していて、運転者不要で運転のすべてをクルマに任せる「完全運転自動化」は“最高難度”のレベル5になります。自動車メーカーはこぞって自動化技術の開発に取り組んでいて、すでに「条件付運転自動化」に対応した市販車なども登場していますが、「完全運転自動化」が普及するのはしばらく先になりますね。

澤原:ちょっと話のアクセルを踏みすぎましたね(笑)。まずは現状の解説からお願いします。

高田:レベル1というのは「運転支援」。自動運転のベースとなる仕組みで、例えば自動でブレーキがかかる、前のクルマを追尾する、車線からはみ出さないで走る、といった自動制御のいずれかが実現できるレベルです。

 レベル2は「部分運転自動化」。レベル1の技術を組み合わせて、高速道路でも一般道でも、自動でブレーキがかかり、車間距離をキープしながら車線の中央を走ることができる。レベル2の運転操作の主体は「人」で、システムはその支援を行います。

 レベル3は「条件付自動運転」。自動ブレーキ、自動追尾、自動車線キープといった働きはレベル2とほぼ同様ですが、レベル3の主体は「システム」である点が大きな違いです。

高田隆(たかだ・たかし)日経Automotive & 日経クロステック シニアエディター/1984年、日本経済新聞社入社。記者・編集者歴は2024年時点で40年に達する。日経BPでは、「日経メカニカル(現・日経ものづくり)」、「日経ニューマテリアル(休刊)」、「日経ビジネス」で素材業界(鉄鋼、化学)を取材、「日経ニューメディア」では放送業界のデジタル化を追いかけた。2014年から自動車業界を担当。Web媒体「日経クロステック」と紙媒体「日経Automotive」で、クルマの安全(予防安全・衝突安全)分野を精力的に取材している(写真:尾関祐治)
高田隆(たかだ・たかし)日経Automotive & 日経クロステック シニアエディター/1984年、日本経済新聞社入社。記者・編集者歴は2024年時点で40年に達する。日経BPでは、「日経メカニカル(現・日経ものづくり)」、「日経ニューマテリアル(休刊)」、「日経ビジネス」で素材業界(鉄鋼、化学)を取材、「日経ニューメディア」では放送業界のデジタル化を追いかけた。2014年から自動車業界を担当。Web媒体「日経クロステック」と紙媒体「日経Automotive」で、クルマの安全(予防安全・衝突安全)分野を精力的に取材している(写真:尾関祐治)

澤原:運転操作をシステムが主体で行う。“自動運転感”がぐんと高まりますね。

高田:といっても、あくまで「条件付」で、何かトラブルが発生したら“運転権”は人に返される仕組みです。つまり、常に人がハンドルを握っていることが前提になります。走行できる場所も、歩行者がいて交差点があって…と複雑な条件の一般道ではなく、現在は高速道路や自動車専用道路にとどまっています。

 これがレベル4の「高度運転自動化」になると、高速道路など一定の条件下で、システムがすべての運転操作を行います。そしてレベル5の「完全運転自動化」は、常にシステムがすべての運転操作を行う。

 日本では現在、レベル2の仕様が新車にどんどん採用されていて、レベル3についても、2021年にホンダが世界で初めてレベル3の自動運転システムを「レジェンド」に搭載、100台限定で販売しました。

出典:国土交通省「自動運転の実現に向けた国土交通省の取り組み」参考資料
出典:国土交通省「自動運転の実現に向けた国土交通省の取り組み」参考資料
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まずは高速道路の大渋滞で

澤原:身近になったレベル2、なりつつあるレベル3、便利さを実感できるのはどんな点ですか。

高田:例えば、高速道路の大渋滞のときです。前のクルマが動き出すのをひたすら待ち、わずかに前進したら、それに合わせてわずかに前進…。これがず~っと続くのはドライバーにとって何とも苦痛ですが、レベル2のクルマなら先行車を自動追尾してブレーキとアクセルは自動制御してくれますから、ドライバーは基本的にハンドルを握っておけばOK。

澤原:私もレベル2のクルマを運転したことがありますが、渋滞時のストレスは確実に減りますね。

 ただ、通常の運転をしているとき、どうも違和感があるんです。ブレーキのタイミングやレーンキープの仕方が自分の感覚と違っていて…。

高田:分かります。ハンドルの戻しのタイミングとか。

澤原:運転に不慣れな友人が運転するクルマに同乗しているとき、ブレーキのタイミングが自分の感覚よりずいぶん遅かったりして、「うわ!怖いな…」と思ったりする、あれに近いかな。

高田:そうした違和感については、なくすための工夫が各メーカーでいろいろ行われています。

澤原:おぉ、そうなんですね。

高田:車載のカメラや測距測位センサーなどの性能が向上して周囲の状況をより正確に把握できるようになっているほか、たくさんのドライバーの運転行動データを分析することで、より的確なブレーキのタイミングやレーンキープができるように改善が進んでいます。

澤原:私の運転行動データを基にした澤原仕様のカスタマイズができるようになったりすると、快適さもより増しそうだなぁ。

澤原昇(さわはら・のぼる)日経トレンディ編集長/1984年生まれ、おばあちゃんの原宿こと巣鴨出身。モノ雑誌の編集者、書籍編集者を経て、「日経トレンディ」編集部に在籍。家電や日用品などのモノ系から副業、株などのマネー系、はたまた書籍時代は健康本など幅広いジャンルを担当。「仕事と思えばなんでもできる」というポリシーのもと、突撃取材から徹底テスト記事まで体当たりでこなす。プライベートではひたすら漫画を読むだけの人。2022年1月から現職(写真:尾関祐治)
澤原昇(さわはら・のぼる)日経トレンディ編集長/1984年生まれ、おばあちゃんの原宿こと巣鴨出身。モノ雑誌の編集者、書籍編集者を経て、「日経トレンディ」編集部に在籍。家電や日用品などのモノ系から副業、株などのマネー系、はたまた書籍時代は健康本など幅広いジャンルを担当。「仕事と思えばなんでもできる」というポリシーのもと、突撃取材から徹底テスト記事まで体当たりでこなす。プライベートではひたすら漫画を読むだけの人。2022年1月から現職(写真:尾関祐治)

安全第一、慎重な日本メーカー

澤原:そうして様々な制御技術が向上した先に、システムがすべてを行うレベル4の時代が来る。楽しみです。

高田:メーカー各社、研究や実証実験に熱心に取り組んでいますから技術面の革新や改善はどんどん進んでいきます。例えば農地では無人のトラクターが農作物の収穫を行ったりと一定の条件下ではすでに現実化していますし、社会実装に近づいているのは確かです。

 しかし街なかでの自動車の運転というのは、改めて考えてみると、非常に複雑な判断や行動が組み合わさっていますよね。例えば、交差点で進もうとしたら、横から自転車が走ってきた。このとき、例えば「減速して先に行かせる」という判断をするにあたっては、自転車の走行コースや速度などのほか、後続車に追突される危険はないかなども含め、瞬時に判断する必要がある。

(写真:kinwun/stock.adobe.com)
(写真:kinwun/stock.adobe.com)

澤原:人間のドライバーは普通にやっていることですが、センサーとAIが大量かつ複雑な情報を瞬時に収集・分析してアクションすると考えると、非常に高度な処理能力が必要であることが分かります。いやぁ人間、改めてすごいな。

高田:危険を予知する、リスクを先読みするための技術は、自動運転の普及に必須のものです。

澤原:先ほどの交差点では「ブレーキ操作で減速して先に行かせる」という判断のほかに、「アクセル操作で加速して先に通過する」という判断もあり得ますよね。その瞬間、人が運転している場合、「先に行ったほうがよさそうだけど、いや、アクセルを踏んで万一事故ったらやばいよな」といった考えが一瞬よぎったりして、その迷いが事故につながったりするかもしれない。その点、高性能なセンサーとAIが情報処理の結果として迷いなく最適な答えを出すなら、そちらのほうが安全? いや、そうとも限らないか…。

高田:現状は「自動ブレーキが衝突回避に有効」といったシンプルなイメージですが、人間のドライバーが不在のレベル4の世界では、もっともっと複雑かつ高度な判断の精度が必須。何より「安全第一」を重視する日本メーカーは慎重な取り組みが目立ちます。

 例えばトヨタで自動運転技術の話を聞くと、「これはレベル3をクリアする技術です。こちらは4をクリアする技術です」のような説明にはならないんです。示された基準を満たすことが目的ではなく、万一にも事故を起こさないためには何が必要か、というアプローチですから、実証実験にも時間がかかるし、実装には慎重になる。

(写真:尾関祐治)
(写真:尾関祐治)

澤原:いわゆる交通事故に関して法律的にはどうなるのでしょう?

高田:人間のドライバーが事故を起こした場合、当然その責任はドライバーにあり、責任比率は…という話になりますが、完全自動運転車の場合はどうか。法律の専門家に聞くと、現状は普及前なのでまだ詳細はグレーながら、メーカーが責任を問われる可能性があります。これもメーカー各社が慎重になる一因です。

澤原:警察庁によると2023年の交通事故死者数は2678人。かつては1万人を大きく超えていたのが、1995年に下回って以降ほぼ毎年減少を続けていたと聞くと、ずいぶん少なくなったと感じますが、8年ぶりに前年比68人も増加した数字だと聞くと、安全性能が向上している中で何があったのかと戸惑います。

 いずれにしろ、自動車が人の命を奪い得るものだと自覚することで、運転するときは安全第一を改めて心がけるとして、例えばすべてをシステムに任せた自動運転車の中で本を読んでいたら事故が起きてしまった。その当事者になったら、どう感じるんだろう。もし法律上すべてメーカーの責任だとされても、自分は関係ないとは割り切れないんじゃないかな…。

高田:革新的な技術が普及するとき、それまでの当たり前が当たり前でなくなる場面がいろいろ出てきますね。

澤原:社会が、個人が、新しい仕組みをどう受け入れていくのか。様々な議論が重ねられていくことになるのでしょうね。

中国と米国が先行、日本は人手不足対策から

澤原:海外の状況はどうですか。

高田:先行するのは中国。政治体制が違いますから、ひとたび「自動運転を推進すべし!」となれば、法律の改正などもどんどん進んで、すでに無人のタクシーが市街を走っている。例えば、武漢ではIT大手の百度(バイドゥ)が2022年から無人運転タクシーの商用サービスを始めています。

 そもそも先行していたのは米国で、米アルファベット傘下のウェイモは2018年にアリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーの商用サービスを開始。当初は安全確保のために有人で運営していましたが、2019年に無人運転のサービスを始めています。

 現状は中国と米国が2強、それを欧州と日本が追う構図です。

澤原:日本ではどのような形で普及が進みそうですか。

高田:運輸業界の「人手不足」対策は一つの突破口になるかもしれません。例えば、高速道路で定期ルートを走るトラック。深刻なドライバー不足への対応策としてレベル4の導入は当然、選択肢となり得るでしょう。あるいは、地方の定期運行バス。こちらもドライバーを確保できず、高齢化が進む住民は免許を返納していて日常の買い物や病院通いなどにも困る…という現実がある。定期ルートで、交通量も少なく事故のリスクも比較的低い地域で導入するのは、ニーズとリスクのバランスが取れると関係者が判断するポイントになり得る。

澤原:維持コストは高くなりそうですが…。

高田:そのあたりは、例えば自治体が第3セクター方式で補助金を付けるとか、国の支援のようなサポートが必要になるでしょう。

澤原:社会的な課題や負担、これもしっかり考えるべき問題ですね。

(写真:尾関祐治)
(写真:尾関祐治)

運転免許は? 選び方は?

澤原:最後にちょっと視点を変えて「個人が運転から解放された世界」について質問させてください。

高田:完全自動運転が定着した世界、ということですね。

澤原:運転免許、なくなりますかね?

高田:日本だと恐らく「システム監視者としての資格」のような仕組みができるのではないでしょうか。運転免許とは別に。

澤原:そうか、趣味で運転する人は運転免許が要りますね。

高田:運転が好き、エンジンが好き、という人は確実にいますから。運転席のない自動運転車がたくさん走る中を、人間が運転するクルマも走るという形になってくる。

澤原:今は「自動運転の安全性が課題」とされているけれど、将来、自動運転車だけなら互いに制御が効いて整然と走る中に、人間が運転するクルマがノイズとして混じるということになるのか。人間がクルマを運転できるのは決められたエリアだけにしよう、みたいな話が出てくるかも…。

(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
(写真:metamorworks/stock.adobe.com)

高田:クルマの買い方も変わるでしょうね。完全自動運転が一般化するということは、自動車のハードもソフトも、ある意味“完成形”に近づいた状態。ハード面での差異はもはや少なくなり、運転の主体となるソフト=システムを常に最新化させながら価値を生み出していく「SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)」が主流となれば、「5年乗ったし、そろそろ買い替えるか」的な従来の購買行動は発生しにくいでしょう。

澤原:iPhoneも、もはやハードは十分な高性能で、OSの差もわずか。新製品が出たら即買い替えという人は少なくなっている。クルマもそうなってくるわけですね。

高田:差異化のポイントが、例えば「運転から解放された人がいかに車内で楽しく有意義に過ごせるか」になってくれば、参入を表明しているソニーやシャープなどの出番。もちろん、既存の自動車メーカーも手をこまぬいているはずはなく、今は関わりがないと思われている様々な企業も新たなチャンスを狙っている。「完全自動運転の世界」は現時点ではまだ想像もつかない合従連衡などを経た先にあるのでしょう。

澤原:目が離せませんね。

(写真:尾関祐治)
(写真:尾関祐治)

(構成:坂巻正伸=日経BOOKプラス編集部)

日経の専門誌編集長やラボ所長が「世界を変えていく技術」を100件選び、分かりやすく解説。例えば、完全自動運転、介護ロボット、産業メタバース、AIエージェント、火星衛星探査、ペロブスカイト太陽電池、海洋デジタルツイン、ギガキャスト、ダイヤモンド半導体、代理親魚技法、ドローン医薬品配送…。「5年後」に備えて、ぜひご一読を。ビジネスパーソン600人が選ぶ「2030年のテクノロジー期待度ランキング」も掲載。

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